「灰色街のネズミ捕り」
サウェルは他の兄弟と一緒に、ネズミ取りの練習をした。
母が見守る中、サウェルたちは天井裏を必死で駆け回る。
けれどネズミは手強く、俊敏で、角を曲がった瞬間にはもう、目の前から消えていた。
それでも、サウェルは諦めない。
野イチゴにまとわりつく、グリーンメロップの妖精のように。サウェルはしつこく、ネズミを追いかけた。
――『灰色街のネズミ捕り』第一巻
サウェルはローズヒップ宿屋の屋上から、灰色街を見渡した。
リンネ、ブラウン、アンバーアイ。兄弟たちの姿は、どこにも見当たらない。
サウェルが見上げると、街よりも暗い灰色の雲が、空を覆い尽くしていた。
ぽたりと鼻先にこぼれ落ちた灰の雫は、やがて大粒の雨となってサウェルに降り注ぐ。
サウェルの瞳に滲んだ悲しみを、灰色街の暗い曇天が、ゆっくりと洗い流した。
(中略)
あの右の欠け耳を、見間違うはずもない。アンバーアイだ。
サウェルは走った。黒鉄屋の梁を。ウォーターカッパーの倉庫の屋根を。
子供の頃のように、サウェルは走り続けた。
グリーンメロップの妖精のように。ネズミの尻尾をどこまでも追いかけていた、あの日々を思い出して。
でも、あの時にはリンネも、ブラウンも、アンバーアイもいた。お母さんもいた。
ふと思い出して、サウェルの世界は水で滲んだインクのように、ぼんやりと歪んでしまった。
――『灰色街のネズミ捕り』第三巻




