手紙の行く先
暖かい日の射し込む窓辺で紅茶を飲みながら本のページを捲る、開け放たれた窓からは心地いいそよ風が吹いて私の髪をなびかせる。
『ん?』
「あら?」
私と私が同時に反応した、髪の毛を少しだけ引っ張られたような感覚、私の領域に何者かが侵入した感覚。
「誰かしら? 負の感覚はしないわね?」
『逆に神聖な気配がするが?』
「まぁ、行ってみましょう」
パタリと本を閉じてテーブルに置くと私は背伸びをしながら立ち上がった。本を読むときに使っている部屋を出て廊下を歩く、やっぱりちょっと広すぎるわね、玄関に行くまでが遠く感じるわ。
ふうっと小さく息を吐きながら歩いて玄関にたどり着く、そして扉を開ける。
「あら! 珍しいお客さんですこと」
口に手を当てて驚くと頭の中で声が響いた。
『厳重な守りでたどり着くのに苦労したぞ? しかも時間と次元まで弄ってあると来た。骨がおれるぞ、魔王よ』
純白の角と翼が生えた大きな馬、精霊王さんがそこに居た。
『元、な。我はもう魔王ではないぞ?』
「そうよ? 今は何処にでもいる普通の吸血鬼よ?」
『そうか、そうか、それは失礼したディーネ殿よ』
もう一人の私と私が反論する、精霊王さんが小さく頭を下げた。
『それで? 何の用だ? 精霊王よ』
『何、久々に召喚されたので挨拶をと思って、というのは建前だ、手紙を預かって来た』
「手紙?」
光を纏った封筒がふわふわと浮かびながら私の目の前まで来た、それを手に取ると光が消えた。
『確かに渡したぞ』
「あら? もう行くの?」
『ゆっくりしていけば良かろう?』
『有り難いが、そうも言ってられん、これでも王なのでな、忙しいのだ、気持ちだけ頂くとする』
「そう、またね」
精霊王さんが背景に溶け込むように消えた。私が手を振ってそれを見送ってから左手に持っていた封筒を見る。
『誰からだ?』
「精霊王さんにこんなこと頼むのなんてスミカしかいないわよ」
封筒をひっくり返すと『スミカより』って書いてある。何かしら? 取り敢えず、部屋で読む事にした私は玄関の扉を閉めて階段を上って、長い廊下を歩いてついさっきまで本を読んでいた部屋に入る。
「はぁ、やっぱり広すぎるわね」
『だが作り直す余裕も無いぞ?』
「わかってるわよ」
椅子に座って封筒を開ける、中には二枚の紙とさらに小さな封筒が入っていた。小さな封筒は後回しね。
二枚の紙を抜き取って開いてざっと目を通す。
『ここ最近の外の様子を綴ったように見えるが?』
「エメル公国で内戦が起きる......か、今のところは同じね」
『あの『本』を何処まで信じるかは我に任すが、それ以外のイレギュラーが起きているのも事実だぞ?』
「そうなのよねー、現にもう一人の私が出てきてる時点で『本』の内容と違うもの、それにここ、エメル公国から来たティナちゃんって子がスミカの所には居るらしいわよ」
『......ちょっと待て、そのティナとやらはまさか?』
「さぁ? どうかしらね、会ってみなきゃ分からな―――あ!」
言葉を途中で切って、私は小さな封筒を手に取って封を切って中を覗くと、数本の薄いサクラ色の髪の毛が入っていた。それに触ろうとした右手が急に動かなくなった。
『やめろ、微かに気配がする』
「私が言うなら間違い無いわね、『フレイム』」
封筒ごと髪の毛を跡形も無く燃やす。
「確定、か......」
『今はまだ動けん、スミカに任すほかあるまい?』
「そうなんだよねー、うーん......あと少しで掴めそうなんだよねー」
『それより返事はどうする?』
「封筒が消滅したら分かるから大丈夫って書いてあったわ」
『そうか、なら問題は無いな』
「そうね」
私は読みかけだった本を膝に置いてページを捲った。丁度そこは勇者が負けて魔王が高笑いしている場面だった。
「歯車は回り続けるわ、何度も、何度もね」
そよ風が私の髪を撫でた。




