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異世界最強の節約勇者 〜神も魔王も全員、俺の財布の敵〜  作者: 勇者ヨシ君
第2章:仲間が増えるたびに、なぜか黒字になった

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「削れば、通る」

昨日、バフが剥がれた。

田中は「無駄だから削れた」と言った。

以上だそうだ。


 朝。王都の宿泊宿の一階に全員が集まった。


 テーブルの上に、昨日押収した偽造書類が広げてある。ゼフィーラが端に立って、田中が椅子に座って読んでいる。エリュシアが横に立ち、ゾルグが少し離れた場所に立ち、ネネが腕を組んでいる。その横にはフィーラだ。


 アルスが腕立て五百回を終えて汗を拭きながら戻ってきたところだった。


「第三区画だけではない」とゼフィーラが言った。「城の書類と照合すると、同様の様式で作られた書類が、少なくとも四つの区画に流れていると見られる。組織的だ」


「頭がいるはずだ」と田中が言った。


「そうだ。単独犯ではない。目的がある」


 扉からショウが顔を出した。相変わらず出入りのタイミングが読めない男だった。


「田中さん。第六区画の動きが今晩大きくなるという話が入っています。商業権の移譲書どころではない。もっと大きな権利書が動くようで」


「いくら規模だ」


「……五千万Gは下らないかと」


 ゾルグが低い声で言った。「……私は、こういった動きを、魔王軍の内部から一切把握(はあく)していませんでした」


 誰も何も言わなかった。


「魔王様に、何か届いていたかもしれない。私が知らないだけで」とゾルグが続けた。「私はずっと、魔王様を取り戻すことしか考えていなかった。それ以外のことは……」


 ゾルグが止まった。


 田中が書類から目を上げた。「知らなかっただけだ」


「……はい」


「知った今から動けばいい」


 ゾルグが一度だけ目の端を拭った。誰も見ていないふりをした。


 エリュシアが内心だけで思った。

(知らなかったのは、私も同じです)

(でも私は……処理していた)(全部、書類として処理していた)

(あとゾルグは涙もろすぎます......)


「今夜、第六区画へ行く」と田中が言った。

「ゼフィ、アルス、お前らも来い。ショウ、現場の詳細(しょうさい)を出せ」


ゼフィ「かしこまりました」

(なぜコイツにかしこまらなければならんのだ?)


「師匠、もちろん行きます」


 扉の方から声がした。カーヴェだった。昨日から王都に滞在(たいざい)している。腕に分厚(ぶあつ)い資料を抱えていた。


「昨日の現象について調べていたので。現場で確認したいことがある」


 エリュシアが一瞬だけ声のトーンを落とした。「……カーヴェも来るのですか」


「邪魔?」


「そんなことは……言っていません」


「使えるなら来い」と田中が言った。


 カーヴェが内心だけで言った。

(……あ、これがエリュシアの言ってた)

(言ってないって言い張るやつ)(また使えるなら来いって言われたね)


******


 夜。第六区画の倉庫(そうこ)街に、人の気配が集まっていた。


 田中がショウから受け取った見取り図(みとりず)を一度だけ見て、畳んでポケットに入れた。


「三方向から当たる。ゼフィは右。アルスは後方を抑えろ。ネネは正面だ」


「師匠は?」とアルスが言った。


「真ん中だ」


「……作戦(さくせん)がシンプルすぎないか」とゼフィーラが小声で言った。


「複雑にする必要がない。常識だろうが」


 ゼフィーラが口を閉じた。


 グラが田中の肩でじっとしている。ネネが「……グラ、待っていろ」と小声で言うと、グラが「グゥ」と一声鳴いてネネの頭に移った。


 田中が動いた。


******


 倉庫の中には、八人いた。


 全員が魔術師(まじゅつし)だった。普通の魔術師ではない。全身に強化魔法バフが重ねがけされている。光の層が皮膚の上に二重、三重と積み上がっていた。動きが速い。魔力の密度が高い。


 一人目が田中に向かって術を放った。弾いた。二人目が側面から来たが、かわした。

 続いて、三人目と四人目が同時に動いた。強化済みの動きはさすがに重かった。田中が受けて、少し押された。


「……重いな」


 チートがある状態でも、複数の強化重ねがけ(・・・・)は正面から潰すには手間がかかる。それに万が一、他のパーティメンバーにあたりでもしたら。


 田中が相手の光の層を三秒見た。


(……これ)

(全部、いるか)

(この強化、この強化、この強化——)

(いらんのもある)

(全部が無駄じゃない)

(でも半分以上は——)


「お前らのバフ、無駄(ノーサンキュー)だ。削れ(プライスカット)


 バフが、剥がれた。


 二重、三重に積み上がっていた強化の層が、薄紙を引き剥がす(はがす)ように落ちた。一枚、また一枚。不要と判定された強化だけが、音もなく消えていった。残ったのは、必要な分だけだった。


 相手が止まった。


「な……」


「何が……」


「師匠! 今のは——!」とアルスが目を見開いた。


「余分だった。《《削れた》》」


「説明が足りません!!!」


「無駄だから削れた。以上だ」


「以上って言いましたよね!!!」


 カーヴェが後方から静かに見ていた。資料に何かを書き込んでいる。その手が止まって、また動いた。


 残った五人が立て直した。別の術師が新しい強化を重ねてくる。今度は系統を変えてきた。硬化(こうか)系と速度系の組み合わせだった。


 田中が三秒見た。


「……やっぱり無駄だ」


「その強化も無駄(ノーサンキュー)だ。削れ(プライスカット)


 また剥がれた。


「また剥がれました」とアルスが言った。いつの間にか腕立て姿勢になっていた。


「当然だろうが」


 ゼフィーラが右(よく)(おさ)えながら、こちらをちらりと見た。(昨日は正論が当たった)(今日はバフが削れた)(この男、明日は何をする)


「……田中。なぜやつらの強化が削れるのだ」とネネが驚いた顔をしながら言った。


「無駄だからだ」


「無駄だから削れる、というのは理屈として成立しているのか」


「成立している。常識だろうが」


「……そうか、なるほど常識だからな!」


 ネネがなぜか納得した。


(この二人の会話、私には介入できません)(いつもそうです)とエリュシアが思った。


 戦闘は、そこからは短かった。強化を剥がされた術師は、ただの一般人と変わりなかった。

 ゼフィーラが右を潰し、アルスが後方を抑え、ネネが正面の敵を崩した。田中は真ん中にいてほぼ何もしなかった。


 戦いは――終わった。


******


 戦闘後の処理を終えて、一行が倉庫を出たところで、カーヴェが声を上げた。


「ねえ、田中」


「なんだ」


「昨日の現象と今日の現象、名前つけた方がいいと思って——昨日のが常識断罪コモンセンス・ジャッジ、今日のが強制削減(フォースド・カット)。まとめて昭和製造法レガシー・プロダクションでいいんじゃない」


 アルスが固まった。「それ……かんっぜんに今つけたやつですよね?」


「今つけたわよ、悪い?」


「《《いまかよ》》!!!」


「……そんな名前か」と田中が言った。


「知りませんでしたか」


「知らん。無駄だから削れただけだ」


「師匠は自分が何をしているか把握していないんですか!!!」とアルスが言った。


「把握している。無駄を削った。それだけだ」


「それだけじゃないんですよ!!!」


 カーヴェが資料に書き込みながら続けた。

常識断罪コモンセンス・ジャッジは正論を力場に変換してる。

 強制削減(フォースド・カット)は相手の強化を"無駄"と判定して剥離(はくり)する。

 どちらも、判定者の確信の深さが基準になってる。理論上は再現できないわ」


「できんのか」と田中が言った。


「あなたの23年間が基準だから。同じ23年間を持ってる人間がいなければ」


 田中が少しの間、黙った。


「そうか」


 それだけ言って、歩き始めた。


 カーヴェ:

 (自分の技に名前がついていない人間を初めて見たわ)

(でも一番タチが悪いのは、それで確実に機能していること)


 エリュシアがカーヴェの隣に来た。「……カーヴェ」


「なに」


「……その名称、後で正式に教えてください。記録します」


「業務日報に書くの?」


「書きます」少し間があった。「私が先に調べるべきでした」


 カーヴェが小さく笑った。それ以上は何も言わなかった。


 エリュシアが内心だけで言った。

(笑わないでください)(腹が立ちます)

(でも……よかった、のかもしれません)(声には出しません)


******


 宿に戻ってから、アルスが田中に聞いた。腕立てをしながら聞いた。

 アルスが筋トレをしながら何かを聞くのは、最近の習慣になっていた。


「師匠。強制削減(フォースド・カット)は、どうすれば使えるようになりますか」


「なれん」


 アルスが一瞬止まった。「……え」


「さっきの話を聞いていたか」

「23年やってきたことが出ただけだ。お前にはお前の23年がある。それをやれ」


「……私は、まだ20歳です」


「だろうがな」


 田中が立ち上がった。窓の外を一度見る。今夜もそうした。


「あと3年あるな」


 アルスが腕立てを再開した。止まらなかった。止まれなかった。


(師匠の23年間)

(私は知らない)

(でも)

(やることは、わかっている)

(ひたすら、筋トレだ!!)


 グラが田中の肩に降りてきた。田中が左手でグラの背を一度だけ撫でた。


「……あと3年か」とネネが部屋の隅から静かに言った。


「そうだ」


「……長いな」


「そうでもない」


 窓の外で、王都の夜が続いていた。



※おじさん解説!


 カタカナを削ったゲームがある。

 1986年のドラクエだ。任天堂様のロイヤリティで流通した。容量の都合でカタカナが20文字しか使えなかった。「ク」がなかった。だから「ダークドラゴン」が「ダースドラゴン」になった。

「エ」もなかった。

 だからタイトルの「ドラゴンクエスト」は、ゲームの中では「ドラゴンくえすと」と書かれた。


 名前が変わったのではない。使える文字を削ったら、そうなっただけだ。


 カーヴェが「今つけた」と言って名前をつけた。

 ドラクエも、使える文字で名前をつけた。

 タイミングより、名前があることの方が大事だ。常識だろうが。


******


※神界業務日報 第十八回


カーヴェより命名報告を受けました。


常識断罪コモンセンス・ジャッジ(43話・発動(はつどう)確認済み)

強制削減(フォースド・カット)(44話・発動確認済み)

総称(そうしょう)昭和製造法レガシー・プロダクション


神界に前例を照会しました。

該当記録:なし。

本人に確認しました。「知らん」と言いました。

記録します。


追記:カーヴェが命名しました。私ではありません。

追記2:私が先に調べるべきでした。業務上の反省として記録します。


******


※魔王の家計簿 第十八回


今日の支出:夕食八G。


田中が「無駄だ削れ」と言ったらバフが剥がれた。

支出:〇G。

理由を聞いたが「常識だろうが」だった。


「常識だろうが」でバフが剥がれたということか。

節約は最強の魔法かもしれない。


カーヴェが技に名前をつけた。昭和製造法レガシー・プロダクションというらしい。

田中は「知らん」と言っていた。

名前を知らなくても使えるらしい。

よくわからないが、そういうものなのかもしれない。


アルスが「あと3年」と言われていた。

我はもう千年以上生きている。

「あと3年」という感覚が、少し(うらやま)しかった。

家計簿に書いていいことではないが、書いた。


******


※アルス修行日誌 第十三回


師匠が今日、バフを削った。


物理的に削れた。

腕立て千回との関係は、まだわからない。


「23年やってきたことが出ただけだ」と師匠は言った。

「お前にはお前の23年がある」とも言った。


私はまだ20歳だ。

あと3年分、足りない。

足りない分は腕立てで補う。

論理はないが、やる。


追記:カーヴェさんが昭和製造法という名前をつけた。「今つけた」と言っていた。

私は「いまかよ!!!」と言った。

でも名前がついてよかったと思う。

管理できないものは積み上げられないからだ。

これは師匠の言葉ではないが、師匠が言いそうなことだと思う。

腕立てしながら考えた。

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