31泊目
「もう一度問おう、ティナ・サンシェット嬢は居るか?」
騎士さんがそう言う、だけど誰も何も言わない、立ち飲みしていた三人の背が高くて、体つきがいい冒険者の男の人達がお酒の入ったジョッキを持ちながらゆっくりと私を隠すように移動してきて、そのうちの一人と視線が合うと拳を握ってからビシッと親指を立ててニカッと笑った。
それを見ていたサーシャちゃんとサテラちゃんがお互いの顔を見て頷いた。サテラちゃんが騎士さん達の前に踏み出そうとした時、テーブル席に座っていた男の人が立ち上がった。
「おいおい、近衛騎士だか何だか知らねぇが、ここに争い事を持ち込むのは御法度だぜ?」
「......」
「それを知らねぇって言うなら初回は見逃してやる、だがな、知っててそんな完全武装で乗り込んで来たなら、ここにいる全員が相手になるぜ?」
数人が首や拳をパキポキと鳴らしながら立ち上がって騎士さん達に詰めより始めた。前に出た騎士さんを守るように後ろに居た騎士さん達が腰に下げた剣に手をかけた。
「やめろ!」
前に居た騎士さんが右手を上げると、剣から手を離した。
「部下が失礼した。我々もここでの争いが禁止されている事は十分承知している」
「だったら何の用じゃ?」
腰に手を当てながら騎士さんを睨むサテラちゃんがそう言うと被っている兜がゆっくりと動いてサテラちゃんに合わさる。
「本当はスミカ様に文を送り、正式に会うのが道理だ。だが今回は女王様直々の命令なのだ」
「女王の命令じゃと? 王命か」
「そうだ、失礼は百も承知、前段階を飛ばしてでも直ぐにティナ・サンシェットと言う少女の確保を優先せよとの命令だ」
冒険者の人達の後ろで私はまた震えた。
「何故じゃ? お主らは何の説明もなく連れていくのか?」
サテラちゃんがそう言うと、お店のあちこちから『そうだそうだ!』とか『説明しろよ!』とか、声が上がった。
何で、私の事をかばってくれるの? 余所者なのに......
「むぅ、確かに説明せずに罪人の様に扱ってしまったのは私の不備だ、それは謝罪しよう、だが理由は言えない」
「......言えないほどのなのかえ?」
「左様」
サテラちゃんが苦い顔をしながら頭を掻いて、溜め息を吐いた。
「分かったのじゃ、スミカを呼んでくるから待って―――」
ガシャンッ!
「なんだ?!」
「厨房の方から聞こえたぞ?!」
「ッ!」
厨房に近かった私は急いで厨房の中に入る。
「......え?」
私はその光景を見て唖然とした、床には割れた白いお皿が散乱していた、その近くにうつ伏せの状態でスミカさんが倒れて居たから。
「え? 何で? え、うそ......」
「なんじゃ?! 何が―――ッ! スミカ!」
「......お母さん!?」
動揺していた私の横からサテラちゃんとサーシャちゃんが駆け込んで来て、スミカさんに近寄るとサテラちゃんがスミカさんの額に自分の手を当てた、するとハッとしたあとに手を握り締めた。
私も駆け寄って倒れているスミカさんの近くでしゃがむと、額に大きな汗を浮かび上がらせて荒い呼吸をしていた。
「早すぎるのじゃ......」
「......こんなの初めて」
「え!? え?! スミカさんが倒れた理由知ってるの二人とも?」
「うむ、じゃがのう、本当は二ヶ月程先の筈なのじゃ」
え? それって定期的に倒れてるってこと?!
「どうかし―――ッ!? スミカ様?!」
さっきの騎士さんが甲冑を鳴らしながら駆け寄ってきた。な、何か凄く焦ってる?
「騎士長、スミカを運ぶのを手伝ってくれんのう?」
「あ、ああ、分かった! おい、誰か!」
「はっ! え?! スミカ様?! 敵襲ですか?!」
騎士さんの部下? の人が私達を見て驚いていた。
「馬鹿者! 狼狽えるな! 客達にスミカ様が倒れた事を悟られる前に今日はお引き取り願え、スミカ様の言葉だと言えば納得してくれるだろう、良いかな?、サテラ殿、サーシャ殿」
「そうじゃな、その方が混乱は少ないのう」
「......いい、早くやって、お母さんをここに寝かしておきたくない」
「承知した、分かったな貴様?」
「了解であります!」
部下さんが転びそうになりながら走って厨房を出ていった。




