26泊目
「っち、誰? この人に害を与えられるのは困るの」
「へー、そうなんだ? でもボクの標的だから関係ないけどね」
音も無く黒い外套の人物が着地するとユリスちゃんが攻撃を受け止めたときに破れた白い布を引き裂いて取り払う、黒く大きな二の腕まで入るガントレットに銀色に輝る一本の太い棒が装着されていて、その棒の先端は尖っていた。武器......なの?
ユリスちゃんはそれを手慣れたように装備すると黒い外套の人と向かい合った。
「うっわ......パイルバンカーとか、しかも杭はミスリル製? へー、良くそんな重たい物持ってられるじゃん、というか使えるの?」
「使えるから使ってるの、ユリスはこれが好きだから」
「あっそ、それは良かった......ねッ!」
黒い外套の人が剣を振るう、ユリスちゃんがガントレットを装備したまま前に構えるとまた火花が散った。それと同時にユリスちゃんが消えた。
「っえ!?『縮地』?!」
「遅い、死ね『バンカーバスター』!」
一瞬にして外套の人物の懐に現れて巨大なガントレットを前に突き出す、バゴンッ!っと杭が打ち出され轟音と倒壊した家屋埃を巻き起こした。
「わっぷ?!」
狭い路地を煙が私に向かって巻き起こってきてそれに飲み込まれる、目が開けられないほどの土煙と埃、すると突然腕を捕まれた。
「立って! 走る、ほら!」
「けほ! う、うん!」
声でユリスちゃんだって分かった。涙で歪む視界を頼りに私は走り出して裏路地を抜けて二人で走った。気がつけば学園の門前に付いていた。
「はぁ、はぁ、はぁ......な、何なの、あれ」
「ふぅ、ここまで来れば良いと思う」
小さく呼吸するユリスちゃんを見ると左手から血が垂れていた。
「ユリスちゃん怪我してる!」
「知ってる、掠り傷だから大丈夫」
「全然大丈夫じゃないよ! 見せて!」
強引にユリスちゃんの左腕を掴んでから袖を捲る、ぱっくりと腕が切れていた。結構深い......
「直ぐに先生を―――」
「余計な事しないで、ユリスの事より貴方の方が優先、すぐに母様の所に連れてく」
「え!」
私の腕を血で濡れた左手で掴んで走り出す。母様って誰!?
――――――――――――路地裏
「ゲホッ! ったく、何あの娘!」
埃を手で払いながら瓦礫の中から這い出す。杭が打ち出される瞬間にボクも『縮地』を使って回避したけど真横からレンガが崩れて来て埋まった。埋まる直前に剣を振ったけど硬い物に阻まれて浅かった。
『大丈夫か? ヒビキ』
「埃っぽいけど大丈夫、クラウはって......あちゃー見事に折れたね」
手に持っていたクラウソラスが中程で真っ二つに折れていた。
『うむ、自己修復をフル稼働させても三日は掛かる損傷だ』
「うっそ......そんなに?」
『あの少女装備していた武器、あの杭に我が当たった時に感じたのだが、あれはオリハルコンだ。しかもミスリルと完璧な配合をされた合金、それを撃ち出す機構に一切の無駄がない洗練された形、おまけに『武器破壊』の能力が付与されていた。あの様な名機を作り出せるのはこの世界で一人しかおらんだろうな』
サーッと血の気が引いてクラウソラスを持っている手が震えてきた。
「そ、それって......」
『我の創造主様だ、ヒビキ。しばらくは大人しくしたほうがが身のためだ。あの少女専用に作られているのが感じ取れたぞ? それにだ、今朝は監視を続けると言っておいて何故襲った?』
「だ、だって『断罪する瞳』に反応が......」
『馬鹿者、スキルばかりに頼るなと言われたであろう? 便利なスキルほど身を滅ぼすという事を忘れるな』
「わ、わかったよ」
クラウソラスに怒られたボクは溜息を吐いた。すると、街中を警備している兵士の笛が鳴り響いた。
「やっば!」
『飛行』と『迷彩』のスキルを同時に使って空に舞い上がったボクは景色に溶け込んだ。あの人が武器を送るほどの存在に手を上げたなんてしれたら......や、やめよう。考えるのやめよう!
――――――――――――その頃
夕方で混み合う市場の中を武装したユリスちゃんが先頭を走ってくれたおかげでみんな避けてくれた。そして私達は竜風亭の入り口の正面に立っていた。
「......え?」
「ん? どうかしたの?」
未だだに血が垂れている腕を気にしないユリスちゃんが首を傾げた。え? 『母様の所に連れていく』って言われて走ってきたんだよね。うん、何か見覚えのある道だなって思ってたし、まさかそんな訳ないよね!って思ってたらこれだよ! あ、そっか! 宿泊してるお客さんの中に『母様』って人が居るんだね!
「こ、ここここって、りゅ、竜風亭だよね?」
「そうだけど?」
「あ、あのあのあの! 『母様』って人がここに泊まってるの?」
「??? 何言ってるの?」
だらだらだらっと汗が噴き出る。え? うそ、え? ちょっと待って、え?!
「あ、あの~もしかして、『母様』ってスミカさんの事?」
「当たり前の―――」
私はドバンっと宿の扉を開け放ったって叫んだ。
「すううううううみいいいいいいかあああああああさあああああああんんんんん! どこですか-!! 私に話してないことあるでしょおおおおおおお!?」




