18泊目
「......ん」
ふと、目が覚めて寝ていたベッドから体を起こした。サテラちゃんが持ってきてくれた食事を軽く食べた後に直ぐ寝ちゃったみたいで、備え付けの時計を見るとすでに深夜。
今いる部屋は私が初日に泊まった部屋じゃなくてサテラちゃんの隣の部屋、つまり従業員用の部屋だとか。客室より広いんだけど?
「お風呂入ろうかな......寝汗かいちゃったし」
貰った東衣はご飯食べた時に結構な汗をかいていたみたいで湿っていたからサテラちゃんが洗濯するって言ってた持っていっちゃった。今はスミカさんの着なくなった古着を借りている。
「よいしょっと......うん、歩ける。えっと下から二番目の引き出しだっけ」
ベッドから出て、備え付けられたタンスの引き出しを開ける、うわ、下着とか綺麗にしまってある......スミカさんって働きすぎじゃない? えっと三段目にスミカさんから貰った古着が入れてあるってサテラちゃんに言われたけど。
「古着? 新品じゃないのこれ!?」
寝間着から部屋着、外用の服まで色々な服が畳まれて入れられていた。これって買ったら金貨何枚するんだろう......
「か、考えないようにしよう......」
ゆったりとしたワンピース風の寝間着と下着を取り出して両手で抱えながら私は部屋から出る、廊下を挟んで向かい側はどうやらサーシャちゃんの部屋みたい、誤解解かなきゃ......
物音をたてないように静かに部屋の扉を閉めて靴音を気にしながら歩いていき、従業員室がある場所と客室を区切っている扉を開けた。
「―――から馬車を使ってみたが遅くて駄目だな、やはり裏道を馬で走った方が早い」
男の人の声? こんな時間に誰と話してるんだろう?
早歩きで階段まで行く。
「また埃まみれですね」
「はっはっは、すまないなスミカ殿。帰り途中だったのだ、それで近くまで来たので寄ったのだ」
ちょうど階段上から見える位置でスミカさんと中年の人間の男の人が立ち話をしていた。兵士さん? 違う、見たことない甲冑だ、誰だろう?
「カルロスさん一人だけですか?」
「ああ、部下達は先に国に向かわせている、ケインズが指揮を執っているから問題はない。事後処理と報告書の作成で遅れるという事になっている」
「そうですか、それでどうしたんですか?」
「少し警告をと思ってな」
「警告? ですか?」
「うむ、実は今回我々騎士団は派兵されたのだ。エメル公国にな」
ひゅっと喉が鳴って私は両手で抱えている服を少し強めに握った。
「派兵って、エスルーアンとエメル公国って仲良かったでしたっけ? かなり距離がありますけど」
「私も初めて知ったんだが、友好条約を結んでいるらしい。エメル公国の王から救援要請が来てな、部下達にかなり酷なことをしたが、一ヶ月でエメル公国に着いたのだ」
「不眠不休ですか? 死にますよ?」
「だから馬車を使ったのだ、休憩を取りながら距離を稼げるからな、まぁそれはいいとして、エメル公国の内戦の戦火が広がっている、最初は王都周辺だったのが国境近くの小さな村にまで飛び火しているのだ。我々騎士団も王都を目指したのだがとてもではないが近づけなかった」
「どうしてです?」
「一般市民が襲って来るのだぞ? 此方は精々五百人、向こうは二千人強だ、とてもじゃないが対抗できない、長距離行軍で疲弊していたのもあるが、小規模の戦闘で数十人死んだ。数の暴力には勝てん」
「それで帰ってきたと?」
「恥ずかしい話だがそうだ、エメル公国の内戦が無事に鎮静化すればいいが三ヶ月経った今も酷くなるばかりと風の噂を聞く、もしかしたらアインス王国にも何かしら影響がと思って一応報告に来たのだ」
「んー分かった。一応女王様に言っておく」
「そうしてくれ、では私はこれで」
「次は泊まって下さいね?」
「ははは! そうする」
そう言って男の人が甲冑を鳴らしながら宿から出ていった。お父さんとお母さん、それに村に人達、大丈夫かな? 心配だなぁ......
するとスミカさんが両手を腰に当てて溜め息を吐いた。
「はぁ......ティナちゃん? 居るんでしょう?」
「っ!」
私が居る階段の方にスミカさんが振り向きながら言う、私は階段を下りた。
「ごめんなさい、盗み聞きしちゃいました......」
「謝らなくていいよ、私が気を付ければ良かったし......心配?」
「は、はい......」
「ティナちゃんってエメル公国内の森の奥に住んでたんだっけ?」
「そうですけど?」
名前も無いような小さな村だから分かりにくいけど。
「そっか、あ、もしかしてお風呂」
私が持っている着替えを見たスミカさんが首をかしげながら言う。
「あ、はい。寝汗かいちゃって」
「じゃあ、一緒に入ろうかな、私もまだだし」
「ふえ!?」
「嫌?」
「全然! 嫌じゃないです!」
「良かった、準備してくるから先に行ってて」
そう言いながらスミカさんが二階に上がっていった上がっていった。
「な、何か、き、緊張する......」
ドクン、ドクンっと音をたてる胸を着替えで押さえながらお風呂場を目指して、私は歩き出した。




