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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章:LV1から積み上げたものだけが本物だ

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「認めてないから!(任せた)」

 採掘組合(さいくつくみあい)の幹部が広場にやってきたのは、午後も半ばのことだった。


 頭がはげているでっぷりと太った中年の男で、大量の書類を小脇に抱えていた。(むね)のバッジがやけに光っていた。田中が安全帯の点検をしていると、遠慮がちに近づいてきて、遠慮がちではない声で言った。


挿絵(By みてみん)


「こちらの安全帯だが、ギルド側で規格を統一する方向で話を進めたい。今後の流通・品質管理は組合(くみあい)を通してもらう。手続きについては——」


中抜(なかぬ)きだろ」と田中が言った。


「い、いや、規格の管理という意味でして——」


「名前を変えても構造は同じだ。論外(アウト)だ」


 それだけ言って、田中は帳面に視線を戻した。幹部が書類を広げた。「しかし手続き上、直接取引には組合(くみあい)の承認が——」


 ギルが一歩前に出た。没落(ぼつらく)した貴族服はまだぼろぼろのままだったが、書類に向ける目つきは静かに整っていた。斜めに一度だけ眺めて、幹部に返した。


「この書類の様式、三年前の旧規定のものだ。改正後の直接取引条項に基づけば、組合(くみあい)の介入は任意——強制できない」


 幹部が止まり、ギロリとギルをにらむ。「……どこで調べた」


「貴族の家には法令書がある。読んでいた。それだけだ」


 幹部は大量の書類を持ったまま、小さく会釈して広場を出ていった。トルネコが横でにんまりした。「ギルさん、ええ仕事しますなあ〜。貴族の知識がここで光りましたで」


「……別に」とギルが言った。誇る気にも、照れる気にもなれなかった。なぜかわからなかった。


「ちなみにお礼に一割ほど分けてもらえると〜」とトルネコが続けた。


「商人の嗅覚(きゅうかく)だな。削れ(コストカット)」とギルが言った。


「田中さんみたいな返しを——」


論外(アウト)だ」


「かないませんわ〜!!」


 田中が帳面を閉じた。「発光ランプのセット販売、次の工程に入れ。アルス、見本品を持ってこい」


「はい!!師匠、腹筋は続けながらでよいですか!!」


「好きにしろ」


「続けます!!(ぴょん)」


 ギルがアルスを見た。腹筋うさぎ跳びの姿勢のまま木箱を両手で抱えて移動している。荷物が揺れていない。「……なぜあの姿勢で荷物を持てるんだ。しかも揺れていない」


習慣(しゅうかん)(つちか)った技術テクニックだと思います」とエリュシアがやれやれだわ、という面持ちで静かに言った。


「……そういうものか」


「私も、よくわかりませんが、そういうものです」


 アルスがぴょん、と段差を越えた。木箱が一ミリも動かなかった。ギルは何も言わなかった。鉱夫の一人が小声で「腹筋マン(アルス)、化け物か」と言った。田中が振り向かずに言った。「腕立て千回・腹筋一万回の成果だ。常識だろうが」 


その言葉には誰も何も返せなかった。


******


 同じ頃、魔界では――。


 ゾルグが魔導糸電話の糸を握ったまま、硬直していた。グレインがその腕をひとさし指で押さえていた。


「田中に(つな)ぐな」


「し、しかしグレイン様、反乱分子の動きが——」


「魔王様のお心を煩わせてはいかん。俺が片付ける。田中に頼む前に、俺がやる」グレインが短く言い切った。腕を組んで、広間の奥を向いた。「口出し無用」


 ゾルグが糸を下ろした。フィルナがその横で、柔らかく首を傾けた。「グレイン様、私もついて行きます〜」


「来るな」


「はい、参ります〜」


 グレインが振り返った。「お前、話聞いてたか」


「聞いていましたよ〜。でも何かお役に立てるかもしれませんし〜」


「……来い」 


******


「三方から囲む。俺が正面、お前は左から——」とグレインが言いかけたとき、フィルナがすでに別の方向を歩いていた。


「フィルナ」


「あら〜、こっちにも一人いますよ〜」


 グレインが舌打ちした。作戦を言い終わる前に四方向になっていた。(偶然だ)(認めない)


「……拾いました〜」


 フィルナが首根っこを押さえて戻ってきたのは、物陰に潜んでいた偵察役スカウトらしき男だった。にこにこしたままだった。


「グゥ」とグラがグレインの肩に——グレインは思った。いない。ドルガンだ。なぜかグラを探していた。


(した)打ちした。(なぜ探した)(関係ない)(翼竜に頼るつもりはない)(ただ、肩が少し軽い)(関係ない)(やっぱいてほしい)


 グレインが正面の扉を蹴り開けた。


 反乱分子が七人、一斉に振り向いた。目を()き「第二席次だ!!」と誰かが叫んだ。


「う る さ い」


 その一言で、三人が一歩後ずさった。


「魔王ネネ様がおられないのは、今でしかできない仕事をなさっているからだ。サボりじゃない。魔王様は魔界にいる——我々の言葉は、魔王様の言葉と思え。以上」


 声が広間に落ちた。首謀者らしき男が歯を食いしばったが、グレインの目を見て、視線を()らした。


 鎮圧。所要時間、二十三分。


******


 帰り道、グレインはフィルナの横を歩いていた。


「グレイン様って、田中さんみたいなこと言いますね〜」とフィルナが言った。


「認めてない」


「あら、でも確かに『以上』って——」


「認めてないから!!」


 フィルナがほわっと笑った。「でも()()()()()()()()()〜」


 グレインが黙った。頬が少し赤くなっているのを見て、フィルナは柔らかい笑みを少し浮かべていた。


******


 ドルガンで帳面を見ていた田中の手元で、魔導糸電話がブブッと鳴った。


「田中さん!!グレイン様が!!反乱が!!鎮圧が——!!」


「三行で言え」


 ゾルグが一瞬だけ止まった。「反乱・グレインが片付けた・報告以上」


 田中が少し黙った。


「グレインに任せとけ。以上」


 ブツッ。


 ゾルグが糸を持ったまま、動かなかった。


(……一秒でした)


(初回よりは長かった気がします)(気がするだけかもしれません)(次から計ります)(何のために計るのかはわかりません)(でも計ります)


******


 魔界の広間で、グレインはゾルグの顔を見た。ゾルグが糸を持ったまま何かを言おうとして、言えなかった。


「……何だ」


「田中さんから。『グレインに任せておけ』と」


 グレインが動きを止めた。腕を組んだ。窓の外を向いた。


(任せておけ、と言った)


(……(みと)めてないから!)


(でも、任された)


「……報告はそれだけか」


「はい。一秒で切れました」


「ならいい」とグレインが言った。視線を戻さないまま、肩を一度だけ落とした。ほんの一瞬だった。誰も見ていなかった——フィルナ以外は。


「グレイン様、お顔が——」


「言うな――」


「はい〜。でもみんな、よかったねぇ~」


 フィルナが小さく笑った。グレインは前を向いたまま、何も言わなかった。


******


**その頃、神界では――**


 ウルダの執務室に報告書が届いた。「魔界小規模反乱。魔王四天王・第二席次グレインが単独鎮圧。所要二十三分。被害なし。魔導糸電話にて報告・勇者田中より一秒で権限委任の言葉あり」


 ウルダが書類から目を上げた。「……一秒で」


「はい」


「……委任を」


「はい」


「……ドルガンから、糸で」


「はい。帳面を見ながらだったとのことです」


 ウルダが目を閉じた。「……寛大に、見守ります」


「寛大です」


 部下が小声で隣の者に言った。「今日は声が少し細かったです」「お疲れではないでしょうか」「でも『寛大です』と言われました」「それが主神の強さですね」「……そうですね」


**※おじさん解説!**


 中間搾取というのは昭和の現場では当たり前にあった話だ。問屋・組合・ギルド——名前は何でもいい、構造はどれも同じだ。作っている側でも売っている側でもない、ただ間に入って話を通すだけで利益を抜いていく。昭和の製造業が少しずつ利益を絞られていった理由の一つが、この「中に入りすぎた層」の問題だ。無駄(むだ)だ。削れ。常識だろうが。


  ところで皆さんご存じ、スーパーマリオブラザーズというゲームがある。任天堂が一九八五年に出した名作で、知らない人間はいない。あの世界にも組織があって、勇者(配管工だが)が姫を救いに行く。お城についたら「姫は別のお城にいます」と毎回言われる。これはある種の壮大な中抜きだ。

 

 ゴールを駆け抜け続けて、挑戦者のコストだけが八面分積み上がっていく。田中が見たら「そのクッパごと論外(アウト)だ、削れ(コストカット)」と言うだろう。


 だが、マリオは黙って次のお城へ向かった。説明しない。立ち止まらない。そのメンタルは昭和の現場と同じだ。――しかし、それも含めて当時のプレイヤーはコスト(時間)をかけて熱狂したのだ。これも常識だろうが。


******


**グレイン状況報告 第一回**


任務:魔界小規模反乱の鎮圧。

結果:完了。所要二十三分。被害なし。

フィルナが偶然役に立った。認めていない。

田中から「グレインに任せろ」という連絡があった。

一秒で切れた。

認めていない。でも任された。

三行で書けた。以上だ。

(四行になった。認めていない)


******


**神界業務日報 第六十回**


 本日の特記事項。


 魔界にて小規模反乱が発生しました。グレイン様が単独で鎮圧されました。


 田中さんがグレイン様に「任せろ」と言いました。一秒で切りました。


 怒られませんでした。私の「何かが足りない」は次回以降に記録します。


 以上です。


******


**魔王の家計簿 第六十回**


 本日の支出:なし。


 グレインが反乱を片付けた。魔界の経費が増えなかった。


 「魔王様は魔界にいる——我々の言葉は、魔王様の言葉と思え」とグレインが言ったそうだ。ゾルグが教えてくれた。我は今、ドルガンにいる。田中がいる場所に我がいる——それが我の居場所だ。

 

 我には信頼できる仲間たちがいる。千年間、なかったものだ。記録する。


 支出:0G。


【現在のステータス】


勇者 田中剛 LV:3 チート:無効

魔王 ネネ  LV:3相当 魔力:低下中

女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)

アルス LV:11

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