002 家の掃除をした
いきどおるね、まったく。
どうにか辿り着いた我が家らしい家は「もらいものか」と思いきや、普通に買わされた。
築年数はだいぶ経ってるカンジやし。んー、築30年以上?
なのに35年ローン。
「ひどい。ひどすぎる……」
――で、そのときになってわたしはようやく気付きました。
「ちょっと待って。このうち、どーして家財が揃ってんの?」
ゴハンを食べるためのテーブルしかり、照明しかり、すぐ隣の畳の部屋には座卓、座布団まである。
そしてまさにわたしが手を掛けてるのは白物家電の王さま、グリーン色のオールドデザインのツードア冷蔵庫。
恐る恐る開けると――、キムコ? 脱臭炭のみがポツンと冷やされていた。
「カラッポ。……ま、食べ物がぎっしり詰まっていたらいたで怖いけどね」
ドアを閉めたわたしはひとまず掃除をしようと思い立った。
よーく見るとホコリがやや積もってるし、物が雑然と散らかってる。わたしは別に掃除好きや無いんやけどもせっかくヤル気が芽生えたので思い切って始めた。
ハタキで上の方の塵を降ろし、掃除機で吸い込む。
モップをかけてから雑巾で床をぬぐう。
真面目にやったら1時間も掛かっちゃった。自己最長記録を更新。
あとはゆーっくりと、キレイな布巾であらゆる器物をピカピカに。これから大事に使わなくちゃーならんもんねぇ。
特にテレビさんは念入りに。贔屓やとゆわれても構わん。
わたし、テレビって今までほとんど見んかったもんで、逆に物珍しくてバラエティとかドラマとか歌番組とか見るねん! もちろんアニメも楽しみ。などと内心はしゃいだ。
日が落ちて部屋に照明を灯したとき、ようやく満足したわたしは心地いい疲れを満喫した。
キッチンテーブルに着き、向かいの空席のイスを眺める。
「――さ、そろそろハッキリと姿を見せてよ。知らないさん」
見えない相手に話しかけた。
だいたいの見当をつけて話しかけた。
きっと、わたしを見張ってるヤツがいる。そう踏んでの問いかけやった。
「どうして気づいたかにゃ?」
なんと!
返事された!
「わたしは……えーと……黒姫! あなたは?」
「ボクはマカロンですにゃ、お目にかかり光栄ですニャ、黒姫さま」
はっきりと子ネコの姿が浮き彫りになって現れた。
テーブルの上で正座をしている。礼儀正しいけどネコには苦しい姿勢でしょ、ムリしないで?
「ボクはルリちゃんが帰宅すると思ってたの。そしたら黒姫さまが帰ってきて掃除を始めたからビックリしたにゃ!」
「そーなの? 何だかゴメンね」
けれども……。
表札には「売約済み」って書いてあったし、わたし名義の35年ローンの売買契約書があったし、そのつもりでここに住む決心をしただけだし……。
「ここってルリちゃんって人の家なの? わたしさ、記憶なくしててそのあたりの経緯っていうか事情がいまいち分かってないんだよね」
「この家はルリちゃんち。魔法学校から宛がわれた持ち家ですにゃー」
ピンポーンと玄関でインターホンが鳴った。
訪ね人? あ、もしかしてその、ルリちゃん? 「はーい」と出ると、眼鏡をかけた細身の美人さんがいた。わたしより年上っぽい。
「魔法学校、生徒会長のサラよ。ここらの地区長も兼任してるわ。今日越してきたのね? 黒姫――じゃなくってえーと――暗闇姫ハナヲさん」
「黒姫だそうですが」
「いいのよ。いまは暗闇姫ハナヲで」
「暗闇姫ハナヲ?」
「そう。それがあなたの名前。あなたは黒姫と名乗るより、暗闇姫ハナヲがしっくりくるわ」
玄関先でまくし立てたかと思いきや、勝手にズカズカと上がり込んで来る。
「ふーん。さっきまで誰と話してたの? ひょっとして妖猫マカロン? さてはあいつ、わたしを見て逃げたわね……!」
「ようびょう?」
「あれは上級魔法使いココロクルリの使い魔なのよ」
えらく自分のペースでしゃべる人やな。わたしを見てしゃべっているから、当人は会話のつもりなんだろうけれど、こっちはほとんど会話してる気がしない。
「サラさん! わたしから質問がありマフ」
あ、噛んだ。緊張しちゃった。
「なに?」
「結局この家は誰の家なんですか?」
「この家はココロクルリとあなたの共同住居って事になってる」
「共同住居?」
自分の手のひらに載せた物をわたしに見せるサラさん。
朱色に染まったやや大きめの鈴? で【伍】と金色で文字が大書されている。
「暗闇姫ハナヲさん。あなた、わたしの手伝いをしなさい。そしたら鈴の取得を推薦してあげるわ」
「鈴? 手伝いですか?」
「そう、手伝い。一緒にココロクルリを捕まえるのよ」