37泊目
『ゲート』に飛び込んで数秒後に俺は気がつくと『死者の祭壇』の入り口に立っていた。辺りを見回すがケインズとサーシャの姿が見えない、どうやらすでに外に出ているようだ。
俺はスミカ殿を待とうかと一瞬思ったが取り敢えずケインズ達と合流することにして外に出た俺を待ち構えていたのは両手を上に上げたケインズとサーシャだった。
「もう一人出てきたぞ!」
「貴様! 両手を見える位置に上に上げろ!」
「な、なんだ!?」
ケインズでもサーシャでもない声に驚いて日の光に目が慣れた時、ようやく理解した。目の前には数百人の武装した兵士達が『死者の祭壇』の入り口前を囲むように居たのだ。
俺は両手を上げた。どう見てもアインス王国の兵士だ。何故こんなところに? そう思っていると他の兵士とは甲冑と服装も違う男が歩み出てきた。顔は兜を被っているせいわからない。
「単刀直入に聞く、スミカ様は何処だ?」
「何故その様な事を聞く?」
「質問に答えろ、見たところ貴様はエスルーアン聖王国の人間だな? そして猫族の少女......」
男はポケットから小さな手帳を取り出して数回めくると、サーシャと手帳を交互に見る。
「ふむ、サーシャ......様で間違いないようだ、彼女には危害を加えるな! ではサーシャ様は此方に」
「......」
サーシャは上げていた両手を下ろして俺とケインズを横目で見た後に腰に提げていた剣を抜き放ち、男に突きつけた。その瞬間、一斉に兵士達が剣の柄を握る。
「ど、どういうおつもりですか? サーシャ様」
「......こっちのセリフ、ウチのお客さんに失礼」
「客? と言うことは―――」
「何をしているか貴様ら!」
その時、兵士達の後ろから怒鳴り声が聞こえた。その声の主を通すように兵士達が左右に別れる、声の主は口元に白い布を巻いていて、甲冑ではなく高価な布を使っていそうな服を身に纏っていた。
「皆、武器から手を離せ! サーシャさんも抑えて下さい」
「......? サマックさん?」
「ああ、そうだ。私の部下が失礼をした。許して欲しい」
サマックと呼ばれた男が頭を下げるとアインス王国の兵士達がざわついた。
「サマック軍務卿が頭を下げた?!」
「誰なんだあの少女は!」
「あの軍務大臣が頭を下げるだと?!」
軍務大臣?! 軍のトップが何故こんな所に?
「何々? 何の騒ぎ? ってサマックさんじゃん」
「スミカ様! ご無事でしたか!!」
俺の後ろからひょっこり顔を出したスミカ殿にさっきより兵士達がざわめき、軍務大臣の表情が和らいだ。
「ご心配しましたスミカ様、ダンジョンに入られてから五日が過ぎているわ、村は全滅しているわ、山から光線が突き抜けてくるわで王城は大混乱だ」
「あーうん、ちょっと手こずってた。それで何で軍隊が?」
「はい、女王陛下の命令により現地での情報収集およびスミカ様の安否確認を任されました」
「なるほどね、私は見ての通り元気だから大丈夫だよ」
スミカ殿が両手を広げて無事なことをアピールすると軍務大臣と兵士達が一斉に肩から力を抜いた。凄いな、スミカ殿の影響力がこれほどとはな。笑顔から一転、暗い表情になったスミカ殿が口を開いた。
「村は見た?」
「はい......ひどい有様です。今も確認作業を行っていますが生存者はいないでしょう......どうしますか?」
「......」
兵士達を見回したスミカ殿は数秒目を閉じると何かを決意したように瞼を開けた。
「燃やすしかない」
その言葉で動揺が広がっていったのがわかった。
「確かに、ゾル病をこれ以上蔓延させないためには燃やすしかありません。ですが我々にはその道具はありません、一回王都に戻り準備を―――」
「私がやるから良いよ」
「ッツ! ですがスミカ様はあの村に思い入れがあると仰っていたではないですか!」
「だから、私がやらなきゃいけない。私がやる、いいよね? サマックさん」
「......はい」
悔しそうに拳を握る軍務大臣を見たスミカ殿は前を向いて手帳を見ていた男に視線を合わせる。
「連れてきた兵士達はこれで全員ですか?」
「はい! 兵士総勢二百名です!」
「わかりました、全員動かないで下さい。村の外まで移動します」
一歩前に出たスミカ殿が右足のつま先で地面を軽く蹴ると巨大な魔方陣が広がった。見たこともない魔方陣、幾重にも重ねられた魔方陣は光り輝いていた。
「『我願うは空間を超越する力なり、場を超えろ』『テレポーテーション』」
初めて詠唱を聴いたと思った時、一瞬にして景色が変わった。目の前には見覚えのある町並み、入り口の門、トッド村の入り口だった。離れてはいるが間違い無い。兵士達は驚いているのか慣れているのか知らないが誰一人口を開かない。気絶してないよな?
スミカ殿がトッド村に向かうように歩き出して前に出ると振り向いた。
「この村の出身者は前に」
すると数十人が一斉に前に出た。全員目元が赤く、今でも泣いている者がいた。




