泥沼
負傷した仲間達が最前線から戻ってくる、そのたびに一人、また一人と仲間が死んでいく、王家転覆をと起こした戦いは民衆を巻き込んだ内戦へと発展した。今では俺達の軍は革命軍と呼ばれている。構成員は半分以上が元エメル公国軍、もう半分が民間人だ。
司令所で俺は葉巻を加えながら地図を睨んでいた。
「それで? 前線は?」
「はっ! 我々革命軍が優勢ではありますが、やはり公国軍の装備がこちらを上回っています。鹵獲品も回してはいますが数が足りません」
「誰が装備のことなんて聞いてんだよ、結界だよ結界、前線に公国軍が張った結界の事を言ってんだ」
俺が睨み付けると、仲間の一人が敬礼した。
「は、はい! 現在公国軍は『都市大結界』を王都に展開、此方からの魔法攻撃や砲撃を一切受け付けません、数カ所で結界の解除作業が行われていますが敵の妨害がありまして......」
「妨害だと? 結界から出て来て攻撃してるって事か?」
「いえ、あの結界は外部からの攻撃や敵と判断した物を一切通しません、逆に向こうからは攻撃出来ます」
「はぁ」
ドサリと椅子に腰を落とす、なんつー面倒くせーもん張ってんだよ。
「それで、妨害ってのは?」
「長距離からの物理攻撃のようなのですが、その......」
報告をしていた仲間がたじろいだ。
「なんだ?」
「は、はい、音も無く、それでいて魔力反応もない攻撃です、やられた者は胸か頭に小さな穴が空いたり、顎から上が吹き飛んでいます」
「小さな穴だと......?」
俺は眼帯を指で叩いた。どこかで聴いた事があるぞ? そうだ! 思い出した。確か『勇者の遺産』とか言う奴に鉛玉を圧縮した魔力や火薬を使って高速で撃ち出す『銃』と言うのがあると聞いた。便利に見えるが不意を突かない限り魔法には劣ると言われてあまり研究されていない武器だ。
公国軍が銃を使っている? そんなハズはねぇ......俺が居たときにそんな物を配備したなんて聴いた事もねぇ......となると、だ。
「っち、傭兵だな、しかもかなり腕の良い傭兵だ、おい、お前!」
「はっ!」
俺は司令所の入り口に立っていた仲間を呼んだ。そいつが慌てながら俺の前まで来る。
「前線で解除作業をしている部隊を下がらせろ、どうせ結界の維持に使ってる動力源が尽きれば奴等は丸裸だ」
「了解しました!」
「他の奴等も聞いてたな? 結界が解除されるまでは様子見だ、偵察だけに抑えろよ? 下手に近づくと頭が吹き飛ぶぞ? いいな?」
「「「了解!!」」」
「よし、行け、仲間達に伝えろ」
葉巻を咥え直しながら言うと、仲間達は一斉に司令所から出て行って俺一人だけになった。
「狙撃手って奴か、おっかねーな......ふぅー」
煙を天井に向かって吐いた。
――――――エメル公国 王都 とある建物の屋上
「あー......二時の方角、魔法使いと数名の兵士だ、魔法使いを排除しろ、狙え」
「......すぅ」
息を吸ってゆっくりと片目を瞑り、スコープを覗いて黒い十字を魔法使いに合わせる。そして息を吐きながら引き金を引く。ドンッっと言う音と共に肩に当てているストックから身体に衝撃が伝わりそれをうまく逃がす。魔法使いの頭が吹き飛んで血の花が咲いた。
寝そべりながら構えている武器の上に付いている取っ手を引っ張ると薬莢が排出されて固い床に当たりキンッと音を立てながら転がっている別の薬莢に当たる。
「当たりだ、次、魔法使いの左に居る兵士、狙え」
「......すぅ」
同じように狙いを定めてまた引き金を引く、そして衝撃が身体に伝わった後、兵士が胸から血を流しながら倒れた。
「当たりだ、次......ん? あいつら撤退し始めたぞ」
「気づかれたー?」
「いや、多分結界の解除を諦めたんじゃねーかな?」
「ふーん、今日はー何人だったー? ジングー」
「今のところ十五人だ、カーラ」
「まずまずーだねー」
ジングが三脚の上に取り付けられた双眼鏡から顔を外した。私は身体を起こしてスミカちゃんが作ってくれた『ライフル』の安全装置を入れる、そして弾丸が詰められた箱、弾倉って言う奴を外して取っ手、ボルトを引いて弾を排出して布を付けた細い棒をライフルの先から入れて中を磨く。
「すげぇな、ライフルっていう武器もスゲーが、それを直ぐに使いこなすカーラもやべぇ」
「弓でー遠くの獲物とかー魔物狩ってたからー武器がー変わってもー全然気にならないかなーまぁー撃ち方とかー撃つ姿勢はースミカちゃんにー教わったけどねーこっちの方がー私は好きー」
布付きの棒を置いてライフルを撫でる、黒光りする外見に持ち手は狙いやすい様に考えて作られてるし、スコープっていう望遠鏡のガラスの純度もいい。ちょっと重いのが欠点かな?
「スミカさんやべぇ......それにしても、報酬が良いから飛びついた仕事だが......気が滅入るぜ」
「そうだねー」
「でもここで稼がねーと竜風亭で長期に泊まれねーし、がんばりどころでは有るが......残弾は?」
「二十発入りの弾倉がー十個かなー? 空のー薬莢にー魔力と鉛玉をー詰めればー大分保つー」
「契約終了まで二ヶ月だから余裕だな、公国軍から指示もねーからちょっと休憩にしようぜ」
「ほーい」
ライフルを抱えて私はジングと一緒に建物の中に降りていった。ふと、外を見る。彼方此方で煙が上がり、建物は瓦礫の山になっていた。今も外からは革命軍の砲撃と魔法が降り注いで、大きな音を立てて結界に当たっていた。
「泥沼、か。終わりが見えない戦いは嫌いなんだよね......」
「カーラー!」
「今いくー」
ジングに呼ばれて私は階段を降りた。あー眠い。




