「ギルだ」
道中、ぼろぼろの貴族が立っていた。
名前が長かいので削った。
ドルガンには鉱山がある。金属素材が取れる。
行く理由はそれだけで十分だ。常識だろうが。
レベル上げをいったん切り上げ、鉱山都市ドルガンに向かうことにした一行。
「トルネコ、ドルガンの素材相場を確認したか?」と田中が歩きながら言った。
「しましたで〜。鉱山都市でっさかい、金属合金と発光石が市場より三割安う出回ってますわ〜。加工品にすれば倍以上で売れますな〜」
「それだけじゃない。安全帯と発光道具の素材が揃う。昭和にあった。作れる。作る」
「(また昭和でっか)何でんの、安全帯て」
「落下防止の道具だ。鉱夫が使う。需要は確実にある。常識だろうが」
エリュシアが内心で整理した。
(目的:金属合金の調達・発光石の回収・安全帯の製造・販売)
(移動コスト:徒歩のため最小限)
(収支:黒字見込み済みで動いています)
(……出発前に全部計算していたんですね)
(記録します)
王都を出て三日目。ドルガン方面への街道は、昼を過ぎると人通りが減る。荷馬車が一台抜かしていったきり、あとは石畳と木立だけだ。
アルスが腹筋しながらぴょんぴょん跳ねてついてきていた。
「師匠!!(ぴょん)本日の腹筋、五千回です!!(ぴょん)折り返しました!!(ぴょん)」
(相変わらず気持ち悪い動きです...記録しません)エリュシアの内心。
「移動しながらやるな。効率が落ちる」
「わかりました!!(ぴょん)」
「落ちてないだろ」とネネ。
「落ちてる」と田中。
「落ちてない!」
「落ちてる。常識だろうが」
コツン☆――昭和男・田中が、ネネの頭に軽いゲンコを食らわせた。
「いてっ、うぅ......落ちてないのに」
「効率優先だ」
ネネが何か言いたそうに、目に少し涙を浮かべながら田中を少しにらんだ。
それを見たエリュシアが内心で一行書いた。
(腹筋しながら移動する勇者候補が存在する神界は、設計を見直すべきだと思います)
(あと魔王にゲンコって)
(魔王も泣かないでください)
(でも書く欄がありません)
「田中さん〜、ドルガンまであと二日はかかりまっせ〜。宿、どうしまっか〜」とトルネコが荷物を担ぎ直しながら言った。
「街道沿いの安宿を使う。素材が出たら売って相殺する。計算済みだ」
「さよか〜。ちゃんと計算しはってますな〜、さすがでんなあ〜」
グラが田中の肩の上で「グゥ」と鳴いた。特に意味はなかったが、同意しているように聞こえた。
******
街道が少し開けたところで、田中が足を止めた。
道の脇に、人影があった。
整った顔立ちの少年だ。年は田中の外見と同じくらいか、少し上か。背はある。姿勢はいい。ただ、服がひどかった。金の刺繍が入った貴族服を着ているのだが、袖が擦り切れ、肩に泥がついていて、ボタンが一つなかった。それでも背筋だけはぴんと伸ばして、石に腰かけていた。
腰に剣がある。安物ではない。それだけは本物だった。
田中が彼を三秒見た。
「……家が潰れたな」
少年が顔を上げた。
「……なぜそれがわかる」
「服だ。金がかかった生地だが手入れができていない。剣だけ磨いてある。潰れた順番が見える」
「……」
「どこへ行く」
「……ドルガンだ。鉱山で仕事があると聞いた」
田中が一秒止まった。
「同じ方向だ。来い」
少年が立ち上がった。
「……名乗りもしていないが」
「道中で聞く」
田中が歩き出した。少年が少し迷って、後を追った。
エリュシアが内心で整理した。
(また増えました)
(理由:同じ方向だから)
(私たちのパーティ、毎回このパターンです)
******
少し歩いたところで、少年が改まった様子で口を開いた。
「改めて名乗らせてほしい。私はベルド・ア・ヴァン・カミュ・ファーン——」
「長い。削れ。ギルだ」
「……ギル?」
「ギルガメッシュだ」
少年が止まった。「……何ですか、それは」
「FFに出てくる。大げさで強がりだが本物だ。お前に似ている」
少年が少し固まった。
(本物、という部分が)
(何故か、引っかかった)
「……ギルガメッシュは道化ではないか」
「道化でも本物は本物だ。違うか」
返す言葉がなかった。
「まあ登れ」
田中が前を向いて歩き出した。
「……登る?」
「道中だ。歩くことを登ると言う。常識だろうが」
ギルが少し間を置いて、後を追った。
ネネが横で静かに言った。「……我も最初そうだった」
「どういう意味だ」
「従っている自分に気づくのが少し遅れる。そういう意味だ」
ギルが前を歩く田中の背中を見た。
(何者だ、この男は)
「グゥ」
グラがギルの顔の前に来た。ギルが少し驚いた。
「……翼竜か」
「グゥ」
「威嚇しているのか」
「こいつは先行投資だ。気にするな」と田中が前を向いたまま言った。
ギルが「先行投資……なるほど」と繰り返した。意味はわかっていなかった。
(なるほど出ちゃいました。わかってないやつです)とエリュシアが思った。
******
昼の休憩で、トルネコが全員に携帯食を配った。
「どうぞどうぞ〜、ギルはんも遠慮なく食べとくれやす〜」
「……ありがとう。あなたは」
「ショウ・バイン・ガルスでおます〜。トルネコとお呼びください。商売人ですわ〜。よろしゅうに〜」
「ベルド・ア・ヴァン——」
「ギルはん、でええですよね〜」
「ギル……そうなるのか」
アルスが腹筋を止めて正面から言った。「ギルさん、はじめまして!! アルスといいます!!」
「……ああ。アルスか。お前剣士か」
「はい!! 師匠の弟子です!!」
「師匠というのは……あの男か」
「田中師匠です!!」
「……ずいぶん懐いているんだな」
「毎日筋トレ一万回させられました!!」
「……それで懐くのか」
「しました!! 筋トレは正義です。ギルさんもやりましょう!」
ギルが返す言葉を失った。
エリュシアが前を見たまま言った。「……慣れますよ」
「女神か。珍しい組み合わせだ」
「慣れてください」
ネネが干し肉をかじりながら一言だけ言った。「我は魔王だ」
「……魔王」
「うん」
「……なぜ勇者と旅をしているんだ」
「城の固定費を指摘された」
「……それが理由か」
「大事なことだろう」
ギルが田中を見た。田中は地図を広げて次の宿の位置を確認していた。
(家が潰れた)
(財産が消えた)
(剣だけ残った)
(恥ずかしかった)
(……この男は、何が残っていると思っているのだろうか)
「ギル」と田中が言った。「貴族には詳しいか?ドルガン周辺の採掘権関係だ」
「……知っている。父が鉱山の採掘権に関わっていた」
「使える」
田中が地図を折って立ち上がった。とーっても悪い顔をしていた。ほくそ笑んでいる。
「行くぞ」
全員が動き始めた。ギルも、少し遅れて立ち上がった。
(「使える」と言った)
(道具扱いだ、と思った)
(……でも)
(「本物だ」と言った言葉の方が、なぜか残っている)
「グゥ」
グラが再びギルの顔の前に来た。今度は威嚇ではなかった。ただそこにいた。
「……何だ」
「グゥ」
ギルが少し、笑った。その顔は、誰にも見せなかった。
――――――
その頃、神界では――
ウルダが報告書を受け取った。
「ベルド・ア・ヴァン・カミュ・ファーン、田中剛パーティに合流。命名:ギル。理由:長いから削ったとのことです」
「……そうですか」
「ギルガメッシュ由来とのことです」
ウルダが少し間を置いた。
「ギルガメッシュというのは」
「FF?とかいうのに出てくる道化的な強敵です。大げさで強がりですが本物だそうです」
「……田中さんらしい命名ですね」
穏やかな顔のまま、窓の外を見た。
「寛大に、見守ります」
補佐官が記録した。「本日:寛大一回。却下印:二枚消費。残り:九十五枚」
「……なんか増えていくペースが心配になってきました」と補佐官が言った。
「増刷しときなさい」とウルダが静かに言った。
※おじさん解説!
ギルガメッシュとは何か。二つある。
一つ目。ファイナルファンタジー5に登場するキャラクターだ。1992年、スーパーファミコン。大げさで強がりで口が大きい。何度倒しても出てくる。そのたびに「ぼくがかんがえたさいきょうの」感じで登場する。うるさい。うざい。でも憎めない。
こいつの最大の特徴は源氏シリーズだ。源氏の小手・源氏の鎧・源氏の兜・源氏の盾。全部レアだ。全部ほしい。全部盗める。ギルガメッシュから盗め。それだけでFF5をやる価値がある。常識だろうが。
あとエクスカリパーという武器がある。エクスカリバーではない。エクスカリパーだ。見た目は立派だが攻撃力が1しかない。ギルガメッシュが「本物のエクスカリバーだ!」と言って渡してくる偽物だ。だが話の流れが最高だ。騙されてほしい。そして笑ってほしい。
敵ながらいいキャラだ。最後にどうなるかはここには書かない。自分で確かめろ。常識だろうが。
二つ目。ドルアーガの塔のギルガメスだ。1984年、ナムコのアーケードゲームだ。60階建ての塔を登りながら装備を集めて最上階を目指す。こちらはギルガメッシュではなくギルガメスだ。一文字違う。気にするな。
この作品、続きがある。イシターの復活という2作目がある。カイの冒険という3作目もある。ドルアーガの塔・完結編という完結作もある。筆者は全部遊んだ。全部面白かった。常識だろうが。
塔を登ること自体が目的だ。道中で拾ったものだけが武器になる。持って生まれたものじゃなく、積み上げたものだけが本物だ。
どちらのギルも、登る男だ。削っても削っても残るものがある。それが本物だ。常識だろうが。
―――――――
※神界業務日報 第五十三回
本日の特記事項。
ベルド・ア・ヴァン・カミュ・ファーン、命名:ギル。
命名所要時間:三秒。
「本物だ」という言葉が命名の中に入っていました。記録します。
ギルさんが何か言いかけて止まる場面が二回ありました。
両方、「本物」という言葉の後でした。
記録します。書く欄:今日は少しだけありました。
以上です。
【現在のステータス】
勇者 田中剛 LV:2 チート:無効
魔王 ネネ LV:3相当 魔力:低下中
女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)
******
**※魔王の家計簿 第五十三回**
本日の支出。
携帯食:トルネコが配った。費用:不明(聞いていない)
道中の宿:値切り済み。金額:田中が交渉した。
――道中、田中にゲンコされた。我、魔王なのに。
本日の新加入:ギル。田中が「登れ」と言った。
なぜ皆従うのだ。我も従っている。
理由がわからないのに従っている。
それで正解だったことが多い。
腹立たしい。
【現在のステータス】
勇者 田中剛 LV:2 チート:無効
魔王 ネネ LV:3相当 魔力:低下中
女神 エリュシア 神力出力:制限中(通常の1割以下)
******
**※アルス修行日誌 第十八回**
本日の内容:道中。新しい仲間が増えました。
ギルさんという方です。貴族だそうです。剣を持っています。
師匠が「本物だ」と言いました。師匠が人に「本物だ」と言うのを初めて聞きました。
記録します。理由は、なんとなく大事な気がしたからです。
腹筋は道中に五千回やりました。師匠に「効率が落ちる」と言われました。明日から先にやってきます。




