11泊目
寝れない、全然寝れない......布団はふかふかでお日さまの匂いがするし、ベッドも最新式みたいで寝心地は最高なんだけど......
「はぁ」
薄暗い部屋で布団にくるまっている私は何度目かわからないため息を吐いた。
私が驚愕したあの後、スミカさんが新しい案内書を見せてくれた。何で持てるんですか? って聞いたら、サーシャちゃんがメフィア魔術学園と同じ敷地にあるメフィア武術学園に通っているみたいで、学園の名前は違うけど殆ど同じだとか。
全寮制じゃなくて通学制になってたのも驚いたけど、入学金がなんと金貨五十枚、昔は卒業後に払う制度だったんだけど、辞めちゃう人がいてお金を払って貰えないから入学金は前払い、この時点で賞金は無くなっちゃう。
何処かで部屋を借りるにしても安くて一月銀貨八枚、家具とかは別で買わないといけないし、制服も金貨二枚と高い。結論から言うと、内戦になっていなくても私はメフィア魔術学園に入学出来ない。
その事実が分かって落胆した私をスミカさん達が雑談混じりに励ましてくれた。サーシャちゃんがスミカさんの義理の娘さんだとか、サテラちゃんがヴァンパイアで五百歳を越えてる事とか、それを聞いて話し方を変えたら笑われた事とか。
その後、スミカさんが『今日はもう休んで、明日じっくり考えてみればいいよ』って言ってくれて、今は布団にくるまって寝ようとしたけど全然寝れない。ふと、部屋に備え付けられた時計を見るともう深夜、私は起き上がって部屋を見渡した。
トイレとかついた個室なんて一体いくらするんだろう? まあ、一泊くらいなら払えるけど、それから先は無理かも。
「......はぁ、ちょっと外の空気吸ってこよう」
ベッドから出て、スミカさんから貰った東衣の乱れを直して部屋を出る、宿の廊下は特殊な石? が光っていて明るかった。
「ん? 甘い匂いがする?」
すんっと鼻を鳴らして嗅ぐと、甘くて爽やかな匂いが何処からかしてきた。
「こっち......かな?」
階段を降りて受付があるホールに出る、出入口と大きなガラス窓にはカーテンが掛けられていて、大きな時計の音が一定の音をたてて動いていた。甘い香りはどうやら宿の裏からするみたい。
応接室の前を通りすぎ、酒場を通りすぎて、お風呂場を通りすぎると裏口らしき扉があった。取っ手に手をかけようとしたら少し開いていた。そこから甘い香りが漏れていた。
私は扉を開けた。
「あ......」
そこは裏庭になっていて、小さな畑があって色々な野菜が作られていた。その光景を見て声が出た私に人影が動いた。
「あれ? ティナちゃん?」
人影がゆっくり近付いてきて月明かりに照らされる、濃い青色の東衣を着ていて肩に羽織物をかけているスミカさんだった。右手に細い棒を持っていて、甘い香りはそこからした。
「どうしたの? こんな所に」
「あ、ごめんなさい。入っちゃいけない場所でしたか?」
「別にいいよ、私が趣味でやってる畑みたいなものだし。それにしてもどうしたの? 眠れない?」
「......はい、ちょっと外の空気吸ってこようかなって思ったら甘い香りがして、臭いをたどって来たらここに」
「あぁ、扉が開いてたのか」
「それって煙管ですか?」
「うん? そうだけど?」
私が指差して聞くとスミカさんが首をかしげた。
「あ、もしかして臭い?」
「いえ! いい匂いがしたので聞いただけです!」
「そっか、サーシャとかサテラには内緒にしておいてね」
「は、はい」
片目をつむりながら言われて一瞬顔が熱くなった。スミカさんが男の人だったら本気でヤバいよコレ! 吸い口に口を付けて小さく吸うと煙を夜空に向けて吐き出すスミカさん。
「ふぅ......どうするか決まった?」
「え? あ......まだです、ごめんなさい」
「別に謝らなくていいよ? でも悩むよねー、故郷を離れてやっとアインス王国に来たのに入学金は高いし、部屋も借りなきゃいけないしで」
「あう......」
スミカさんに言われて尻尾と耳が垂れ下がった。そんな私を見てスミカさんが小さく笑った。
「考えたんだけど、ティナちゃんが良かったらウチで働かない?」
「......え?」
突然の事で一瞬、思考が停止した。え? 働く?
「正直、ウチの宿って殆ど固定客しか居ないの、忙しいのは夜の酒場だから昼間は学園、夜は酒場で働く、少し大変だけどさ」
「え、あ、あの?」
「部屋はサテラの隣の部屋が空いてるからそこでいいでしょ、あー宿の制服は私の奴を仕立て直すから後は―――」
「ちょっと待ってください!!」
「ん?」
両手を前に付き出して待ったをかけた。どう言うこと?! 働くってここで働いていいの?! しかも部屋付き!
「あ、あの! 私みたいなのがいいんでしょうか!?」
「私は全然構わないよ?」
こてっと首をかしげたスミカさん、聖母様だ! 聖母様がいる!
「あ、あの! よろしくお願いします!」
私は直角に腰を折って頭を下げた。こうして私は『竜風亭』で住み込みで働く事になりました。




