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【完結御礼】思い出したら世界が終わる――過去の記憶を失くした転生魔法姫は、それを知らない  作者: 香坂くらの


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003 見えたのに、触れられへん


「……なんで、それ知ってるの」


 問い掛けられて、モヤモヤしてた空気がピタッと止まった。


 ――ココロクルリやと。


 今、確かにそうゆった。

 わたしの口が。

 ……勝手に。

 やから、


「……知らん」


 って正直に答えた。


「でも。知ってる気がした」


 そしたら相手は沈黙した。とっても重たい沈黙やった。


「……サイアク」


 ポツンと、小さな呟き。

 その瞬間——。


 空気が、形を持ちはじめた。


「……え?」


 視界の端っこに、ノイズみたいな影。


 ――それは……人の輪郭!


 けれど幾らも安定しない。悪く言えば【人の輪郭に見える】だけ。

 がんばって見ようとすると、逆に崩れだす。ただ眺めるしかない。


「……出てきましたにゃ」


 マカロンが静かに言う。

 いつもの軽さが、ほんの少しだけ消えている。


 ――それは。

 わたしのすぐ後ろに立っていた。


 振り返ると女の子。

 ……のはずやのに。


 どうもやっぱ、焦点が合わない。

 存在してるのに、カタチが曖昧。


「……何それ」


 思わずゆってしまう。


「それ、初対面の人に言う言葉?」


 即座に返ってくる。

 少しムッとしてる。その声は、はっきりしてた。

 でもやっぱし姿は不安定。


「……あんた、ルリやんね……?」


 一瞬だけ、像が定まる。

 金髪でツインテール。

 魔法学校の制服で。


 わたしよか、少しだけ大人びた顔。

 不機嫌そうな目。


 でも次の瞬間、また揺れる。


「……そうよ。ココロクルリよ」


 腕を組もうとして、少しだけ形が崩れる。


「わざわざ何よ、その確認?」

「いや、だって見えへんし」

「見えてるじゃん」

「いや、見えてへんって」


 言い合いになりかけて、ふと止まる。


「……あれ」


 さっきより、少しだけ。

 輪郭が保たれている。

 ルリも気づいたらしい。


 眉をひそめる。


「……なんで」


 小さく呟く。


「なんで、今回だけ……」

「今回って何回目なん」


 すかさず聞く。


「……別に」


 視線を逸らす。

 でも、誤魔化しきれてない。


「……あんたさ」


 一歩、踏み出す。


「これ、何なん」


 質問にルリ……さんは答えない。いや……友だちに『さん付け』にはヘンか。ルリはまともに答えてくれない。


「……だから壊れてるって、言ったでしょ」


 代わりに、独り言のようにぽつり。


「世界も、あんたも、わたしも」


 壊れてる?

 その言葉に、背中がブルッとする。


「……なんで壊れてんの」


 そしたらまた沈黙。

 ルリの輪郭が、わずかに揺れる。


「……わたしが」


 元気ない声。


「壊したから」


 ズンって空気が重くなる。


「……なんで? どーして?」


 聞き返すが返事無し。

 別の声がなり代わった。


「それ以上は、まだ早いですにゃ」


 マカロンだった。

 テーブルの上で、じーっとこちらを見ている。

 さっきまでの軽さがない。


「……マカロン! あんた!」


 ルリが、マカロンを見る。

 すると一瞬だけ 完全に、姿が安定した。


「まだ、いたんだ」


 その一言。

 空気がユラッと、少しだけ変わる。


「失礼ですにゃ」


 マカロンの尻尾が揺れた。


「元々はあなたの側ですにゃ」


 固まるわたし。


「……は?」

「だってボク、ルリさまの元使い魔、ですにゃ」


 あっさり言ってのけるとルリが顔をしかめた。


「……やめて。その言い方。……確かにそうだけど」

「事実ですにゃ」

「もう違うでしょ」


 即座に否定。


「もう、違うのよ」


 その言葉に、少しだけ棘を感じる。距離がある。

 切れかけた繋がり……。

 マカロンが、ほんの少しだけ目を細め。


「……そういうことにしておきますにゃ」


 軽く流す。

 でも。

 空気は、完全に軽くならない。


「……戻したいだけ」


 ルリがぽつりと呟く。


「元に」

「元?」

「黒姫さまがいた時に」


 その瞬間。

 また明らかに空気が歪む。

 ダイニングキッチンの冷蔵庫も、食器も、アンテナ付きのテレビも、珠のれんも同時に揺れ出した。


「だから——」


 強い視線が、わたしに向く。


「こんなのじゃダメなの」


 ルリ……ココロクルリが、ハッキリと見えた。

 今度は逃げない。


「黒姫さまは、もっと——」


 言いかけて、黙る。

 まっすぐにわたしを見て。


「……違う」


 小さく呟く。


「やっぱり違う」


 胸に刺さる。

 思ったより、重く。


「……そりゃそうやろ」


 自然に言葉が出た。


「わたし、黒姫ちゃうし」


 ルリが止まる。


「……分かってる」


 でも、その声は。

 全然納得してない。


「分かってるけど」


 一歩、また一歩。ゆっくりと近づく。

 ほぼ距離がゼロになる。

 それでも。

 触れられない。

 手を伸ばしても、すり抜ける気がした。


「それじゃ、困るの」


 その一言で。

 世界が、音を立てて軋む。


「やり直す」

「それは! ダメですにゃ!」


 マカロンが即座に言う。


「今回、かなり安定してますにゃ。まだマシですにゃ!」

「関係ない」


 迷いのない声。


「こんなの、意味ない」


 世界が、崩れかける。

 でも。


「……それでも」


 口が勝手に動いた。

 ヘンなコトを口走ってしまった。


「わたしはここにおるで」


 一瞬。

 全部が止まる。


 ルリも。

 マカロンも。

 そして、風景の歪みも。


「……は?」


 間の抜けた声。


「黒姫ちゃうけど」


 一歩、踏み出す。


「わたしは、ここにおる」


 届かない距離。

 でも、確かに向き合う。


「それじゃ、アカンの?」


 繰り返す沈黙。

 ルリの輪郭が揺れる。


 壊れるんじゃなく。

 迷っている。


「……イミ、分かんない」


 小さな声。消え入りそうな。


「……そんなの、意味ない」


 でも。

 さっきほどの強さは、ない。

 その隙間で。


「……止まりましたにゃ」


 告げるマカロン。

 合わせるように歪みが、ゆっくり、ゆっくり、収まっていく。


 完全じゃないけど。

 壊れなかった。


 初めて。

 ……壊れなかった。


「……なんなん、これ」


 息を吐く。

 目の前には、不安定なままのルリ。

 金髪のツインテールが、かすかに揺れている。


 未だ触れられない距離やけど。

 でも確かに、そこにいる。


 金髪ツインテの女の子。

 魔法学校での親友のはずの、ココロクルリが。


 いた。


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