思い出
「......」
臭い―――
生き物の焼ける匂い、辺り一面には原型を辛うじて止めたドラゴンの死体、赤黒く燃える炎がそれらを焼き、独特な異臭を放っていた。
その中を自分一人だけが立って歩く、頭に着けていたティアラを外して炎の海に投げ捨てる、白かったドレスは所々破け、同族の血に染まって赤く染まった。
炎の中を歩く、熱さは感じない、燃えている木片や泥々に溶けた鉄を素足で踏み越えながら歩く。
「......」
立ち止まって見回す、あの子の家はこの辺だっただろうか? わからない、かつて村があった場所は何もかも燃えた。また歩き出す。
確かこの辺だ。
燃えて崩れた一件の家のみ前で立ち止まる。生きている訳がない、ドラゴンすら焼け死ぬ炎、使用者以外は確実に灰になる禁忌の魔術を使ったから。
「.....ごめん......ごめんなさい......」
その場に膝から崩れ落ちる、口から出るのは謝罪の言葉、聞く者は誰もいない、こうするしかなかった。こうしなければならなかった。
偽善かもしれない、ドラゴンとしてなら当然の行為だったのかもしれない、でも私は.....僕は、それは許せない。
「罪悪感......?」
「......」
後ろから声がする、膝をついたまま振り替えると腰まである金色の髪に赤瞳で腰からコウモリのような羽を生やし、白いゴシック調の服を身にまとった少女が立っていた。
「ディー......ネ」
「......はい」
「僕は......間違ってたのかな......?」
彼女はゆっくり歩み寄ってきて僕を抱き締める、その手と体は少し震えていた。怒りによるものなのか、恐怖によるものなのか、多分......哀しみ。
「......間違っていません......禁呪を使えと言ったのは私です、あの子が死ぬ事が分かっていて使えと言ったのです」
「こうしなきゃ、いけないんだ......僕の同族が......ううん、ドラゴン達が支配する世界になんてさせるわけにいかない、『使徒』でもあるドラゴン達を......」
「......はい」
自分を抱きしめているディーネの腕に自分の手を重ねる、僕とディーネはこの日、一人の親友を―――殺した。
「......」
熱い......思考が纏まらない、倒れて地面に転がっているのか、ベッドの上に寝かされているのか分からない、でも―――
「......嫌な......思い出......」
呟きと共にゆっくりと目を開ける、視界は霞んでいるが自分の部屋の天井だった。どうやらベットの上らしい、頭を動かそうとする、だけど全身に力が入らない。
あぁ、分かってる、何度も経験した症状。
「......お母さん?」
声が聞こえる、視線だけを動かすとそこには少しだけ泣き顔のサーシャが椅子に座って私の手を握っていた。
そっか......だからか。
「うん......少し......早い、けど......熱、でちゃった......」
「......良かった、心配した」
「ごめん......ね」
何とか握られた手を動かしてサーシャの頬に触れる、冷たい。
「......手、あっつい」
「そう......」
「......いつもの薬でいいの?」
「......うん、おねがい」
コクリとサーシャが頷いてから立ち上がると部屋の外に出ていった。薬品庫の鍵は持ってたよね、あの子......
「......サーニャ、僕はあの子を幸せに出来てるかな......?」
呟いてから天井を見つめる。
『この、子を......お願い、ね?』
ズキッ! と頭に痛みが走ってあの日の光景が蘇る。
『よく......見えない、けど......スミカ......と、ディーネ......ちゃん、なか、ない、で......? これで......よか、たんだよ?』
違う。
『二人は......辛い、だろう、けど......私は......幸せ、だった......か、ら』
瓦礫の中から掘り出した親友の体から力が抜けていく感覚が蘇る、自分の腕の中で死んでいく命。
「......泣いてるの? お母さん?」
「......」
いつの間にか戻ってきたサーシャの問いに答える前に、私の意識が闇に沈んだ。




