33泊目
「窓の外に花畑が見えっすけど」
「ああ」
「......大きなお屋敷」
「そうだな」
「団長ォ! 見て下さいよこの装飾品凄くねーっすか!?」
「......」
キョロキョロと忙しく視線を巡らすサーシャと部屋の中の装飾品を指差して言うケインズを余所に俺は頭を抱えていた。
ダンジョンの最深部に到着したら一面の花畑に豪邸がありました。
誰が信じるんだ?! そんな話! どうなってんだよ! 説明が欲しいぞ!
俺が葛藤していると部屋のドアが開き、赤いドレスだったディーネは今度は純白のドレスを着てスミカ殿にエスコートされながら歩いてきて俺達の正面に座る、スミカ殿がディーネの横に腰掛けた。そして一番先に口を開いたのはディーネだった。
「まずは謝罪を、もう一人の私がご迷惑をおかけました」
少し頭を下げるディーネにさらに俺は混乱した。
「あ、いや、迷惑? なのか?」
「スミカの姉さんが一撃で終わらせちまいましたからね」
「......強いて言うならギブリンの大群と村全滅」
「本当にすみません、全ては私の責任です」
しゅんとしてしまったディーネにスミカ殿が溜息を吐いた。
「はぁ、混乱していると思います。私もこんな事態になるとは思っても居ませんでした。完璧なイレギュラーです」
「と、言うと?」
「まず第一に彼女、ディーネの裏の人格。魔王であるディーネが目覚めたこと、第二にダンジョンマスターが殺されていた事、そして村の全滅の犯人はディーネではありません」
「村の全滅がディーネ殿の仕業ではない? だがあの現場にはコウモリが飛んでいた。スミカ殿も病気を蔓延させた原因はコウモリとかの仕業と言わなかったか?」
「ええ、確かに言いました。でもよくよく考えてみればディーネの眷属であるコウモリ達はアンデットや魔物の血を吸いませんし、人間や獣人からは吸いますけど―――」
「殺すほどの吸血はしません、血を吸い尽くしてしまえば私達吸血鬼は飢え死にします。裏の私は確かにあの村にコウモリ達を飛ばしたらしいです」
「よくわからんのだが、ディーネ殿は二重人格でいいのだな?」
「はい」
「裏のディーネ殿、魔王が表に出て来ている時は意識はあるのか?」
「殆どありません、ずーと夢をみている感じです。たまに強い衝撃とかで裏の私が気絶したりすると表の私が目覚める感じです。今回のように」
スーっと目を細めて隣のスミカ殿を見るディーネ殿にスミカ殿は視線をそらした。
「なるほど、だが意識がないのに何故ディーネ殿は裏の貴女がやったと分かったのですか?」
「理由はこれです」
ディーネが握ったままの左手を俺達に向けて差し出して開くとポンッと言う音と、白い煙と一緒に一匹のどこか可愛らしいコウモリが現れた。
「無数にいる私の眷属の一匹です、この子達が村に行って血を吸ったと教えてくれました。ですが、その時にはすでにダンジョンの中には人間や魔物の血液が満ちていたとも聞きました、ね?」
「キー!」
パタパタと羽を動かして鳴いたコウモリは羽ばたいてディーネの肩に止まった。
「つまり、村に血を吸いに行ったがその時はまだ村人全員が生きていて、何者かが村人全員に病気を蔓延させて尚且つあの『大広間』にそこら中から血液を集めたと?」
「はい」
「不可能だ、それに矛盾が生じている。事の始まりは一つの冒険者チームが『死者の祭壇』に入り怪我をしてスミカ殿の宿屋に転がり込んできた所から始まっている」
あの冒険者チームがスミカ殿の宿屋に来たのが早朝だ、それに最低でも行きと帰りで2回トッド村を通り過ぎているはずでゾル病の蔓延に気付くはず......ん? 待てよ、何故あの冒険者チームは怪我人を真っ先に村で治療せずにスミカ殿の所に来た? トッド村からスミカ殿の宿に行くには走ったとしても一時間以上はかかる。
大怪我をしていた男、あの出血量では一時間以上は持たない、良くて三十分、回復魔法が使える魔法使いが居れば話は別だがあのチームには魔法使いは居なかった。
「そう言えばダンジョンの入り口とかに血痕とかなかったすね、あの人の怪我だと痕跡が在りそうなきがするんすけど」
「......確かに変?」
頭をかきながら言うケインズと首を傾げたサーシャ。
「あのチームは村に寄っていない? それどころか『死者の祭壇』に入ってすらいない?」
―――――――――アインス王国内 街中のとある路地
「しくじったわ、まさかあの人が動くなんて思ってもいなかった」
「それで? 魔神剣と初代魔王様は?」
「両方ダメね、剣の方は破片だけ回収出来たけど初代様は寝てしまったし、あの領域には入れないわ」
「ッチ! 初代様を目覚めさせ、ダンジョンマスターを殺し、村を全滅させたのに成果が破片とはな」
「人間とドワーフのチームを使って上手く誘導出来たと思ったのに」
「貴様の幻術魔法がすでに見破られていたのではないか?」
「それは無いわね、それより目覚めた魔王にやられた傷は大丈夫かしら?」
「かすり傷だ、目覚めて直ぐに攻撃されるとは思ってもいなかった。直ぐに逃げたがな」
「あらそう、取り敢えず成果はあったわ、初代様の力を内包した破片が手に入っただけでも良しとしましょう」
「今代の魔王様の出現が近い、事は慎重を慎重を要するぞ」
「分かっているわ、もう少しこの国であの人を監視するわ」
「二度目の失敗は許されんぞ?」
「誰に物を言っているのかしら?」
「これはこれは失礼しました主様」
「面白くない男ね」




