29泊目
「このクソジジィがァ! 俺様のキュートなボディに何ぶっさしてんだァ! ぶへらッ!」
毛玉がお馬さんに向かって突進する、だけどそれを軽く交わしたお馬さんが今度は翼で毛玉をはたき落とすと地面にめりこんだ。
『少しは静かにしろ、本当に申し分けない。このめり込んでいる馬鹿はラヴァと言う、六属性の中で無属性を統べる精霊だ』
「無属性?」
『そうだ、重力や次元、光や闇を操る事に長けておる正直な所、ラヴァは強すぎる力を持ったが故に他者を見下す傾向がある、それは精霊同士でも同じだ。しかも、今まで此奴を呼び出せた精霊魔法使いはおらん』
それを聴いて私は今も地面に埋まっている毛玉―――じゃなかった、ラヴァを見る、そんなに強いようには見えないんだけど......サラマンダーの方が強そう、炎とか纏ってるし、でも無属性魔法かー炎とか雷の魔法が有名だから有るのは知ってるけど見たことも、学んだことも無いからいまいち良くわからない。
すると、スミカさんが歩き出して埋まっているラヴァを掴んで地面から引っこ抜いた。
「ぷはー! 助かったぜぇー! あのまま、地面と永遠とキスするはめになるとこだったァ、誰かは知らんが礼を......」
「お久しぶり」
「どひぃいいいいいい!? スミカさァん?!」
スミカさんの顔を見たラヴァが全身の毛を逆立てながら震えだした。
「知り合いなんですか? スミカさん」
「ん? あーうん、一時期契約してたんだよ」
「え!? スミカさんも精霊魔法が使えるんですか?!」
「契約ゥ? なァに言ってんだァ? あんなのただの奴隷だ、このクソアマ、とんでもねェ規格外でよォ、召喚した俺様を敵めがけて投げるわ、そうかと思ったら寝るときのォ枕にするために呼ばれる事があったんだっちー」
スッとスミカさんを見るとスッと顔を逸らされた。何してるのこの人!? あれ? でもさっきお馬さんがラヴァを呼び出した精霊魔法使いはいないって......
「私、精霊魔法使えないし」
「なんで呼び出せるんですか!?(なんでェ呼び出したんだよてめェ!)」
「若気の至り?」
今でも十分若々しいんですけど?!
「まーそんな事どうでも良いじゃん、ラヴァ、ティナと契約してくれるんだよね?」
「おおん? おうよォ、俺様しか嬢ちゃんの器を満たして均等に出来る奴ァいねェ、しかもだ、波長もピッタリと来たもんだァ今でも強い俺様がァさらに強くなれるゥ、嬢ちゃんも強くなれるゥ」
「一石二鳥って事ね......ティナ、おいで」
「は、はい!」
ラヴァを持ったまま『契約の魔方陣』の中に立ったスミカさんの後を追って私も魔方陣に飛び込む、スミカさんがラヴァから手を離すと、ラヴァが空中に浮かんだ。それを見たスミカさんが魔方陣の外に出る。
「よぉし、嬢ちゃん、俺様に触りなァ右手でも左手でもどっちでも良いぜェ」
「う、うん」
恐る恐る左手でラヴァを触る、あ、ふわふわで暖かい!
「『我、無を司る者なりィ、我はティナ・サンシェット様のォ契約精霊となることを誓う』」
カッと魔方陣が光る、それと同時に左手が熱くなった。よく見ると青い紋様が刻まれていて魔方陣の光が収まると紋様も消えちゃった。
「これで俺様と嬢ちゃんは主従関係だァ、仲良くしてくれよ」
「よろしくね、ラヴァちゃん」
「ちゃんって、ちゃんはねェだろォ? まぁ良いけどよォ」
そう言いながらふわふわと浮きながら近寄って来ると手のひらの大きさまで縮んで私の肩に止まった。
『ふははは! 良い主人が見つかって何よりだ。さて、我はそろそろ行くとしようか』
蹄を鳴らしながらお馬さんが言う。
「あ、帰るついでに頼める?」
『何だ? スミカの頼みなら断らんが』
「これを届けて欲しいんだ、あの子に」
スミカさんが制服のポケットから封筒を取り出しす。手紙? かな?
『......分かった、届けよう』
「うん、お願い」
お馬さんが封筒に角をちょこんと当てると、封筒が光り輝いて宙に浮いた。
『では、さらばだ。また相見えようぞ』
「ばいばーい!」
ユリスちゃんが手を振って言うと、お馬さんが一瞬で消えちゃった。
「行ったかァ、あのクソジジィ」
「さーて、仕込みするかなー」
「ユリスも手伝う!」
「お、やる気満々だねー、じゃーお願いしようかな」
「やったー!」
両手を挙げて喜ぶユリスちゃんと一緒にスミカさんが裏庭から出て行く、その姿を眺めていてふと思った。あのお馬さんって誰?
「ねね、ラヴァちゃん」
「なんでェ?」
「あのお馬さんって誰なの?」
「ああ? おいおいマジかよォ。ああ、スミカの野郎が説明してねェだけか、あの馬はなァ『精霊王』だ、無限にいる精霊の頂点に立つお人よォ」
「...............え?」
精霊王? すごーい王様なんだー、精霊の王様なんだねー......って!
「ええええええええええええええええええ!?」
「どわァ!? ビックリしたァ! いきなり叫ぶんじゃねェよ」
私の予感って当てにならない! そう思いました。




