10泊目
「ふいー、もう食べられないですぅー」
椅子の背もたれに背中を預けて天井を見ながらお腹をさすった。三日ぶりに美味しいご飯食べると歯止めが効かないね。うん
「旅をしてきたと聞いたが食い過ぎじゃないかのう?」
「......大鍋が空っぽ、すごい」
「多く作りすぎたかなーって思ったけど。はい、どうぞ」
カチャンと陶器のカップと受け皿がなる音がしたので私は頭を起こして置かれた物を見ると白い陶器のカップに黒い液体が湯気を立てて注がれていた。何コレ? 飲み物なの? 怪しいんだけど、でも芳ばしい匂いがする。
「あの、これって何ですか?」
「んー? あー、もしかしてティナちゃんは知らない?」
「?」
私が首をかしげるとスミカさんが口に付けていたカップを受け皿に置いた。私のと同じ物が注がれていた。
「これは『コーヒー』って言うの、豆が原材料の飲み物だよ」
「豆? ですか? 葉っぱしか知らないんですけど?」
「ふふふ、面白い味だから飲んでみて」
「は、はい」
両手で暖かいカップを持って口を付けると『こーひー』とか言う液体が口の中を満たした。
え、苦い! でも後から芳ばしい香りが鼻から抜ける。本当に不思議な飲み物。
「くくく! 苦そうな顔しおって、子供じゃな!」
「......砂糖いっぱい入れて、ミルク沢山入れてるサテラに言われたくない」
「サーシャ、お主はホットミルクじゃろうが!」
もう一度、『こーひー』を飲む。あ、この苦味が癖になりそう。
「『こーひー』でしたっけ? 美味しいです。最初は、苦い! って思いましたけど。癖になる味ですね」
「そう? 良かった」
優しく微笑んでくれたスミカさん、あーもうここに永住したい! でも学園は寮生活だから無理かなー。
「そう言えばお主、何の用で女一人で旅をしてアインス王国まで来たのじゃ?」
「あ、えっとですね。国内にあるメフィア魔術学園に入学するために、エメル公国から来ました!」
「また遠いとこから来たのう......それに今、お主の国は」
「はい......内戦状態だって聞きました」
視線を両手に持っているカップに落とす。
「内戦が起きたのが三ヶ月前、ティナちゃんがちょうどこの国に向けて旅に出た後かな?」
「はい、入国するのに必要な書類は問題無かったんです。お金の価値は無くなってましたけど」
「なんじゃと? では入学金とかはどうするのじゃ?」
「あ、それは大丈夫。卒業する時に払ってくれればいいって書いてあったし、払わなきゃいけないなら払えるから」
「あぁ、賞金か」
「う、うん」
何で知ってるの? あーでも困ったなー、金貨五十枚あるけど八年間の寮代、食費に多分教材費、服とかも欲しいからどんなに節約しても八年は持たないかも......と言うか無駄遣いする、絶対にする。
「はぁー寮生活だからスミカさんの手料理を食べに来たり、お風呂入りに来たり出来ないのが残念です」
ため息をついて言うとサテラちゃんとサーシャちゃんが同時に首をかしげた。
「んー? メフィア魔術学園は確か通学じゃなかったかのう?」
「......確かそう」
「え"!?」
顔がひきつり、背中から嫌な汗が吹き出した。私はカップを静かに受け皿に置いて椅子から立ち上がると、荷物が置いてあるハズの部屋に猛ダッシュ、『203』って書いてある部屋の扉を開くと月明かりで薄暗い部屋のベッドの脇に私の荷物が置いてあった。
中を開いて何度読み返してよれよれのボロボロになったメフィア魔術学園の案内書を引っ張り出してまた酒場に向けて猛ダッシュ。
「はぁ、はぁ、はぁ。こ、ここに、『全寮制』ってかいて、はぁ、はぁ、ありますけど?!」
「落ち着け、見してみい」
サテラちゃんが案内書を私から受けとる、私は椅子に座り直して少しぬるくなった『こーひー』を飲んだ。あー美味しい。
ざーと中身を見た後、裏返すとサテラちゃんの表情が雲った。そのままスミカさんに手渡すとスミカさんも裏表紙を見て苦い笑顔を作った。
「あー......成る程ね、ティナちゃん。これって貰ったの何年前?」
「えーと......村長が持ってきたんですけど、確か二年前ですけど」
私がそう言うと、スミカさんが案内書の裏表紙を私に向けながらある場所を指差した。ん? あれ? 発行日が十五年前になってる?
「あ、あの。発行日が十五年前に見えるんですけど?」
「実際十五年前だよ、当時は全寮制だったんだけど今は寮の維持とかが結構お金かかるとかで廃止になって、今は通学が主だね」
「そ、そんなあああああ!?」
宿に私の悲鳴が響き渡った。あの村長は一発殴る!




