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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章:LV1から積み上げたものだけが本物だ

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「皿、一回も落としてないです」

 懐かしのベッカーに戻ったらルコが立っていた。

 皿を持っており、落としていなかった。

 常識だろうが。


 鉱山都市ドルガンへの街道はベッカーを経由することになる。


「トルネコ、寄り道になるが構わんか」


「かまいませんで〜。ベッカーには卸先が何件かありますさかい〜、ちょうどよかったですわ〜」


「そうか。例の()()()()もある」


「支店、でっか〜?」トルネコの声が少し弾んだ。「ほう、いよいよでんな〜」


 エリュシアが内心で整理した。

(ベッカーはトルネコさんの流通拠点になりえます)

(素材の仕分けと販売のハブがあれば、各地への転送コストが下がります)

(……田中さんはドルガンへ行く前にそこまで計算していました)

(なるほ......記録します)


 ギルが荷物を担ぎながら言った。「支店とは何の話だ」


「商売の話だ。お前には関係ない」


「……そういう言い方をされると気になる」


「気になるなら覚えろ、常識だろうが」


 ギルが少し立ち止まった。


(削る、覚えろ、常識だろうが。この男の語彙はだいたいその三つで動いている)

(なのになぜか、全部筋が通っている)


 グラが肩の上で「グゥ」と鳴いた。田中に完全同意しているように聞こえた。


******


 ベッカーに到着した一行。

 王道亭の扉を開けると、昼の食堂はまだ動いていた。


 三つのテーブルに客が座っている。トメさんが厨房で何かを切っている音がした。そのかたわらで、小柄な人影が皿を運んでいた。


 ()()だった。

 冒険者になりたそうな感じで田中に師事(※1章参照)していたのだが、結局、商人になるといった男の子。今はここで働いているようだ。


 見た目は、以前より背が少し伸びた。動きが整っており洗練された。皿を四枚、前腕に重ねて運んでいる。段差を越えたが、揺れずに安定していた。

 皿をテーブルに置いたが、音がしなかった。


 田中が三秒、それを見ていた。


「おい、ルコ」


 ルコが振り返った。一瞬、目が大きくなった。


「た……田中さん!!」


「皿、あれから何枚落とした」


「一回も落としてないです!!」


 間がなかった。即答だった。


「帳面は」


「全部つけています。今日の分も昨日あらかじめ入れました」


「見せてみろ」


 ルコが厨房の脇から帳面を持ってきた。田中が受け取った。


 三秒で返した。


「無駄がない、よくやった」


 それだけだった。


 ルコが少し間を置いた。


「……すべて、田中さんに教わりました」


 また間がなかった。声が静かだった。それだけで全部言っていた。


 エリュシアが少し離れたところから、それを見ていた。


(三秒だけ)

(見たことのない顔でした)

(書く欄:今日は少しだけありました)


 ネネがルコの帳面をちらりと見た。「……文字も数字も綺麗だな」


(我は、字が汚い......少し、恥ずかしい)


「あっネネ様!」とルコが少し驚いた顔をした。


「我も帳面をつけている。参考になった」


「あ、ありがとうございます……」


「礼はいらん。次からも精進せよ」


「……はい」


 ルコが皿を持ち直して、厨房に戻った。その背中を、トメさんが「すっかり様になってきたね」という顔で見ていた。


******


 昼食の後、田中とトルネコが隅のテーブルに座った。


「支店の話をする」


「待ってましたで〜」とトルネコが帳面を出した。


「ベッカーを商いの中継拠点(ちゅうけいきょてん)にする。各地の素材をここに集めて仕分け、売先ごとに振り分ける。在庫管理はルコに任せる」


「ルコはんに、でっか〜。あの子、使えますの〜?」


「ああ。人への投資は先行投資だ」


 トルネコが少し嬉しそうな顔をした。差分のみ出します。


---


**変更前**


トルネコが少し嬉しそうな顔をした。「トルネコ・田中商会ベッカー支店、でっしゃろか〜」


「順番が逆だ。田中・トルネコ商会だ」


---


**変更後**


トルネコ(ショウ)が少し嬉しそうな顔をした。

「トルネコ・田中商会ベッカー支店、でっしゃろか〜」


「長い。削れ」

「どこまで削りますのん〜」

「田商ベ」

「意味わかりませんわ!!」


「……田中商会ベッカー支店だ」

「最初からそう言うてください!!」


「削りすぎた」

「認めましたやん!!あとトルネコの名前も消えてますわ〜!!」


「順番も逆だ。ドラクエ4は第一章ライアンから始まる。お前が出てくるのは第三章だ」


「ゲームの話でっか〜!? てか田中さんはどこに出てきますのん〜」

「俺は出てこん。俺は現実だ」


「……それが一番怖いですわ〜」

「で、ルコはんが支店長代理でっか〜。あの子、喜びそうでんな〜」


「喜ばせるために言うんじゃない。できるからやらせる。以上」


「……田中さんらしいですわ〜。でもそっちの方が、あの子はよっぽど嬉しいと思いますえ〜」


 田中はそれ以上、何も言わなかった。


 エリュシア(相変わらず長い名前は無理なんですね)

(書けません、書いても意味がなさそうです)


 ギルが向かいのテーブルからその会話を聞いていた。


(拠点。中継。在庫管理。振り分け)

(貴族の物流管理と構造が同じだ)

(この男、どこで覚えた)


「ギル」と田中が言った。「貴族の流通経路は鉱山ルートと街道ルートで別れるか」


「……別れる。鉱山系は採掘権(さいくつけん)者が中間を持っていることが多い」


「ドルガンは」


「父が関わっていた採掘組合(さいくつくみあい)がある。名前が通れば話が早い」


「使える」


 ギルがまた止まった。


(今日で三回目だ)

(「使える」と言われるたびに、何かが積み上がっている)

(積み上がると思っていなかったものが、積み上がっている)


******


 夕方、田中がルコを呼んだ。


「支店長代理になれ」


 ルコが一秒固まった。


「……え」


「ベッカーを拠点にする。在庫管理と帳面が仕事だ。できるな」


「……で、できます!やらせてください!!」


「トルネコが流通を仕切る。お前は数字を持て。わからんことはショウに聞け」


「……はい。えーとトルネコってショウさんのことですね」


「(無視)一つ言っておく」


 田中がルコを見た。


「皿を落とさなかったのは、繰り返したからだ。帳面が綺麗なのも、毎日つけたからだ。支店長代理も同じだ。繰り返せ。以上だ」


 ルコが少し間を置いた。


「……皿は、最初に三枚落としました」


「知ってる」


「でも次から落とさなかったら、田中さんは落とした分を聞いてきませんでした」


「数字は今日の話だ。昨日の失敗は今日に入れるな」


 ルコが静かにうなずいた。


 エリュシアがそれを少し離れたところから見ていた。


(……田中さん)

(あなた、ずっとそうやって動いてきたんですね)

(23年間も、()()()()()()()()()()んですね)

(書けません)


******


 その頃、魔界では――


 フィルナが走り込んできた。


「ゾルグ〜!! ルコって子が支店長代理になったって〜!!」


「どこからその情報を……!!」


「なんとなく〜」


 ゾルグが拳を握った。「……魔王様の腹心(ふくしん)である我が、子供に先を越された……!!」


「ゾルグ、それは違う」とゼフィーラが書類から顔を上げた。「子供に先を越されたのではない。あなたはそもそも、田中のパーティにいない」

「なぜいないんですか!!」

「食費が四人分増えると言われたからだ」

「食費……!! 食費で弾かれました……!!」

「全員同じ理由だ。黙って管理しろ」


 グレインが壁に立ちながら言った。「認めてないが、田中は人の使い方がうまい」


「認めてんじゃないですか!!」とゾルグ。


()()()()()


 その時、糸電話がわずかに震えた。全員が止まった。


 田中「三行で言え」


 ゾルグが背筋を伸ばした。「ベッカー支店設立・ルコ代理就任・おめでとうございます、以上!!」


「よし」


 ブツッ。


 一秒だった。


 フィルナが「……三行で話せて、よかったねぇ~」と言った。


「……一生に一度かもしれません、ウォォン」とゾルグが静かに言いながら、また泣いた。


******


 その頃、神界では――


 ウルダが書類を受け取っていた。


「トルネコ・田中商会ベッカー支店(通称、田中商会ベッカー支店)本日設立。支店長代理:ルコ。田中剛、帳面を三秒確認後『無駄がない』と評価」


「……そうですか」


「ルコが皿を一回も落としていなかったことも確認済みです」


 ウルダが少し間を置いた。


「……皿を落とさなかった、ですか」


「はい」


「それを田中さんが確認した」


「はい」


 穏やかな顔が、少しだけ柔らかくなった。


「寛大に……見守ります」


「寛大です、主神。」


 補佐官が記録した。「本日:一回。却下印:一枚消費。笑み:今日は0・8回分」




※おじさん解説!


 いただきストリートというゲームがある。


 エニックスが1991年にファミコンで出したボードゲームだ。サイコロを振って街を進み、お店を買い、増資して高くして、相手の財産を奪う。人生ゲームに似ているが、もっと商売寄りだ。


 このゲームの面白さは「どこに投資するか」だ。安くて地味な物件を早めに買って、少しずつ増資していく。派手な高額物件を狙うより、地味な積み上げの方が長期では強い。


 ルコが皿を落とさなかったのも、帳面をつけ続けたのも、同じ話だ。一回一回は地味だ。でも積み上げると本物になる。


 支店長代理は肩書じゃない。積み上げた記録の結果だ。常識だろうが。


******


※神界業務日報 第五十四回


 本日の特記事項。


 ショウ・田中商会ベッカー支店、設立確認。

 帳面確認:三秒。評価:「無駄がない」。

 支店長代理:ルコ。就任。


 田中さんが「繰り返せ」と言いました。

 ルコさんが静かにうなずきました。

 三秒だけ、見たことのない顔でした。


 記録します。書く欄:今日は少しありました。


 以上です。


【現在のステータス】


 勇者 田中剛 LV:2 チート:無効

 魔王 ネネ  LV:3相当 魔力:低下中

 女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)


******


※魔王の家計簿 第五十四回


 本日の支出。


 王道亭宿代:田中が値切った後の金額(今回も聞いていない)

 昼食:トメさん分は支払い確認

 支店設立費用:初期投資あり(詳細はトルネコが管理)


 ルコが皿を落とさなかった。

 田中が「無駄がない」と言った。

 ルコの顔が少し変わった。記録した。


 繰り返せ、と言っていた。

 我も千年、繰り返してきた。

 同じことを言う人間は、時代を問わず現れる。


【現在のステータス】


 勇者 田中剛 LV:2 チート:無効

 魔王 ネネ  LV:3相当 魔力:低下中

 女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)


******


※ルコの商人見習い帳 第一回


 今日から書くことにした。田中さんに「書け」と言われたわけじゃない。自分で決めた。


 皿は一回も落とさなかった。三枚落とした分は、去年の話だ。


 支店長代理になった。意味はまだ全部わかっていない。でも帳面と数字ならわかる。それだけは自信を持って始める。


 田中さんが「繰り返せ」と言った。

 繰り返す。

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