「港町のサキュバス」
「申し訳ございません、このような格好で」
――サキュバスを出迎える、みんなのお兄さん
潮風と船が行き交う、西の港町。
その町では、人が一晩の間に精気を失い、無気力になるという事件が度重なり起こっていた。
被害者は、みな男性。中でも特に、船乗りなど屈強な者が狙われた。
最初は魔法使いのしわざだと思われていたものの、明確な証拠は手に入らず、犯人の捜索は難航した。
その間にも被害は増え続け、町の男たちは震える夜を過ごしていた。
そんな時、ある男が立ち上がった。
港町で問題が起こったら、まず彼に相談しろ。そうまで言われる彼は、町人から「みんなのお兄さん」と呼ばれていた。
そして、いつも柔和な笑顔を絶やさない彼は、自分が囮になることで事件の解決を試みたのだ。
彼が夜の倉庫で、日課のトレーニングをしていた時だった。
ふと誰かが倉庫の扉を叩き、外から女の声が聞こえた。
お兄さんが上着を脱いだまま扉を開けると、立っていたのは妖艶な衣装に身を包んだ女性。
しかし、お兄さんは一目で気づいていた。目の前にいるのは、怪物サキュバスであると。
サキュバスは男を誘惑し、その力を吸い取る。
精力を奪われた男は生きる気力を失ってしまうが、いくつか対抗する手段はある。
誘惑に負けない強靭な精神、抗魔の道具。そして、より上位の存在によって、魅了がかけられている場合などだ。
このサキュバスは、相手の力を見誤っていた。
そしてこの夜を境に、事件が起こることは二度となかった。
「官能的だな、だが無意味だ」
――みんなのお兄さん




