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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第3章:LV1から積み上げたものだけが本物だ

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「ギルだ」

 道中、ぼろぼろの貴族が立っていた。

 名前が長かいので削った。

 ドルガンには鉱山がある。金属素材が取れる。

 行く理由はそれだけで十分だ。常識だろうが。

 レベル上げをいったん切り上げ、鉱山都市ドルガンに向かうことにした一行。


トルネコ(ショウ)、ドルガンの素材相場を確認したか?」と田中が歩きながら言った。


「しましたで〜。鉱山(こうざん)都市でっさかい、金属合金と発光石(はっこうせき)が市場より三割安う出回ってますわ〜。加工品にすれば倍以上で売れますな〜」


「それだけじゃない。安全帯(あんぜんたい)と発光道具の素材が揃う。昭和にあった。作れる。作る」


「(また昭和でっか)何でんの、安全帯て」


「落下防止の道具だ。鉱夫が使う。需要は確実にある。常識だろうが」


 エリュシアが内心で整理した。

(目的:金属合金の調達・発光石の回収・安全帯の製造・販売)

(移動コスト:徒歩のため最小限)

(収支:黒字見込み済みで動いています)

(……出発前に全部計算していたんですね)

(記録します)


 王都を出て三日目。ドルガン方面への街道(かいどう)は、昼を過ぎると人通りが減る。荷馬車が一台抜かしていったきり、あとは石畳(いしだたみ)と木立だけだ。


 アルスが腹筋しながらぴょんぴょん跳ねてついてきていた。


「師匠!!(ぴょん)本日の腹筋、五千回です!!(ぴょん)折り返しました!!(ぴょん)」


(相変わらず気持ち悪い動きです...記録しません)エリュシアの内心。


「移動しながらやるな。効率が落ちる」


「わかりました!!(ぴょん)」


「落ちてないだろ」とネネ。

「落ちてる」と田中。

「落ちてない!」

「落ちてる。常識だろうが」


 コツン☆――昭和男・田中が、ネネの頭に軽いゲンコを食らわせた。

「いてっ、うぅ......落ちてないのに」

「効率優先だ」

 ネネが何か言いたそうに、目に少し涙を浮かべながら田中を少しにらんだ。


 それを見たエリュシアが内心で一行書いた。

(腹筋しながら移動する勇者候補が存在する神界は、設計を見直すべきだと思います)

(あと魔王にゲンコって)

(魔王も泣かないでください)

(でも書く欄がありません)


「田中さん〜、ドルガンまであと二日はかかりまっせ〜。宿、どうしまっか〜」とトルネコが荷物を担ぎ直しながら言った。


「街道沿いの安宿を使う。素材が出たら売って相殺する。計算済みだ」


「さよか〜。ちゃんと計算しはってますな〜、さすがでんなあ〜」


 グラが田中の肩の上で「グゥ」と鳴いた。特に意味はなかったが、同意しているように聞こえた。


******


 街道が少し開けたところで、田中が足を止めた。


 道の脇に、人影があった。


 整った顔立ちの少年だ。年は田中の外見と同じくらいか、少し上か。背はある。姿勢はいい。ただ、服がひどかった。金の刺繍(ししゅう)が入った貴族服(きぞくふく)を着ているのだが、袖が擦り切れ、肩に泥がついていて、ボタンが一つなかった。それでも背筋だけはぴんと伸ばして、石に腰かけていた。


 腰に剣がある。安物ではない。それだけは本物だった。


 田中が彼を三秒見た。


「……家が潰れたな」


 少年が顔を上げた。


「……なぜそれがわかる」


「服だ。金がかかった生地だが手入れができていない。剣だけ磨いてある。潰れた順番が見える」


「……」


「どこへ行く」


「……ドルガンだ。鉱山で仕事があると聞いた」


 田中が一秒止まった。


「同じ方向だ。来い」


 少年が立ち上がった。


「……名乗りもしていないが」


「道中で聞く」


 田中が歩き出した。少年が少し迷って、後を追った。


 エリュシアが内心で整理した。

(また増えました)

(理由:同じ方向だから)

(私たちのパーティ、毎回このパターンです)


******


挿絵(By みてみん)


 少し歩いたところで、少年が改まった様子で口を開いた。


「改めて名乗らせてほしい。私はベルド・ア・ヴァン・カミュ・ファーン——」


「長い。削れ。ギルだ」


「……ギル?」


「ギルガメッシュだ」


 少年が止まった。「……何ですか、それは」


「FFに出てくる。大げさで強がりだが本物だ。お前に似ている」


 少年が少し固まった。


(本物、という部分が)

(何故か、引っかかった)


「……ギルガメッシュは道化ではないか」


「道化でも本物は本物だ。違うか」


 返す言葉がなかった。


「まあ登れ」


 田中が前を向いて歩き出した。


「……登る?」


「道中だ。歩くことを登ると言う。常識だろうが」


 ギルが少し間を置いて、後を追った。


 ネネが横で静かに言った。「……我も最初そうだった」


「どういう意味だ」


「従っている自分に気づくのが少し遅れる。そういう意味だ」


 ギルが前を歩く田中の背中を見た。


(何者だ、この男は)


「グゥ」


 グラがギルの顔の前に来た。ギルが少し驚いた。


「……翼竜(ワイバーン)か」


「グゥ」


「威嚇しているのか」


「こいつは先行投資だ。気にするな」と田中が前を向いたまま言った。


 ギルが「先行投資……なるほど」と繰り返した。意味はわかっていなかった。


(なるほど出ちゃいました。わかってないやつです)とエリュシアが思った。


******


 昼の休憩で、トルネコが全員に携帯食を配った。


「どうぞどうぞ〜、ギルはんも遠慮なく食べとくれやす〜」


「……ありがとう。あなたは」


「ショウ・バイン・ガルスでおます〜。トルネコとお呼びください。商売人ですわ〜。よろしゅうに〜」


「ベルド・ア・ヴァン——」


「ギルはん、でええですよね〜」


「ギル……そうなるのか」


 アルスが腹筋を止めて正面から言った。「ギルさん、はじめまして!! アルスといいます!!」


「……ああ。アルスか。お前剣士か」


「はい!! 師匠の弟子です!!」


「師匠というのは……あの男か」


「田中師匠です!!」


「……ずいぶん懐いているんだな」


「毎日筋トレ一万回させられました!!」


「……それで懐くのか」


「しました!! 筋トレは正義です。ギルさんもやりましょう!」


 ギルが返す言葉を失った。


 エリュシアが前を見たまま言った。「……慣れますよ」


「女神か。珍しい組み合わせだ」


「慣れてください」


 ネネが干し肉をかじりながら一言だけ言った。「我は魔王だ」


「……魔王」


「うん」


「……なぜ勇者と旅をしているんだ」


「城の固定費を指摘された」


「……それが理由か」


「大事なことだろう」


 ギルが田中を見た。田中は地図を広げて次の宿の位置を確認していた。


(家が潰れた)

(財産が消えた)

(剣だけ残った)

(恥ずかしかった)


(……この男は、何が残っていると思っているのだろうか)


「ギル」と田中が言った。「貴族には詳しいか?ドルガン周辺の採掘権(さいくつけん)関係だ」


「……知っている。父が鉱山の採掘権に関わっていた」


「使える」


 田中が地図を折って立ち上がった。とーっても悪い顔をしていた。ほくそ笑んでいる。


「行くぞ」


 全員が動き始めた。ギルも、少し遅れて立ち上がった。


(「使える」と言った)

(道具扱いだ、と思った)

(……でも)

(「本物だ」と言った言葉の方が、なぜか残っている)


「グゥ」


 グラが再びギルの顔の前に来た。今度は威嚇ではなかった。ただそこにいた。


「……何だ」


「グゥ」


 ギルが少し、笑った。その顔は、誰にも見せなかった。


――――――


 その頃、神界では――


 ウルダが報告書を受け取った。


「ベルド・ア・ヴァン・カミュ・ファーン、田中剛パーティに合流。命名:ギル。理由:長いから削ったとのことです」


「……そうですか」


「ギルガメッシュ由来とのことです」


 ウルダが少し間を置いた。


「ギルガメッシュというのは」


「FF?とかいうのに出てくる道化的な強敵です。大げさで強がりですが本物だそうです」


「……田中さんらしい命名ですね」


 穏やかな顔のまま、窓の外を見た。


「寛大に、見守ります」


 補佐官が記録した。「本日:寛大一回。却下印:二枚消費。残り:九十五枚」


「……なんか増えていくペースが心配になってきました」と補佐官が言った。


「増刷しときなさい」とウルダが静かに言った。

 ※おじさん解説!


 ギルガメッシュとは何か。二つある。


 一つ目。ファイナルファンタジー5に登場するキャラクターだ。1992年、スーパーファミコン。大げさで強がりで口が大きい。何度倒しても出てくる。そのたびに「ぼくがかんがえたさいきょうの」感じで登場する。うるさい。うざい。でも憎めない。


 こいつの最大の特徴は源氏シリーズだ。源氏の小手・源氏の鎧・源氏の兜・源氏の盾。全部レアだ。全部ほしい。全部盗める。ギルガメッシュから盗め。それだけでFF5をやる価値がある。常識だろうが。


 あとエクスカリパーという武器がある。エクスカリバーではない。()()()()()()()だ。見た目は立派だが攻撃力が1しかない。ギルガメッシュが「本物のエクスカリバーだ!」と言って渡してくる偽物だ。だが話の流れが最高だ。騙されてほしい。そして笑ってほしい。


 敵ながらいいキャラだ。最後にどうなるかはここには書かない。自分で確かめろ。常識だろうが。


 二つ目。ドルアーガの塔のギルガメスだ。1984年、ナムコのアーケードゲームだ。60階建ての塔を登りながら装備を集めて最上階を目指す。こちらはギルガメッシュではなくギルガメスだ。一文字違う。気にするな。


 この作品、続きがある。イシターの復活(イシターのふっかつ)という2作目がある。カイの冒険(カイのぼうけん)という3作目もある。ドルアーガの塔・完結編という完結作もある。筆者は全部遊んだ。全部面白かった。常識だろうが。


 塔を登ること自体が目的だ。道中で拾ったものだけが武器になる。持って生まれたものじゃなく、積み上げたものだけが本物だ。


 どちらのギルも、登る男だ。削っても削っても残るものがある。それが本物だ。常識だろうが。


―――――――


※神界業務日報 第五十三回


 本日の特記事項。


 ベルド・ア・ヴァン・カミュ・ファーン、命名:ギル。

 命名所要時間(しょようじかん):三秒。

 「本物だ」という言葉が命名の中に入っていました。記録します。


 ギルさんが何か言いかけて止まる場面が二回ありました。

 両方、「本物」という言葉の後でした。

 記録します。書く欄:今日は少しだけありました。


 以上です。


【現在のステータス】


 勇者 田中剛 LV:2 チート:無効

 魔王 ネネ  LV:3相当 魔力:低下中

 女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)


******


**※魔王の家計簿 第五十三回**


 本日の支出。


 携帯食:トルネコが配った。費用:不明(聞いていない)

 道中の宿:値切り済み。金額:田中が交渉した。


 ――道中、田中にゲンコされた。我、魔王なのに。


 本日の新加入:ギル。田中が「登れ」と言った。

 なぜ皆従うのだ。我も従っている。

 理由がわからないのに従っている。

 それで正解だったことが多い。

 腹立たしい。


【現在のステータス】


 勇者 田中剛 LV:2 チート:無効

 魔王 ネネ  LV:3相当 魔力:低下中

 女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)


******


**※アルス修行日誌 第十八回**


 本日の内容:道中。新しい仲間が増えました。


 ギルさんという方です。貴族だそうです。剣を持っています。


 師匠が「本物だ」と言いました。師匠が人に「本物だ」と言うのを初めて聞きました。


 記録します。理由は、なんとなく大事な気がしたからです。


 腹筋は道中に五千回やりました。師匠に「効率が落ちる」と言われました。明日から先にやってきます。

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