9泊目
「それじゃ、ご飯にしよっか」
「ふ、ふあい」
満面の笑みのスミカさんに手を引かれて私は椅子に座った。あー、顔が熱くてボーっとする。
私の真正面にスミカさん、右にサーシャ、左にサテラちゃんが座った。あれ? 一緒に食べるの?!
「あ、あの。一緒に食べてもいいのでしょうか......?」
「本当は別々に食べなきゃいけないんだけどね。ティナちゃんはお客様だし、でも今日はティナちゃんの貸し切り状態だからいいかなーって」
「とか言いつつあれじゃろ? 皿洗いとか作る量がめんどくさいだけじゃろう?」
「うっ......」
サテラちゃんに指摘されて苦い顔をするスミカさん。
「ま、まぁ細かいことは置いておいて、今日は余ってたホルスタンのお肉を使って『ビーフシチューもどき』にしてみましたー」
それを聞いてサーシャちゃんとサテラちゃんがピクリと反応した。
「スミカの料理は美味しいのじゃが......使ってる食材がのう、なんと言うか」
「......食材はアレだけど美味しいからいい」
「?」
サーシャちゃんとサテラちゃんの反応に首を傾げた。んー? 食材? 確かホルスタンって......ホルスタン? ホルスタン!?
あの、牛が五倍大きくなって全身が紫と緑色の斑点で覆われてて気色の悪い悲鳴を上げながら六本の脚で走ってくるあのホルスタン?!
確か一度だけ村の畑で見た、収穫寸前の野菜とかが全滅仕掛けて男の人達が十人くらいで苦戦しながら倒したのを覚えてる。その後、解体して皆で食べたけど、美味しくなかったなー。
不味くはないんだけど煮たり焼いたりしてもお肉がパサパサしてるって言うか何か変な感じがしたんだよね。
「不味そうな物ほど美味しいから不思議だよね、ほいっと」
苦笑いしながらスミカさんが鍋の蓋を開けると湯気と一緒に放出された匂いに私の空腹は加速した。鍋の中にはとろみがついた茶色いスープにホルスタンのお肉をや野菜がゴロゴロと入っていた。私は鼻で息を吸った。
あ、チクの葉とザザブの実? かな? 匂い消しと香り付けで使ってるのかも、チクの葉は乾燥させて粉にして飲めば体が暖まる薬草でザザブの実は黄緑色をしてて、塩漬けにしないでそのまま食べるとお腹が痛くなっちゃうから三日間くらい漬け込んでから日陰で干すと凄くいい匂いがするんだよね。
「美味しそうですね! チクの葉とザザブの実を使ってますか?」
私がそう言うとスミカさんが一瞬目を丸くした後に微笑んだ。
「よく分かったね? そうだよ、チクの葉は乾燥させて粉にすれば体を温める効果もあるけどお肉とか野菜を柔らかくする効果もあるんだ。ザザブの実は生だと食あたりしちゃうから塩漬けして毒抜きをしてから使うと香り付けにもなるし、何よりホルスタンのパサパサした肉を別物に変えちゃうんだ」
一人一人のお皿に取り分けながら楽しそうに語るスミカさん、へー勉強になるなー。
「パンとスープのおかわりは沢山あるから遠慮しないでね、じゃ、食べよっか」
スミカさんより早くサテラちゃんがスプーンを手に取りスープをすくって口に入れた。
「んー! 美味しいのじゃ! スミカよ、これは店で出せるぞ!」
「......美味しい」
「出してもいいけどホルスタンの肉ってなかなか手に入らないんだよ? 今日はたまたま市場に出てたから買ってきただけだし。あ、ちょっと塩が多かったかな?」
「むぅ、そうか。残念じゃ」
あの牛って狩ろうと思わないから余計に出回らないのかも? そう思いながら私は手に持っていたスプーンでスープをすくう、その時にお肉も一緒にすくった。いただきまーす!
「っ!?」
なにこれ! パサパサしてるホルスタンのお肉にスープが絡んでるのと噛めば噛むほど旨味が出てくる! と言うかパサパサしてないよこれ!? 普通の牛肉みたい! 野菜も美味しい! とろとろなのに形を保ってる!
「美味しい?」
「すっごく、美味しいです!」
「良かった。パンに付けても美味しいと思うからどうぞ」
「はい!」
私はカゴニ入った丸くてふっくらしたパンを手にとっちぎった。うわー! 真っ白のふかふかだ! これだけでも絶対に美味しいはずだよこのパン!
ちぎったパンをスープに付けても口に入れる。
「んー! 美味しいですぅー!」
体が震えるほど美味しいってよく言うけどこの事かー。ヤバい止まらない!
「よく食べるのう......」
「旅してきたならお腹すいてると思うよ?」
「......美味しそうに食べる」
「ふふふ、料理人としては嬉しいけどね」
私は夢中でスープとパンを交互に食べた。美味しいー!




