転生
転生、生まれ変わり、前世の記憶を持ったまま。そんな事があるのだろうか? でも、実際に私はそれを体験している。
転生前の記憶、前世の記憶は凄く曖昧、人間だったのか、動物だったのか、あーでも人間だったのかも、性別は......分かんない、微かに思い出せるのは高い建物が沢山建っていて人が沢山いて、沢山の車が渋滞を起こして......車? 自動車? あれ?
「―――さま、―――嬢様? お嬢様!」
「ふぁい?!」
大きな声で呼ばれた私は机から顔を上げた、目が霞んでる。あれ? 寝てた?
「座学中に居眠りとは、珍しいですね?」
霞む目を擦りながら声がする方を向く、そこには背広姿で初老の男の人が立っていた。背中には茶色い羽。
「ごめんなさい、爺や」
「いいえ、流石に休憩を挟むべきでしたな。お嬢様はまだ五十歳、同じ年頃の子供達は未だに舌足らずに喋るしか出来ませぬ」
「そうなんだ?」
「はい」
爺やはパタンと手に持っていた本を閉じて机の上に置いた。
「少し休みましょう。何か飲まれますか?」
「ううん、外に出たい」
私は首を横に振ってからいつも座学をやっている教室の窓に目を向けた、良い天気。
「畏まりました、お嬢様」
机に向かって座っている私に近づいた爺やが白い手袋をした手を差し出してきた。私はその手に自分の手を重ねてから椅子から降りた。
その時、チラリと教室にある鏡に自分の姿が映る、焦げ茶色のサラサラの腰まである髪、頭には黒い角、瞳は蒼くて目の下、頬の上ぐらいに黒い三日月型の模様、背中の羽は黒く、紫色の紋様が浮かんでいる、白いドレスみたいな服のせいで余計黒く見える私の羽。
「ねえ、爺や」
「はい?」
私は鏡を見ながら爺やを呼ぶと、爺やは首を傾げた。
「私っておかしいの?」
「はい?!」
普段驚かない爺やが目を丸くして驚いてた。おー爺やって驚くとそんな顔するんだ。
「だって、五十歳でこんな姿の子共見たこと無い」
「あ、あぁ、そういうことですか」
「?」
爺やは懐からハンカチを取り出して自分の額に浮かんだ汗を拭いてからしゃがんで、私と目線を合わせた。
「いいですかお嬢様、お嬢様はどこもおかしくはありません、ただ、他の者より特殊なお生まれをされたのです」
「とくしゅ?」
「ええ、少し歩きましょうか」
そう言われて私は頷く、爺やがニッコリと笑いながら私の手を引いて教室を出た、私が住んでいる所は大きなお城みたいな場所、私や爺やみたいな姿の人が忙しそうに廊下を歩いてきては私を見た途端に足を止めて大きく頭を下げる。私はその人達に小さく手を振る。
少し歩くと広い中庭に出る、雲一つ無い青空にぽかぽかする陽気、日差しを手で遮りながら上を向くと大きな影が三つくらい見えた。
「......飛びたいなぁ」
私の呟きにピクリと爺やが反応したのを繋がれた手から感じた。
「ではお嬢様、此方に」
「うん」
私の歩調を乱さないように一緒に爺やは歩き出した。
「我々ドラゴンは卵からお生まれになります。それはご存知ですよね?」
「うん」
「卵から孵った子供達は目も見えない幼竜なのです、大体数ヶ月で目は見えるようになりますが、母親が付いて世話をしないとまだ未熟な骨格の羽を傷付ける恐れもあり、数年は子育てに追われます、そうですねぇ......個体差もありますが五年程度でようやく立って歩く感じでしょうか」
「へー......私は?」
「お嬢様は生まれて数日で歩きましたね」
「えぇ?!」
自分の顔が引きつった。
「ふふ、お嬢様は『龍人化』、我々ドラゴンが人の姿を模す技を使用した状態でお生まれになられたのです。そのようなことは我々一族、いえ、全世界のドラゴン達の歴史にはありません」
「え、え?」
「ですからお嬢様は神様から授かった神童だと当時は大いに沸きましたよ、お父上も大変喜ばれました」
それって私が転生したから? 前世が人間だったから?
「しかも他の子達よりも知能の発達が早い。お嬢様のお父上でさえ八十歳まで勉学などしなかったと聞きました」
「そう......なんだ」
知能の発達って言うより、歳を重ねるごとに思考に絡みついた鎖がほどけていく感じなんだよね。その時、風を切る音が耳に届いた。私は反射的に爺や手を振りほどいて右手を上に翳した。
「お嬢さ―――」
「『リフレクション』!」
そう唱えると幾重にも重なった魔方陣が展開されるそれを少しだけ傾斜させる
ガインッ! ドゴッ!
「ッ!?」
魔方陣にぶつかって大きな金属音と火花が散らしながら巨大な鉄の矢が地面に突き刺さった。
「こ、これは?!」
爺やが冷や汗をかきながら地面に突き刺さった物を見て驚いていた、今日は二回目の驚き顔だ。私は魔法を引っ込める、すると一匹のドラゴンが急降下してきた。青い体に所々装甲を付けたドラゴン。
そのドラゴンが地面すれすれで急停止してから着陸する、顔にも装甲を付けてるけど私達を見て目を見開いていた、あれ? 何か震えだした?
すると爺やがそのドラゴンの方を向いた。
「この戯けがッ! 何処の部隊の者か?! 貴様ッ! お嬢様に傷一つ! いや、砂粒一つ当ててみろ?! 儂がその首へし折るぞ!」
「落ち着いて爺や?」
「......コホン、失礼しましたお嬢様、それで? ここに攻城用の鉄矢を落とした馬鹿者は何処の誰だ?」
『も、申し分けございません! 鉄矢を運搬中に突風に煽られてしまい! 仲間の一人が荷崩れを―――』
「申し分けないで済むものかッ! 大体そのような物を運ぶ時は城の上を飛ぶなと―――」
私は溜息が出そうになった。説教が始まりそうな爺やの前に出て頭を下げているドラゴンに近寄る。
「お、お嬢様!?」
『ッ! ひ、姫様!?』
「もう済んだ事だから、荷崩れを起こした人に怪我はあったの?」
『い、いえ! 大丈夫です!』
「そう、なら今後こんな事が起きないようにみんなで話し合ってね? お父様には言わないであげる」
「お嬢様それは!」
「良いのよ爺や、誰しも失敗はあるのよ? たまたまその失敗に私達が居合わせただけだもの、不可抗力よ、それに、お父様に報告したらこの人達の首が物理的に飛ぶわ」
『ヒエッ!?』
「確かに......」
「だから、早く行きなさい」
『は、はい!』
ドラゴンは突き刺さっていた鉄矢を口でくわえて引き抜いて天に舞い上がっていった。私はそれを見ながらまたポツリと呟いた。
「......飛びたいなぁ」




