35泊目
「さて、こんな話し止めましょう。『純魔結晶』でしたっけ? それのある場所までご案内します」
冷えた笑みから一転、花が咲くように笑ったディーネは両手をパチッっと打ち鳴らした。
「それに、あまりここに長居しない方がいいですし」
「何故だ?」
「何故っすか?」
「......なんで?」
「え!?」
俺とケインズ、サーシャが首を傾げると、ディーネが目を丸くして隣でお茶を飲んでいるスミカ殿を凝視した。
「まさか説明してないのスミカ?!」
「あ......ごめん、忘れてた」
「何、暢気な事言ってるのよ! ここに来て何時間経ってるの?」
「多分一日くらい?」
「はぁー、呆れた。貴方のその面倒くさがりってどうにかならないのかしらね?」
ディーネは背もたれに背中を預けると天を仰いだ。
「何か問題が?」
「えー、そうね。この説明不足ドラゴンの代わりに教えてあげますけど、ここは外の時間と異なる時間が流れています。ここでもし半日過ごせば外では三日の時が流れるでしょうね、一日くらいだと......五日かしら」
「「五日?!」」
「......おー」
このダンジョンがSランクダンジョンの理由はそれか! 元々ダンジョンというのは『神が作りし物』と『異常な量の魔素が集まって出来た物』の二種類ある、前者はその名の通りで神が作ったとしか思えない内部構造、出現する魔物がSランクや高価なアーティファクトなどがある。内部で過ごした時間とダンジョンから出て来た時の外の時間が違うと言う事も希にあるらしい。
そう言った良くわからない現象が起こるのが『神が作りし物』と呼ばれるダンジョンだ。大体がSランクダンジョンに認定されている。そして後者は目に見えないはずの『魔素』、マナの元が異常に集まって出来る物らしく、昨日まで何も無かったところにいきなり出現したりする。『突発ダンジョン』とか『魔素溜ダンジョン』と呼ばれるA~Cランクのダンジョンだ。
『神が作りし物』よりはダンジョンランクは低く、出てくる魔物も低ランク、お宝と言った物は無いに等しいのだが『いきなり出現する』というのがとてつもなく厄介で知らない間にダンジョンが出現していてそこから魔物が溢れ出し、近くにある村や町を壊滅させることがある。
まぁそのために俺達騎士団が見回りや遠征をしているのだが。
「ダンジョンマスターが殺されていたと聞いたが、Sランクの魔物のだったのか?」
「一応そうですね、確かエンシェントゴーレム? のはずなんですけど、まー三日もあれば蘇っていると思いますよ」
「ダンジョン内部時間で三日と?」
「ええ」
そうなると約十五日で復活するのか、其にしてもエンシェントゴーレムとは厄介な物がダンジョンマスターだったのだな、アレは生半可な攻撃は一切通用しない鉄壁の防御と無尽蔵とも思える体力を誇っているはずだ。
ダンジョンマスタークラスのエンシェントゴーレムを倒すとは、魔王関係の勢力と言うのはやはり規格外だな。
そう思っているとディーネが立ち上がった。
「では、案内しますのでついて来て......あ」
立ち上がったディーネはふらりと倒れそうになったところをスミカ殿に受け止められた。
「よっと、大丈夫ディーネ?」
「ありがとうスミカ、少し立ち眩みしただけよ」
「はいはい、よいしょ」
「きゃっ!」
「......むー」
スミカ殿がディーネの背中に左手を回して右手を膝裏に差し入れて抱き上げる。その姿を見てサーシャが膨れた。
「地下でいい?」
「う、うん。あ、はい」
「分かった。でわついて来てください」
そう言って歩き出したスミカ殿を追いかけるように俺達三人も席を立っていた歩き出したが扉が閉まっている事に気付いた俺はディーネを横抱きしているスミカ殿を追い越して扉を開いた。
「どうぞ」
「あら? ふふふ、何だかお姫様とそれを抱える王子様、そしてそばに使える騎士様みたいね」
「はっはっは、実際騎士ですからな!」
「ありがとうございます、カルロスさん」
小さく会釈したスミカ殿が扉をくぐりその後をケインズがニヤケながら通過した。後で殴ろう。
そして未だに膨れっ面のサーシャはが目の前を通りすぎたのを確認して部屋の扉を閉めながら俺も外に出た。
屋敷内の廊下には紅い絨毯が敷かれている。いくつも部屋が有るのだろ、等間隔で扉が閉まっていた。本当に大きく、広い屋敷だな。公爵家でもここまでの屋敷を持っている貴族はそう多くはないだろうか。
それにしても、先程から使用人の姿が見えないな。
スミカ殿の後に付いていき暫く屋敷の中をあるいていると地下に通じている階段の手前まで来た。先が見えない少し不気味な階段だ。するとサーシャがスミカ殿のコートの袖を掴んだ。
「......なんだか、怖い」
「大丈夫だよ」
「可愛いわね本当に、スミカじゃなくて私の子にいたたたた! 砕ける! 体が砕ける! ちょっとした冗談じゃない!」
抱く力を強めたのか、ディーネの体からミシミシと言う音が鳴っていて俺とケインズは一歩引いた。
「......や!」
「あらあら、嫌われちゃったわ」
「帰ったらサーシャの大好物作ってあげるからね、
んふふ」
「......やった!」
サーシャの尻尾がブンブンと振られていた。それを横目に俺はケインズに耳打ちした。
「(なぁ、ケインズ)」
「(なんすか?)」
「(スミカ殿とディーネ殿を見てどう思う?)」
「(どうって......仲のいい友達って感じに見えっすけど?)」
「(そうか)」
俺には恋人同士に見えるんだが? 上手く説明出来ないが。




