帰国
数分程するとスミカ殿が歩いてくるのが見えたので俺は腰を上げて隣で寝ているケインズを蹴飛ばした。
「ぐふぅ?!」
「行くぞ」
腹を抱えてのたうち回るケインズにそう言って、先に歩き出していたサーシャの後を追った。
「あれ? お二人は宿に戻らなかったのですか?」
「スミカ殿を置いて先に戻るのは失礼だと思ったのでな」
「そうですか、では戻りましょうか」
ニッコリと笑ったスミカ殿は宿に向かって歩みを進めた。
―――――数時間後
俺達はようやく竜風亭に戻ってきた。
「なぁ、スミカ殿。今思ったのだが『ゲート』で戻ってくれば良かったのではないか?」
「あの魔法はピンポイントに移動できないんです。例えばですけどダンジョン内部で使ってウチの宿を思い浮かべてもアインス王国の入り口に『ゲート』が開くんです」
「あぁ、だから最深部で使ったときは森の入り口では無くダンジョンの入り口に出たのか。それでもそっちの方が楽では?」
「あはは......忘れてました」
苦笑いしながらスミカ殿が宿の扉を開く―――
「え、あ! ちょっと待つのじゃ!」
サテラがその扉を勢いよく閉めた。
「......」
無言で取っ手を握るスミカ殿が震えだしたのでその横顔を俺達三人は見た瞬間に三歩、後ろに下がった。こめかみに青筋を浮かび上がらせていたからだ。
「......しーらない」
「チラッと見えたんすけど、なんか受付正面の床に穴が空いていたような......」
「私は何も見てない」
サーシャは小さな溜息を付いて視線を逸らす、ケインズは宿を指差して俺の方を向いた、俺は目を右手で覆った。
「サテラ-! 何しとんじゃ貴様-!!」
「うひぃ!?」
ドガンっと扉を押し開けられた衝撃でサテラは吹き飛ばされ、尻餅を付いて半泣き状態だった。そんなサテラの頭をガシッとスミカ殿が掴んで顔を近づけた。
「どーゆーことかなー? かなー? お店任せるってー壊しても良いって事じゃ無いんだよー?」
「ひっ! ち、ちが、わ、私じゃ無いもん! あ、妾じゃない! そこのオーガがいきなりやったのじゃ!」
「おいいいいい!? ひっでぇな! 黙っててくれるって言ったじゃ......あ」
ビシッと指を突きつけられたオーガの男が顔を青くして固まった。サテラの頭から手を離したスミカ殿がゆらりと立ち上がり拳をパキポキと鳴らす。
「表でろ、ジング」
「......はい」
店から出て行くスミカ殿の後をまるで処刑される罪人の様な雰囲気のジングが付いて行き外に出ると。
「ぶへら!?」
「昔っから壊すの好きだね? ん? 壊したいの?」
「ま、待ってスミカさん、スミカ様! 話をあべし!!」
「どうせ、床の耐久度を調べてやるとか言って穴開けたんでしょ?」
「どういう状況?! そこまで馬鹿じゃねぐへら!!」
そっと扉の隙間から外を覗くと胸ぐらを捕まれたジングがスミカ殿に往復で平手打ちされていて、その顔は既に腫れ上がっていた。通行人達は引いていた。
「「うわぁ......」」
「......見ない方がいい」
「ぐす、えっく......怖かったよぉ」
「......はいはい」
俺とケインズはその光景にゾッとして覗くのをやめた。サテラは半べそを掻きながらサーシャに縋り付いていた。
――――――十分後
「あはははははははは! 何その顔ー! うけるー!」
「うるへぇー!」
ダークエルフのカーラがジングの顔を指差して爆笑していた。
「最後の最後までお見苦しい所を見せてしまってすみません」
「いやいや、十分楽しめたさ」
「そうっすよ! 姉さん!」
「それなら良かったのですが、本当にもう行くのですか?」
「ああ、早く届けねばならん」
荷物を纏めた俺とケインズは宿の外に居た、乗ってきた馬は未だに城壁前の預かり場所に居る、一日いくらかは忘れたが痛たい出費になりそうだ。
「んーなら疲れるのは嫌でしょうから私が送りますよ」
「「え?」」
俺とケインズが同時に首を傾げると、ニコニコしているスミカ殿が右手を突き出した。
「では、またのご利用をお待ちしていますね『テレポ―テーション』」
「ちょ、ま!」
フッと一瞬意識が消え、気がついたときには赤い絨毯が目の前にあった。
「―――と言う事がありまして」
「がはははははは! なるほどな! あの人らしい!」
俺の報告を聞いて聖王は大口を開けて笑った。豪快に笑うのが似合おうお人だ。ちなみに今は謁見などをする『大聖堂』では無く、聖王の執務室に居る。ケインズは先に騎士団に帰らせたしゲンシュ王子は帰国の準備をするとかなんとかで既に帰った後だ。
「それにしても初代魔王か......あのお人だからあっさり終わったが、本当なら世界が終わる規模の話だぞカルロス」
「はい?!」
「驚く事も無いだろう? 現れる『魔王』は初代魔王の半分程度の力しか無いと聴く。恐らくだが、お前の兜を擦った一撃、食らっていたら血煙に変わっていたぞ?」
俺は背筋に冷たい物を感じて頬を撫でた。
「だが良い経験をしたと思えば良かろう、初代魔王は倒されたのだからな!」
「はい」
俺はディーネ殿は死んだと報告しておいた。回想を話したがあの最深部での出来事だけは話して無い、話してはいけない気がしたからだ。
「それで? 頼んでいた物は?」
「はっ! こちらでございます。聖王様」
「うむ」
俺は懐から取り出した革袋を渡すと聖王は中身を取り出して机に置いた。
「綺麗に『圧縮』されている。スミカ様の仕業か、苦労をかけたなカルロス、これで『勇者召喚』を行える」
「はい、名誉ある任務でした」
「はっはっは、書簡で驚かそうと思ったがどうやらしっかり驚いてくれたようだな」
「ええ、それはもう」
「そうか、では今日はもう休め、疲れたであろう。しっかり静養せよ」
「はい! 失礼します!」
俺は一礼して執務室を出た。明日からは俺の日常が戻ってくる事だろう。そう思って歩いて居ると、馬を管理している場所から悲鳴が聞こえてきた。
『急に馬が現れたぞー!』
『き、奇跡に違いない!』
『この二頭は騎士団長と副団長の物だぞ?!』
あーなるほど。スミカ殿が馬を送りつけてきたのか、今回はピンポイントだな? 別の魔法か? と、頭を捻っていると今度は訓練場から何か怒号が聞こえて来た。
『何タラタラ走ってんだてめぇら! ジジイの―――みたいな顔しやがって! 誰が休んで良いと言った! 貴様は五周追加だ! 汚物を訓練場にぶちまけるな! なんだそのババアの―――に付いた―――の様な顔は! いいか?! 貴様らはウジ虫だ! 人間では無い! ただのクズだ! ゴミだ! 俺はお前らを軽蔑している、そして選別もしている。帰ってママの―――でもしゃぶってるのがお似合いの野郎は容赦なく叩きつぶす! わかったか!?』
『『『は、はい!』』』
『サーを着けろゴミクズ共!』
『『『サー! イエッサー!』』』
『声が小さい!』
『『『サー!! イエッサー!!!』』』
副団長と似ている声の奴が大変汚い言葉で何かを叫んでいたが俺は何も知らない、知りたくも無い。ああ、早く娘の顔を見に行かないと。
そう思いながら俺は日常へと戻っていくのであった。
―――――――???
「はい、―――しました。―――ええ、滞りなく行います。――――はい、来年にでも。――――ではそのように―――天神様」




