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梅見坂奇譚  作者: 真桑瓜
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織姫の憂鬱

織姫の憂鬱


                    1



夕暮れ時、織姫は公園のブランコに揺られながら、メイメイとの戦いの事を考えていた。

「私は親に逆らってここまで来たつもりだったのに、結局は親の思惑通りにコントロールされていた訳ね・・・」その考えが、頭から離れない。

両親は私に英才教育を施そうとした。お稽古事は元より、塾に通わせ家庭教師までつけた。

良い学校に行って良い結婚相手を見つけ、立派な家庭を作るのが両親の望みだった。

全て他人との競争だ。それが嫌で家を出た筈なのに、いつの間にか他人に勝とうとしている。

それが両親を見返すたった一つの方法だと信じて。

これでは両親の思う壺ではないか・・・


『負けたっていいじゃないか』はるみ荘に帰ってから、秦が言った。『ルールのあるものはみんなゲームだ。ゲームなら楽しめばいいんだよ』


負けたって死ぬ訳じゃない。いや、みんないつかは死ぬんだもの。


織姫はブランコの上で立ち上がり、思い切り立ち漕ぎを始めた。

ブランコがギイー!ギイー!と悲鳴をあげる。


「お姉さん、荒れてるねぇ」背後から下卑た声がした。「俺たちが慰めてやろうか?」

いつ現れたのだろう?今迄気付かないなんてどうかしてる。

織姫は自分の不甲斐なさに腹が立った。

織姫は振り子の頂点でブランコから飛び降り、一回転してふわっ!と地上に舞い降りた。

「煩いわね、私、今機嫌が悪いの、関わると怪我するわよ!」

振り返ると三人の高校生がいた。ダボダボのズボンに、短い学ラン、髪は茶髪のリーゼント。典型的な不良少年達である。

「ウワッ!怖え〜、こんな美人なのにヨゥ!」

織姫は三人を無視して歩き出した。

「おっと、そっちは行き止まりだよ」二人が先回りして道を塞ぐ。

織姫は歩く速度を落とさず真っ直ぐ二人に突っ込んだ。

二人はちょっと驚いたようだったが、両手を広げて織姫を止めようとした。

瞬間、織姫が身を屈め両脚で地を蹴った。織姫の左右の脚がまるでバネ仕掛のように跳ね上がり同時に二人の顎を蹴り上げていた。

二人の不良は仰向けにのけ反り後頭部から地面に落ちて白目を剥いた。

「この野郎!」残った一人が叫ぶ。

織姫が振り返ると、不良はズボンのポケットからバタフライナイフを取り出して織姫に向けて構えた。

「野郎じゃないわよ!」

「るせぇ!」

カチャ!カチャ!カチャ!カチャ!カチャ!・・・・・

ナイフは高速で回転しながら不良の両手を不気味に移動した。

ナイフが左手に移った瞬間、切先が織姫に向かって突き出された。

「遅い!」織姫が余裕を持ってナイフを捌いた時、ナイフは宙を飛んで不良の右手に移り袈裟懸けに切り下ろされた。

「痛っ!」

織姫は左頬を押さえて蹲る。頬にヒリヒリとした痛みが拡がり織姫の左手は血に染まった。

「ど、どうだ!」不良は勝ち誇ったように喚いた。

織姫はキッ!と不良を睨む。その眼が怒りに燃えている。

「あわわわわわ・・・!」不良は織姫の眼に気圧され二三歩後退さった。

「許さない!」

うわー!と叫んで不良は背を向けて逃げ出した。

「待ちなさい!」織姫は逃げる背を追ったが、なんだか虚しくなって途中で追うのを止めた。

「私、何やってんだろう・・・?」

織姫はしばらく立ち竦み、そのままトボトボと歩いてはるみ荘に帰って行った。


                     2



僕は織姫の事が気になり始めていた。うなだれて出て行ったきり既に五時間は経っている。

アパートの玄関の前に出て、僕は織姫の帰りを待った。

電信柱の街灯に明かりが灯る頃、織姫がトボトボと帰って来た。左手で頬をおさえている。

「お帰り、どこに行っていたんだい?」

僕が尋ねると織姫が僕を睨んだ。

「あっ!どうしたの血が出てるじゃないか?」

「何でも無いわ!」

「何でも無い事は無いだろう、女の子が顔から血を流すなんて尋常じゃ無いよ!」

問いには答えず、織姫は僕の横をすり抜けて玄関に入ると急いで階段を駆け登った。

僕も後を追ったが、階段を登りきった頃には、織姫は部屋に入って鍵を掛けた後だった。

僕はドアをノックして織姫を呼んだが、返事は無かった。

隣室の山田さんがドアを開けて怪訝な表情で見たので、僕は仕方なく自分の部屋に戻る。

痴話喧嘩と思われたかも知れない。

それからキッチリ三日の間、織姫は一歩も部屋から出て来なかった。

僕は時折スーパーで買った弁当を織姫の部屋のドアノブに掛けて置いたが、暫く経つとそれらは消えていたから、織姫が食べたのに違いない。

深刻な顔をしていた割にはチャッカリしている。



四日目の朝、僕の部屋のドアが二度ノックされた。

「は〜い・・・」僕は寝ぼけた声で返事をした。

「先生、もう起きなさい!」

「お、織姫!」

「私、仕事に行ってくるわ。じゃあね!」

僕は慌ててドアを開けたが、もう織姫の姿はどこにも無かった。

何か吹っ切れたのだろうか?声はいつもの織姫に戻っていた。




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