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【完結御礼】思い出したら世界が終わる――過去の記憶を失くした転生魔法姫は、それを知らない  作者: 香坂くらの


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001 わたし、これ何回目なん?


 ――ガタゴト、ガタゴト。


 目を覚ましたとき、わたしは電車に乗っていた。

 知らん電車やった。


 でも。


「……ああ。またや」


 口から出た言葉に、自分で固まる。


 なんで?

 なんで「また」なんて思ったんやろ。

 初めてのはずやのに。

 知らんはずやのに。


 やのに、この揺れも、この匂いも、この古びた座席も——。

 ぜんぶ、知ってる気がする。


『次は魔法区。()()の方はこの駅が終点です』


 車内アナウンスが流れる。

 その声に、胸の奥がちくりと痛んだ。やっぱり理由はワカラン。


 とにかくも……終点?

 なにが終わるんやろ。


「……気持ち悪」


 ぽつりと漏らた。


 キョロキョロしたけど、車内にはわたし以外、人気無し。

 窓の外には、見たこともない街。


 けど。


 降りる駅も、進む道も——。

 なんだかわかってしまう気がした。


 キキキーとブレーキ音と共に電車が止まる。

 そんで、ドアが開く。


 考えるより先に、身体が動いた。

 ホームに降りた瞬間。


 世界が。

 そう、世界が。

 ほんのすこーしだけ「ズレた」。


「……え?」


 ホントに一瞬だけ。

 同じ景色が重なった。


 『今』と『どこかの記憶』が。

 でもすぐに消える。

 「スーッ」と、息が浅くなる。


 なんや、これ。


 改札を抜けると、アーケード街……やった。石造りの街の中に、昭和の商店街。

 チグハグやのに、みょうに馴染んでいる。


「……夢、なん?」


 違う。夢にしては、匂いがリアルすぎる。


 前からセーラー服の集団が歩いてきて、目が合った。

 そして——。

 全員、同時に敬礼した。


「……は?」


 怖い怖い怖い。


「やっぱり……」

「来たんだ」

「今回も——」


 敬礼した後に、ひそひそ。

 最後の一言だけ、はっきり聞こえた。


「黒姫さま」


 心臓が、強く跳ねた。


「……誰なんや、それ!?」

「え?」

「自分の名前でしょ?」


 知らんて、そんな名前。

 けども。

 別にイヤやない。

 むしろ、胸の奥がざわつく……とゆーか。懐かしいような、怖いような。


「……わたし、自分の名前も分からんねんけど」


 正直に言うと、彼女たちは顔を見合わせた。

 それから。

 小さく、ため息。


「また、なんだ」

「え?」

「……ううん、なんでもないよ。ねぇ」


 また?

 またって何?


 道を教えられる。

 やけに詳しい。

 何回もやってるみたいに。


 背中に視線を感じながら、歩き出す。


 坂道。神社。細い道。


 ——ここ。この道。……知ってる。


 嫌な確信が、じわじわ広がる。

 一軒の家。


 古い。

 玄関に紙が。


「売約済み」

「……誰の家やねん」


 やのに。

 迷いなくガラガラと……引き戸式の玄関トビラを開ける自分がいる。


 鍵は、かかってない。

 当たり前みたいに中に入る。


 入ってすぐにダイニングがあり、そのテーブルの上に、ポツンと紙。


 手に取る前から、内容が分かる気がした。

 でも、読む。


暗闇姫(やみき)ハナヲ様。本日より、この家はあなたの所有物となります』


「……は?」


 そして、もう一枚。


「……三十五年ローン?」


 その瞬間。

 頭の奥で、何かが軋んだ。

 ——これ、知ってる。

 見たことある。

 何回も。


「……ひどい。ひどすぎる……」


 同じ言葉が、勝手に出た。


 その時。


 背後に、気配が。

 ――いる。誰かいる。

 見えないのに、はっきり分かる。


 静かな息づかいと……視線。


 ——あと、感情。

 強い、強すぎる何か。


 これはたぶん、怒り。

 焦り。

 執着。


「……だれっ?」


 振り返る。

 もちろん誰もいない。


 でも。

 確実に、いる。


 頭の中に、知らない記憶が流れ込む。

 同じ家。同じ場面。同じ問い。


 そして——。


 この後、何が起きるか。


 知っている気がした。


「……出てきてエエんちゃう?」


 自分でも驚くくらい、自然に言えた。


 沈黙の間が流れる。

 一秒。二秒。三秒。


「……なんで気づくのよ」


 女の子の声。

 しかも、すぐ近く。


 でも、姿は見えない。


「今回も、同じこと言うし」


 ゾクっとした。


「……えーと……今回も?」

「ほんっと、イヤになる」


 苛立ちと、焦りと、少しの——。


 安堵、かな。


「……誰なん」


 喉が渇く。


「……覚えてないの?」


 その声が、ほんの少しだけ揺れた。


「——じゃあ、もういい」


 次の瞬間。

 空気が歪んだ。


「こんなの、違う」


 はっきりした怒り。


「黒姫さまは、こんなんじゃない」


 視界が崩れる。

 家が、街が、全部が混ざる。


「やり直す」


 その一言で——。


 ガタゴト、ガタゴト。


 眠りから覚めたとき、わたしは電車に乗っていた。


 まったく同じ座席。

 同じ揺れ。

 同じ景色。


 違うのはひとつ。


「……わたし」


 喉が震える。


「これ、初めてちゃう」


 ゆっくり、笑いがこみ上げてくる。

 怖いのに、どこか納得している。


「……何回目なん? これ」


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