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「祭樹の角つき兎」
「見たら幸運が訪れる兎? いいことを教えてやろう、都会人。興味本位で、あれに会いたいなどと言うんじゃない。森には、あらゆる生命がいる。育む者や、狩る者……そしてあれは、試す者だ」
――森のレンジャー
その兎には、角が生えていた。
頭より大きく、艷やかで、立派な雄鹿の枝角が。
兎が降水樹の倒木に座すと、木の葉の隙間から差す陽光が一層強まり、純白の体毛をきらびやかに輝かせた。
私はその荘厳な姿に、目を奪われてしまった。
実際には数秒だったのだろうが、何時間もずっと、兎を眺めていたような気がする。
(読み取れない文字)
黒真珠のように丸い瞳が私を見つめると、兎は微かに首を振ったような気がした。
それから兎は深緑に覆われた天井を一瞬見上げて、倒木の影に降りると、私の前から消えてしまった。
(土で汚れた文字)
私はもう何日も、あの兎を探している。
だが、見つからない。
もう一度、あの兎に会いたい。もう一度だけでいい。
あの姿を。純白に輝く、あの角兎を。
この森のどこかに、きっといるはずなのだ。
きっと、どこかに――(歪んだ文字)
――『森で拾われたボロボロの手記』著者不明




