14泊目
「ふむ、身分証明書類、入学金のアインス金貨五十枚。全部揃っていますね」
長椅子に座って緊張で固まっている私、隣のサーシャちゃんは暇そうに学園長が数えた金貨をじーっと見ていた。
眼鏡を外しながら私の身分証明書類を机を挟んで反対側に居る学園長が机の上に置いて小さく息を吐いた。
「ふぅ、あの人の関係者である貴女は直ぐに入学させたいのですが......」
「......何か問題?」
「問題はありません、書類も完璧で前金の枚数も間違えありません。ですが学園の規則で入学希望者には実力試験を受けてもらいます」
来た! やっぱりあるんだ、実力試験!
「......だったら早くやる」
「そうしたいのは私も同じなのですが」
学園長は目頭を右手で揉んだ。
「実のところ、試験官が不在なのです」
「......なんで?」
「武術学園と同じく、魔術学園も実力試験は模擬戦を行います。その模擬戦で相手をする試験官が昨日、ある生徒様に......派手にやられまして」
顔を逸らして苦い顔をする学園長、試験官をボコボコって私と同い年くらいの子がやったって事? 何それ、怖い。
「......もしかして『雷使い』?」
「うっ......はい、お恥ずかしい事に同属性でその道のプロだった試験官があっという間にやられました。というか、あの人はこの学園に通う必要あるんですかね? 運営費用を出してもらっているので文句は言えませんが教えることがありませんよ。試験官を治療院送りにした理由だって『腕が鈍ってきたから肩慣らししたい』ですよ? そんな理由で優秀な学園職員が消されるんですよ?」
学園長の表情が段々暗くなった、なんか凄い問題児? なのかな、運営費用を出してるって事はどこかのすっごく偉い貴族様とか? あーなんか凄い生意気そう。
そんな事を考えていたら学園長室の扉がいきなり開かれた。と言うか、蹴破られた。サーシャちゃんはそれに反応して開け放たれた扉を警戒するように立ち上がって身構えたけど直ぐに脱力した。学園長はなんか青ざめて固まってる?
サーシャちゃんの背中から顔を覗かして扉を見るとそこには人間の女の子が立っていた。肩まである青い綺麗な髪、透き通った青い瞳、整った顔立ちの女の子。うわー高そうなローブ着てる。背丈はサーシャちゃんと同じくらいかな? んー歳は十二歳くらい? 人間の人ってたまに年齢と容姿が一致しない人が居るからわからないや。
あ、サテラちゃんは別で。
青い髪の女の子が腕を組んで部屋の中を見回して学園長に視線を止めた。
「スミカ様が住み込みで雇った子が入学希望に来たって......聞いたんだけど?」
「ひっ! あ、はい! そうなんです!」
こっわ! なにあの視線! 人一人殺せそうな視線だったよ! それにあの風格? っていうの? オーラがヤバイ、大貴族の令嬢さんだよ! というか標的私? 私だよねこれ?!
「......ノエだ」
「あら? サーシャじゃない! 久しぶり-!」
「......ぶりー」
サーシャちゃんは青い髪の子を指差して言うと、その子もサーシャちゃんを指差して驚いた顔をした後に仲よさそうに抱き合った。え? サーシャちゃんの友達? 『ノエ』って言ってたからそれが名前かな?
「休みの日に学園に居るって珍しいわね? スミカ様は?」
「......今日は居ない、住み込みの子を入学させるために来た」
「何ですって......?」
ギロリと睨まれた。何!? 私何かしたの?! 長椅子の端で震えているとノエちゃんが歩いてきて机の前で止まり腕を組んだ。
「貴女がスミカ様の元で、屋根一つ下で、住み込みぃ? どこから沸いて出て来た子かしらね? む、顔は可愛いわね......毛色と髪の色がサクラ色、スタイルも......ぐ!」
「え? 何?!」
ノエちゃんが私の身体のある一部分を見て膝をついて机にもたれかかった。それを見たサーシャちゃんが優しくノエちゃんの肩に手を置いた。
「......宿の序列が変わった」
「くっ! 卑怯よ! あんな物を搭載してるなんて聞いてないわ! くぅうう! 何よ! 胸が大きいからって調子に乗らないでくれる!?」
「どういうことですか?!」
「そのままの意味よ! そんな脂肪の塊を搭載していて見るからに鈍くさそうな奴が住み込みで働く? きいいいい!」
「ちょ! た、確かにむ、胸はおっきいですよ? で、でも鈍くさくはないです!」
「嫌みか貴様あああ!」
「......今のはイラッとした」
「えええええ?!」
私に味方はいないんですか?! すると、ノエちゃんが涙目でビシッと私に指差してきた。
「勝負よ! 勝負しなさい! 私に勝ったらこの学園の入学と宿で働くのを許しましょう!」
「凄く偉そう!?」
その時ぐいっと腕を引かれた、引かれた方を見ると学園長が未だに青い顔をしながら私に耳打ちしてきた。
「(実際にとても偉い方なのだ、あまり刺激しないでくれ)」
「(え? こんな生意気そうな子供がですか?!)」
「(子供だがヤバいんだ! とにかく今は落ち着いて―――)」
「何をひそひそ話してるのかしら? この私、ノエ・ヴィッシュ・アインスヴェルグの前で内緒話? 良い度胸ね」
長い名前なんてどうでも良いよ! ん......? なんか聞いた事がある?
「......落ち着け女王様」
ぶわっと冷や汗が出て私は震えた。サーシャちゃんの言葉で思い出しました。世界で最も幼い女王様が目の前に居たのです。し、死刑にならないよね?




