34泊目
俺の言葉で場の空気が張りつめた。
「すでに過ぎた事とは言いませんが、何かしらの勢力が動いているのかもしれませんね、あら? ありがとうスミカ」
いつの間にかスミカ殿が人数分のお茶を準備してくれていた。時間でも操れるのかこの人は......?
「勝手に調理場使わせてもらった、それも魔王関係でしょうね。はい、サーシャはこっちね」
「......ありがとうおか、お師匠」
時々『お母さん』と言いそうになっているな。俺とケインズが居るから頑張っているのか。
「魔王関係か、だとしたら尚更我々が早く任務を終わらせなければなるまい」
「任務?」
「はい、私と隣にいるケインズはエスルーアン聖王国騎士団に所属し、王の命令により来ました」
「んー? エスルーアン聖王国?」
紅い紅茶の入ったカップを持ちながら首を傾げたディーネはハッと何かを思いだしたのかスミカ殿の方を向いた。
「あー! もしかしてスミカが更地にしたエスア村かしらね?」
「「!?」」
ディーネの言葉に俺とケインズは耳を疑いスミカ殿を凝視すると既に視線をそらしていた、と言うか顔ごとそらしていた。エスルーアン聖王国は建国する前は小さな村だったと歴史で習った。そして村の名前はエスア村だが、千年ほど前の話だぞ?
「す、スミカ殿? どういうことですか?」
「スミカの姉さん?!」
「......いや、なんと言えばいいか」
「何言い淀んでるのよ? 村の人達が新しく村を作りたいって言ってきたから更地にしてあげたんでしょ?」
「あ、うん」
「歯切れが悪いわねぇ、別に言わないわよ。スミカがいきなり胸を揉まれてブチ切れて更地にしたなんて―――」
「わー! 言ってる! 言ってるから!? ほんっとディーネって口が軽い! あ、勘違いしないで下さいね? 誰も殺してませんから」
「ちょっと! 誰の口が軽いって?! 固いわよ! 口が軽い女じゃないわ!」
「どこが?! 大体あれは殆どディーネのせいじゃん!」
「うっさいわね! 千年以上前の出来事を言わないでくれる?! 大体アレは―――」
また言い争いが始まってしまった。仲が良いのか悪いのかわからん二人だな。喧嘩するほど仲が良いとはよく言うがこの二人はどっちなのだろうな? サラッと聞き流しているが二人とも軽く千歳を超えているのか......予想はしていたが。
「......仲が良い」
「サーシャ殿にはそう見えるっすか?」
「......ん」
「サーシャ殿が言うなら間違い無いだろう」
言い争う二人を余所に俺達はティーカップに注がれたお茶に口を付けた。サーシャはミルクか? お、うまいなこのお茶は。
―――五分後
「こほん......失礼しました」
咳払いをするディーネの顔が少し赤くなっていた。どうやら恥ずかしかったようだ。
「話がそれてしまいましたね、その聖王国の騎士団の方がこのダンジョンに来た理由は何でしょうか?」
「あ、はい。 このダンジョンの最深部に眠るという『純魔結晶』の採取が私達の任務です」
「あー、あのマナの塊ね......誰か召喚でもするのかしら? それも別世界から、ね?」
俺はビクッと震えた。魔王の天敵である勇者を召喚するために『純魔結晶』を使うなどと初代魔王の前で発言してもいいものなのだろうか。
「勇者を召喚するために使うんすよ、ウチの国しか勇者召喚出来ませんからね」
「あ、おい! ケインズ」
「え? 言っちゃマズかったすか? でも思ったんすけど、勇者召喚なんてしなくてもスミカ殿にお願いすれば魔王なんて一瞬で―――」
「駄目です」
ケインズの言葉を遮るようにスミカ殿が言葉を放った。そんなスミカ殿を横目で見た後、ディーネは手に持ったティーカップの中身に視線を落とした。
「そうね、それは駄目ね」
「何で駄目なんすか?」
訪ねるケインズにディーネは顔を上げて視線を真っ直ぐ俺とケインズに向けた。
「いいですか人間さん? 魔王と言う化け物は人間が倒さなければならないんです、この世界で一番多い種族は誰ですか? 獣人でもない、エルフでもない、魔族でもない。人間が一番多いこの世界でもし人間以外の者が倒したらどうなるでしょうね?」
「そ、それは......その者は英雄として世界中から祝福を受けるはず――――」
「そんな事、あるわけないじゃない」
「っ!」
キッとディーネに睨まれた俺は硬直した。
「私はね、この世界で一番怖い物は人間と言う種族だと思うわ、魔王になった私を殺そうとしたのは人間さん達、歩み寄って平和に暮らそうと思ったのにそれを拒否したのは人間さん達、自分と違うものを、持つ者に嫉妬するのも人間さん達、『勇者』という人間が『魔王』という化け物を倒す事、その目標があれば争いは起きない、小さい小競り合いは在るかもしれないけど、それでも平穏をてに入れられる」
そう言いディーネは微笑んだ。
「ドラゴンであるスミカに頼るのは最終手段だと思いなさい、その後の世界がどうなるか、私は知りませんからね? スミカはお人好しで頼まれれば断れない性分だから」
「「......」」




