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【完結御礼】思い出したら世界が終わる――過去の記憶を失くした転生魔法姫は、それを知らない  作者: 香坂くらの


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004 正常は優しくない


「……なんか、ヘン」


 そう気づいた瞬間、背すじが冷えた。


 その日、教室はいつも通り。

 騒がしいし、笑い声もある。


 ……やのに。


 今までずっとあった違和感が。

 現実が歪んでるような、あの感覚が。 ――ゼンゼンない。


「やっと気づいたにゃ?」


 窓際に。

 ちょこんとマカロンがいた。


「……何が?」

「その感覚。補正にゃ」


 軽い答え。でも、目は笑っていない。


「この世界はいま、【まとも】にされつつあるにゃ」


 はぁマトモ? 意味ワカラン。

 それでも、それって良くないんやない? とはなぜか思った。


 カツンと。

 教室の扉が開く。


「……失礼します」


 もの静かな声がした。

 それだけで、教室内の空気が止まった気がした。

 誰もなんも言ってないのに、クラス全員が無意識に姿勢を正す。


 入ってきたのは、一人の女の子で。

 まっすぐの黒髪、細い黒フレームのメガネをかけてる。

 ピシッと制服を着こなしてて、完璧感ハンパ無し。


「……サラ、先輩?」


 誰何が呟く。

 あわせてざわめきが広がる。


「戻ってきたの……?」

「一年ぶりって……」


 ――サラ。わたしは知らん名前やった。

 添え物のように横についていた担任が説明する。


「サラさんは長期休学していました。じゃあ出席を取ります」


 え、それだけ?


 何事もなかったように、サラって子が知らん間にあてがわれていた席につく。

 クラスメートたちは、もはや彼女に注目していない。……いまのでみんな納得したの?


 ……この子。

 いや違う。


 この世界の人たちはみんな、どこか(いびつ)や。


 でもたぶん、この子だけは違う。

 むしろ、この子()()が現実そのものみたい。

 唯一の【正常体】とゆーべきか。


「……っ」


 わたしの隣で、何かが揺らめいた。


 ルリ。


「……薄い」


 思わず、声が漏れてしまった。

 彼女、昨日とは比べ物にならないほど輪郭が崩れている。

 ――まるで、激しくノイズが走ったみたいみたいに。


「……やめて」


 かすれた声。


「来ないで……」


 その視線の先に。


 ――サラ。

 サラが、こっちに歩いてくる。


 一歩。

 また一歩。


 そのたびに。

 世界のズレが消えていく。

 息が苦しい。


「……確認」


 目の前で止まる。

 その目が一瞬だけ。


 わたししか【見えていないはずの】ルリのいる場所を正確に見てから、わたしにこう言う。


「観測対象を確認しました」

「……え?」


「あなたが【代替個体】ですね」


 代替え? 何の?

 頭が追いつかない。


「なに、それ……」


 淡々とした口調が返る。


「この世界は現在、不安定です。原因ははっきりしてます」


 一瞬だけ、わずかにひそめる声。


「――過去への過剰な執着のため」


 また、ルリの方を見た。

 ルリの身体がブルッと震える。


()()を中心に、現実が歪んでしまってます。よって、()()を修正すべき対象と判断します」

「やめて……!!」


 ルリの叫び。

 でも。教室の誰の反応も無し。

 悲鳴が聞こえているのは、きっとわたしだけ。


「消さないで……!」


 胸が痛い。

 でも続けるサラ。


「不要な干渉は排除するしかないの」


 その瞬間。

 ルリの身体が、崩れた。


 光みたいに。雑なノイズみたいに。

 うっすらと消えていく。


 ワッと驚いてしまった。

 教室の天井に魔法陣が刻まれている。

 さっきまで無かったのに。


「――ちょ待って!!」


 気づけば叫んでいた。

 サラが止まる。わたしに振り返る。


「止める理由を訊かせてください。どうして【不要物の排除】を止めるの?」


 言葉が出ない。

 きっと正しいのは、この子だ。


 そして世界を壊し続けてるのは、ルリの方で。


 それでも……!

 となりを見る。


 消えかけている。

 でも。まだいる!


「……それでもっ!」


 声が震える。


「この子は、――ルリはちゃんと()()から」


 黙るサラ。


 窓辺のマカロンの尻尾が振られる。


「へぇ。そっちなんだ」


 数秒間、サラとの見つめ合いが続いた。

 ほんの少しだけ。彼女の口元がほころんだ……気がした。


「……一時保留」


 その瞬間、威圧的な空気が去った。

 かろうじて戻る、ルリの輪郭。

 完全じゃないけど。

 消えてはない。


 そのまま席の方へ反転するサラ。背中向きに言う。


「感情は、判断を誤らせます。――次はありません」


 教室がまた動き出す。

 この遣り取りが、まるでなかったみたいに。


 動けなかった。

 となりを見ると。


 ちゃんとルリはいた。


 でも。

 さっきより、ずっとずっと遠い。


 ルリは、サラを睨んでいた。

 怯えた目で。

 確かに何かを【理解した目】で。


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