004 もっかいやり直し
電車を降りて改札を出るとアーケードのある商店街があった。
前から来た魔法学校の女子生徒たちを眺めた。
わたしに気付いた彼女らはいったん立ち止まって敬礼し、脇を通り過ぎて行った。
わたしは緊張を覚え、駈け出した。行き着く先は我が家、わたしんちである。
売約済の貼り紙を指差しで確認し、中へ。
玄関すぐの階段を一瞥してからキッチンにイン。
「……同じや」
吐息でつぶやき、内装を見渡す。次の間との境にガラス細工のキレイな玉のれんが揺れている以外は、気付ける範囲で異状は見当たらなかった。
真正面の、姿無き相手に対したわたしは意を決して話しかける。
「マカロン。ちょっと話がしたい。――そこにいるんでしょ?」
そしたら。
ズシリと頭に異物がのしかかった感触を覚えた。それはそのまま居座った。
ココロクルリさんの使い魔、妖猫マカロンだった。
「黒姫さま。もう一度言うけど、ここはルリちゃんの家だにゃ」
「そう。ココロクルリさんとわたしの共同住宅。それは分ってるよ。――でさ、どうしてココロクルリさんはわたしをこの世界に跳ばしたの? 理由が知りたいんだ」
両脇を抱えてテーブルに降ろす。ふわっふわの毛並みの触り心地が最高だった。
「ルリちゃんの行動のワケ?」
「それはわたしが教えてあげるわ!」
わたしらの会話に割り込んで来たのは金髪ツインテの女の子。
ココロクルリさん本人。
食卓テーブルの上に乗り、仁王立ちでわたしを見下ろしている。
「でも先にわたしの方から質問させてよ。黒姫さまじゃないアンタがなんでわたしの目の前に現れるわけ? 何度繰り返しても、どうして同じなわけ?」
「ゆ、ゆってるイミがいまいち……」
ココロクルリさんは「転移」と呪文らしきコトバを唱えた。
またもや景色が歪みだした。
◆◆
ガタゴトガタゴト。
またもや電車に乗っている。
降りる駅はとうに理解している。ドアが開くのももどかしくホームに出る。
改札を出てすぐのアーケード商店街で魔法学校の生徒らに出くわす。状況は前回、前々回と変わらない。
受けた敬礼を敬礼で返した。
そして注意深く、再び周囲を観察する。
やっぱり前回2回と比べて、店の並びやアーケードの高さなど微妙なところで違いがあった。
深呼吸し、少し歩いた。
前から見知った人が来た。
「サラさん」
「また会えて良かったわ。今回はわたしの事を覚えてくれているのね?」
「どういう意味ですか?」
「わたしたちは幾度となく、似て非なる世界に跳ばされてるの。ココロクルリの個体スキル、【転移】によって、ね」
似て非なる世界?
転移?
「ココロクルリは恐らくパニックを起こしてる。黒姫がいない世の中を間違った世の中だと思い込んでる。だから何度も個体スキルを発動させて、彼女の思う元の世界に戻ろうとしているのよ」
個体スキル。
その単語は何となく憶えている。
魔法使がそれぞれ個別に有する得意魔法技能だ。
ココロクルリさんは転移という途轍もない能力を有してるんだ。
「あの……ココロクルリさんって、わたしの友だちか何かですか?」
「……そのあたりはまだ思い出せないのね?」
……う、うん。
思い出せ……ない。
「あの子、もしかして、わたしの親友だった子?」
「ま、まぁ。そう、じゃない?」
ココロクルリ。
ココロクルリ。
うう。思い出せそうで思い出せない。
「暗闇姫ハナヲ!」
突如の呼び捨て。
今度はナニ?! きょろきょろ探せど、声の主の姿が無い。
「どこ、どこなん?!」
「上よ、う・え!」
アーケードの屋根の支柱、横に渡った鉄桟の上に立っているココロクルリさん!
なんてバランスの良さ!
「ココロクルリさんっ!」
あぶないっ。
それに。
「降りなさい。パンツ丸見えよ!」
あ、サラさんが先に言っちゃった。
途端にココロクルリさんのカオが火が出たように赤く染まり、ツインテが逆立った。
「――はん、パンツ? ……! き、きゃあ! 見るなっ!」
飛び降りた!
いや、消えた! つか真横に来た! まっかっかのカオでわたしらをにらんでる!
「あなたも見た?」
「み、み、み……」
「見た、のね?」
コクリ。
その瞬間、景色が歪んだ。
「あああああー、待って、待って、まってええええ!」
けども、今回もジ・エンドだったなり。