005 正しいのは遅すぎるん?
どうにか更新を再開することが出来ました。
毎日この時間(20時50分)に積み上げていきたい所存です。
目指すぞ、エタ化回避っ!
放課後。
ざわめく教室が、ゆっくり、ゆったり遠ざかっていく。
わたしは席から立てずにいた。
隣を見ると。
親友のココロクルリはちゃんといる。
……いるんやけど。
ずーっと輪郭がぼやけてる気がした。いや、「気がした」どころやないほどに。
「来て」
振り向く。
サラが、教室の扉のところに立っていた。
いつの間にそこにいたのか分からない。
断れる雰囲気やない。
コクリと頷いて立ち上がった。
何か手立てを教えてくれる……雰囲気じゃないけど。
◆◆
連れて行かれたのは、空き教室で。
誰もいない。
カーテンの無い窓から、夕日のオレンジ光が色濃く差し込んでる。
やけに静かで。
教室の中央で止まったサラが振り返る。
「座ってください」
言い方は柔らかいのに、明らかな命令やった。
だけども素直に従い、近くの椅子に座る。
サラは立ったまま。
距離は近い。でもすごく遠い。
「確認します」
いきなりの本題か。
「あなたは、この世界の異常を認識していますね」
一瞬、言葉に詰まる。
でも。
「……してる、と思う」
自信はないけど、否定もできん。
サラは小さく頷いた。
「それで十分です」
それだけ。
どう納得されたのか、てんで分からない。
「あなたは例外です」
さらっと言われる。
「通常、認識はリセットされます」
――リセット。
その言葉に、胸がざわつく。
「ですが、あなたは保持している」
「……保持? なんで……」
思わず聞き返すと、サラは少しだけ間を置いた。
「現時点では不明です」
たぶんウソはゆってない。でも、全部は言ってくれてない。
そんな言い方。
沈黙が、陽とともに落ちる。
耐えきれなくなって、先に口を開いた。
「……あの子は」
ココロクルリ……ルリのことを言おうとして、言葉が詰まる。
サラが続ける。
「原因個体についてですね」
「原因個体? なにそれ」
妙な言い方に、少しだけ引っかかる。
「過去に、同様の事例があります」
「……それって」
頭に浮かぶ名前は一つしかない。
「黒姫……?」
サラは否定しなかった。
「……そうですね。その人は、そう呼ばれていました」
呼ばれていた、と?
それだけ?
「その事例は、解決済みです」
簡単に言うし。
ホント、簡単に言いすぎてる!
「……解決って。どうやって」
聞いてはいけない気がしつつ、問うた。
聞かずにはいられなかったし。
サラは、少しも迷わなかった。
「排除です」
心臓が、跳ねる。
「放置すれば被害は拡大します。よって、原因を除去したんです」
当たり前みたいに言う。
「……それ、おかしいでしょ」
気づいたら、言っていた。
サラの視線が、まっすぐに向く。
「全然おかしくありません」
即答。
「個体に意味はありません」
「全体の維持が優先されます」
分かる。
言っていることは、だいたい分かる。
でもさ。
「……でも」
言葉が出ない。
ルリの顔が浮かぶ。
あの声が、頭に残ってんや。
【消さないで】
「それでも、あの子は――」
言い切る前に、サラが言う。
「感情は判断を誤らせます」
遮るように。
その言葉は、冷たかった。
……でも。
ほんの一瞬だけ。
声が、遅れた気がした。
気のせいかもしれん。
分かんない。
サラを見た。
「……じゃあさ」
喉が詰まる。
「黒姫は、それで良かったん?」
沈黙。
視線をわずかに落とす、サラ。
ほんの一瞬。
そして、すぐに戻る。
「彼女は正しい選択をしました」
答えに迷いがなかった。
「だって全ては救えないからです」
それだけか。
それ以上は、何も言わんの?
次の言葉を探す。
何か言わなきゃいけない気がするのに。
何も、出てこん。
正しいのは、サラ。
多分。
でもさ。
それでいいって、どうしても思えない。
「……わたしは」
声が震えるのを感じる。
「それでも……」
その先が、続かない。
サラは何も言わずに待っていた。
でも――。
言葉が出んかった。
再びの沈黙。
長い時間のあと、サラの方が口を開いた。
「現状は保留します」
落ち着いた静かな声。
「ですが、次はありません」
一歩、近づいて来る。立ち上がり、後ずさるわたし。
カーテンの揺らぎに触れ、逃げ場がなくなる。
「判断は、あなたに委ねます」
理解が追いつかない。
「……なんで、わたし?」
思わず聞く。
「あなたが例外だからです」
それだけだった。
サラはそれ以上何も言わず、教室を出ていった。
一人きりになる。
気付いたら床にへたり込んでたけど、しばらくそのまま動けなかった。
やがて、やっと立ち上がって、自分の教室に戻る。
扉を開けると見慣れたいつもの景色で。
……いや……いつものはずやのに。
違って見える。
席に座る。隣を見る。
ルリは、いた。
でも。
少しだけ。
ほんの少しだけ。
また、薄くなっている気がした。
「……ねえ」
声に出してみる。
返事は帰って来ない。
分かってる。
聞こえてるのは、わたしだけやから。
それでも。
「……まだ間に合う?」
やっぱり答えは無い。
ただ。
――ルリは、そこにいた。
消えかけたままで。
今のわたしは、何もできなかった。




