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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第2章:仲間が増えるたびに、なぜか黒字になった

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「筆頭として、見過ごせない」

四天王が全員、王都にいる。

魔王もいる。勇者もいる。

この状態を何と呼ぶのかは、謎だ。


 朝。宿の広間に集まる人が多かった。多すぎた。


 田中・ネネ・エリュシア・グレイン・フィルナ・ゾルグ・ゼフィーラ・アルス。グラがネネの頭の上に。さらにショウが壁際に立っている。


 これだけの人数が一つのテーブルを囲んでいた。――ただ一人、女神カーヴェは別の動きをしているためいなかったが......。


 アルスが小声でゾルグに言った。「……こんなに集まったのは初めてですね」


「そうですな」とゾルグが言った。「奪還計画の会議では、こうはなりませんでした」


「計画があったんですか」


「ありました。全部、経費で論破されました」


「……それは、お疲れ様でした」


「ありがとうございます、勇者殿」


 ゾルグが目を細めた。


 フィルナが全員分のお茶を配っていた。田中の分も、ゼフィーラの分も、全部均等に配った。


「みんなで朝からお茶!! 嬉しいねぇ~!!」


 誰も返事をしなかった。でも、誰も嫌な顔をしていなかった。


 ゼフィーラが「私の分は——」と言いかけた。


「もう配りました! ゼフィーラさんはミルク多めですよね!!」


「なぜそれを知っている」


「なんとなく!!」


 ゼフィーラが黙った。ミルク多めだった。なぜわかったのかは不明だった。


 グレインが自分のお茶を一口飲んだ。「……普通のでよかった」


「グレインちゃんはそういう人だと思って!!」


「……そういう人って何だ」


「シンプルが好きそう!!」


 グレインが黙った。正しかった。


 エリュシアが内心だけで言った。

(フィルナはなぜいつも正確なのでしょう)

(悪意がないから気づかれないだけで、観察眼が異常です)


******


 ゼフィーラが立った。


 懐から書類の束を取り出してテーブルの中央に置いた。


「全員に共有する。内容は三点だ」


「とうとう田中師匠のパーティ合流宣言ですか」とアルスが筋トレしながら言った。


「違う」


「でも全員に向けて——」


「独立した判断による情報共有だ。合流ではない」


 ゾルグが小声でアルスに言った。「昨日から数えるともう、十一回目です」


「何の回数ですか」


「『合流ではない』の回数です」


「記録していたんですか」


「自然と覚えてしまいました」


 ゼフィーラの目がゾルグに向いた。ゾルグが黙った。


「内容は三点だ」ともう一度ゼフィーラが言った。


「一。神界から魔王軍に対し、十二年以上にわたり定期的に(にせ)の情報書類が送られていた。魔王軍の意思決定を、特定の方向に誘導(ゆうどう)する内容だ。正規の書類ではない。発信元は神界の中枢に近い何者かだ」


 全員が黙った。


「二。同様の書類が、この国の複数の機関にも送られていた。王都の商業権妨害はその一端に過ぎない。組織的だ」


 田中が書類を一枚手に取った。黙って読んでいる。


「三。これらの書類には共通点がある。——勇者田中剛の行動を阻害(そがい)する目的が、全ての書類に通底している」


 沈黙が落ちた。


 田中が書類から目を上げた。「エリュ。お前はこれを知っていたか」


 エリュシアが止まった。


「……知りませんでした。書類の末端(まったん)処理でした。発信元までは——」


「そうか」


 田中がまた書類に目を戻した。それだけだった。


 エリュシアが内心だけで言った。(「そうか」だけでした)(怒られませんでした)(怒られないと、なぜか少し、物足りない気がします)(……おかしい)(私はおかしい)(それは前から知っています)


******


 その次、最初に口を開いたのはグレインだった。


 書類を一枚取って、三秒見た。


「……なるほどね」


 アルスが即座に「認めたわけじゃないんだろ」と言った。


「うるさい」


「でも今——」


「うるさい。筋が通っているのを確認しただけだ」


「それを認めたと言うのでは——」


「うるさい」


 グレインがアルスを一睨みした。アルスが黙った。


 グレインが書類をテーブルに戻した。腕を組んだ。


(……また「なるほど」と言ってしまった)

(なぜだ)

(この男の話をすると、なぜか「なるほど」が先に出る)

(認めたわけではない)

(断じて認めていない)

(ただ、全部筋が通っているだけだ)

(それだけだ)


「……一つだけ聞く」とグレインが言った。田中に向かって言った。「お前はこうなると、最初から読んでいたか」


「いや」と田中が言った。


「……そうか」


「書類を見たらそうなっていた。それだけだ」


 グレインが少しの間、黙った。


「……なるほど」


「また言いましたよ」とアルスが言った。


「う る さ い 黙れ」


 エリュシアが内心で言った。(今日だけで三回目です)(報告書に書きます)


******


 フィルナが書類を受け取って読んだ。読んでから顔を上げた。


「……ゾルグさんが知らなかったのも、これのせいですか?」


 全員の視線がゾルグに向いた。


 ゾルグが動かなかった。書類を見ていた。


「……そうですな」とゾルグが言った。「私は、知らなかった」


 声が少しだけ(かす)れていた。


「魔王様が正しいことをしようとされるたびに、何かがうまくいかなかった。邪魔が入った。私は自分の無能のせいだと思っていました」


「それは今も変わらない」と田中が書類を読みながら言った。


「……はい。変わりません」


 ゾルグが少し笑った。自分でも意外そうな顔だった。


「ですが——私は、ずっと何も知らなかった。魔王様が千年、孤独だった理由を。正しいことをしようとしても、どこかで(つぶ)された理由を。私は一度も、知らなかった」


 声が、崩れた。


 ゾルグが泣いていた。声を出さずに、ただ涙が落ちていた。


「知らなかっただけだ」と田中が言った。


 ゾルグが顔を上げた。


「知らなかっただけだ。知った今から動けばいい。それだけだろうが」

 田中がフォローする。


 ゾルグが口を一文字に結んだ。また涙が落ちた。


「……はい」


 フィルナが静かにゾルグの隣に寄った。何も言わずに、ただそこにいた。


 ゾルグがそれで、また泣いた。


 アルスがゾルグに小声で言った。「……お疲れ様でした」


「ありがとうございます」とゾルグが嗚咽(おえつ)しながら言った。


「さっきも言ってましたよね、それ」


「言いました。でも、今は、意味が、全然違います」


 アルスが黙った。


 エリュシアが内心だけで言った。

(……わかります)(私も、同じです)(声には出しません)


******


 ネネが、ゆっくり口を開いた。


「……神界は、千年間、我を利用していたということか」


 誰も答えなかった。


「魔王を恐怖の象徴として置いておく方が、都合がよかった。だから正しいことができないように、邪魔をし続けた。そういうことか」


「《《そういうことだ》》」と田中が言った。


 ネネが少しの間、黙った。


「……そうか」


 それだけ言って、また黙った。


 怒っているのか、悲しいのか、その顔からは何も読めなかった。ただ、静かだった。


 グラがネネの頭の上から、膝に降りた。「グゥ」と一声鳴いた。


 ネネがグラの背に手を置いた。


 グラが鳴いた。「グゥ」


 ネネが、一度だけ(うなず)いた。


******


 ゼフィーラが、立ったまま言った。


「一つだけ言っておく」


 全員がゼフィーラを見た。


「私は今も、合流したわけではない」


「十二回目です」とゾルグが嗚咽(おえつ)しながら言った。


「ゾルグ、黙れ」

 それを言うのと同時に、ゼフィーラの肘鉄が飛んだ。


「はぃぃ...。うぐ」


「独立した判断で動いている。それは変わらない。ただ!」


 ゼフィーラが書類に目を落とした。一秒。また顔を上げた。


「筆頭として、見過ごせない」


 それだけだった。それ以上の説明はなかった。


 ネネが、ゼフィーラを見た。

 ゼフィーラが、ネネを見た。


 一瞬だけ、ゼフィーラの眉間の(しわ)が、消えた。


(……魔王様が、笑っている。千年ぶりに笑っていた)

(それを邪魔したのが何者なのか、今日わかった)

(見過ごせない。それだけだ)


「認めたわけではない」とゼフィーラが言った。田中に向かって言った。


「知っている」と田中が言った。「お前も来い」


「……わかった」


 ゼフィーラが、座った。


 ゾルグがまだ泣きながら「ゼフィーラ様……!」と言った。


「泣くな」


「はい……!」(泣いている)


 フィルナが「よかったぁ~!!!みんな、仲良しだね!」と言った。


 グレインが「うるさい」と言った。


 知らない間に、アルスが腕立てを始めていた。いつの間にか始めていた。


 田中が書類を置いた。「昼飯を先に食う。その後動く。高くない店を頼む」


「かしこまりました」とショウが言った。


 エリュシア

(みんないます)(全員います)(書く欄が……)(今日は、書けそうです)

(少しだけ)

※おじさん解説!


ドラゴンクエストをはじめ、RPGというものには大抵、四天王という概念(がいねん)がある。

勇者の前に立ちはだかる、魔王の部下たちだ。

強い。一人ずつ倒す。全員倒したら魔王の前に進む。

それがルールだ。常識だろうが。


ドラクエ四天王の代表例で言うと、四天王という言葉で一番有名なのはドラクエ6だ。一九九五年、スーファミだ。デスタムーアという魔王の配下に四天王がいた。ムドーが飛び抜けて強かった。ムドーだけ覚えている人間も多いと思う。他にもドラクエ7、ドラクエ8にも幹部格の敵がいた。FFにも四天王はいる。シリーズによって二天王だったり六天王だったりするが、まとめて四天王と呼ばれることが多い。


この世界の四天王は、全員仲間になった。


ゼフィーラ・グレイン・フィルナ・ゾルグ。

「合流ではない」と十二回言った者も含めて、全員いる。


節約の話で来た。

経費の話で来た。

ネネちゃんのそばにいたかった。

使えるなと言われた。

筆頭として見過ごせなかった。


理由はそれぞれだが、全員いる。


RPGで四天王を仲間にしたプレイヤーは、ほとんどいない。

そういうゲームではないからだ。

この世界は、そういう世界ではなかったらしい。


以上。


******


※第一席次ゼフィーラの業務報告 第五回


本日の業務内容。

書類の全員共有:完了。

説明:完了。

「合流ではない」の発言回数:十二回。

ゾルグが数えていた。


追記:合流ではない。

追記2:独立した判断で動いている。

追記3:「筆頭として、見過ごせない」と発言した。

追記4:「来い」と言われた。

追記5:座った。

追記6:ゾルグが泣いていた。フィルナが隣に寄っていた。アルスが腕立てをしていた。

追記7:この宿には、書く欄のない出来事が多い。


なお、魔王様が千年ぶりに笑っているということを、私は知っている。

それを邪魔していたのが何者かも、今日わかった。

業務報告書に書く欄はない。

だから追記に書く。


追記8:私は認めていない。


******


※第二席次グレインの状況報告 第二回


本日の状況報告。

神界妨害書類の内容:把握した。

「なるほど」と言った回数:三回。

アルスにつっこまれた回数:三回。

うるさいと言った回数:三回。


なお全て一対一対応だった。偶然だ。


「認めたわけじゃない」は本当だ。

ただ筋が通っている。それだけだ。

それだけなのに、なぜ三回なるほどと言ったのかは不明だ。

調査継続中。


なお田中への言及が今回も文量が多い。

気づいている。

理由はわからない。


******


※神界業務日報 第二十回


本日の特記事項。

神界妨害書類の全員共有が完了しました。


「知らなかっただけだ。知った今から動けばいい」と言いました。

記録します。


ゼフィーラ様が「筆頭として、見過ごせない」と言いました。

記録します。


ネネ様が「そうか」とおっしゃいました。

それだけおっしゃいました。


(……千年分の「そうか」だと、私は思いました)

(処理しきれませんでした)

(声には出しませんでした)


「お前はこれを知っていたか」と聞かれました。

「知りませんでした」と答えました。

「そうか」と言われました。

怒られませんでした。


(怒られませんでした)

(なぜか少し、物足りない気がしました)

(……私はおかしいと思います)

(でもこれが私です)

(記録します)


追記:グラがネネ様の膝に降りました。

追記2:全員いました。今日は、少しだけ書けました。


******


※魔王の家計簿 第二十回


今日の支出:朝食八G。昼食十G。


神界が千年間、我を利用していたということが、わかった。


怒っているのかどうかは、わからない。

悲しいのかどうかも、わからない。

ただ「そうか」と思った。


グラが膝に来た。

支出:〇G。

重さ:少し。

あたたかかった。


ゼフィーラが「見過ごせない」と言った。

千年間、ずっとそばにいた。

ゼフィーラはいつもそうだ。

言葉が少ない。でも、いつもそばにいる。


フィルナがお茶を配っていた。

ミルク多めで正解だったと、ゼフィーラが言っていた。

フィルナはなぜかそういうことを知っている。

千年来の話だ。


よかった、と思った。

家計簿には書けない。

でも書いた。

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