32泊目
裏ディーネが羽ばたき上がるのが一瞬見えた。だが、時すでに遅し。
轟音、閃光、そして大量の土煙が『大広間』を満たした。
「ゴホッ! ゴホッ! ケインズ! サーシャ殿! 無事か?!」
「っぺ! あー、口の中が土まみれでけど無事ですぜ!」
「......ケホッ、無事」
そんなに離れて居なかった俺達は咳き込みながら安否確認を行う、そして徐々に土煙が晴れ来たと思ったとき、何かが風を切りながら回転してケインズの目の前に落ちてきた。
「ひょぉおおおおお!?」
変な叫び声を上げて尻餅を着いたケインズの目の前に突き刺さって居たのは黒い剣、魔神剣『カルドヴェルク』だったが刀身にひびが入り始めそして。
パキン......
小さな音と共に砕けサラサラと砂のように崩れた。
「魔神剣が砂になった?」
「......お師匠」
首を傾げているとサーシャが指を指す。スミカ殿の一撃はダンジョンの天井を貫き更に地中を進み、ダンジョンの外まで貫通していたようで天井には大穴が空いておりそこから外の日射しが降り注いでいた。
そんなに日射しを浴びながらスミカ殿が人の姿で何かを抱えて立っていた。後ろ姿しか見えないが人を抱えてるような?
「......これで最後だ、カルドヴェルクは砕け散った。我の役目は終わりだ」
スミカ殿が抱えていたのはボロボロになった魔王だった。あの紅黒いドラゴンの姿ではなく人の姿の魔王だ。
「どうせ出てくる癖に」
「クク、最早魔王の力は残ってはいない、あの剣に全てを渡し、そして砕けた。其にしても器用な事よ、我以外を綺麗さっぱり消滅させるとはな」
「剣だけ壊すつもりだったんだけど、纏ってるマナが少し邪魔で火力の調整が出来なかったんだよ、ごめん」
「良い、どうせ寝ていれば治る。我は暫く眠るとしよう」
「またね」
「ふん......楽しかったぞ」
後ろ姿しか見えないが裏ディーネの手がだらりと垂れ下がった。まさか死んだのか?! その時ピクリと手が動いた。
「あいたたた......変なこと言いながら殴られたと思ったら今度はボロボロかー、迷惑かけたわねスミカ。もう一人の私は?」
「寝るって言ってた」
「そう......スミカにお姫様抱っこされるのも悪くないわね」
「はいはい」
此方を向いたスミカ殿はディーネを抱えてこちらに向けて歩いてきた。それを見てサーシャがスミカ殿の服を抱き締めながら小走りで向かったので俺とケインズもあとに続いた。少し警戒しながら近づいたがディーネからは一切の殺意は感じられなかった。あの魔王姿が嘘のような穏やかな雰囲気で近づいてくる俺達に微笑んでいた。
「あらあら、近くで見ると本当に可愛いわね......それに騎士さん? かしらね? こんな姿でごめんなさいね、殿方の前ではしたないわね」
苦笑しているがどこか力が無い笑みを浮かべているディーネにケインズと俺はいつの間にか片膝を付いて頭を下げていた。あ、あれ?
「な、何故。私は跪いているのだ?」
「俺もっす団長、意識しないで身体が動いたっす」
「あ、いけない。『楽にしていいわ』」
ディーネにそう言われると身体が楽になった。何が起こったんだ? と、首をかしげているとディーネが微笑んでから壊れた天井を見た。
「ふふふ、それにしても派手に壊してくれたわねスミカ」
「ちゃんと直すって」
「じゃーついでに私を運んでくれないかしら? 身体に力が入らないのよ」
「はいはいお姫様。 カルロスさんケインズさん、サーシャも私についてきて下さい。それともう警戒しなくて大丈夫ですから」
「わ、わかった」
「うっす!」
「......ん」
俺達三人が頷くのを見てスミカ殿は歩き出し『大広間』の出口であろう目指して歩いて行く、俺達もそれに続いて歩くと意外と直ぐに扉の前に到着した。今まで見て来た扉より若干装飾されていた。扉の前でディーネを抱えたままのスミカ殿が立ち止まるとディーネがゆっくりとした動きで扉に手を触れた。
「『私の小さな楽園』」
ガゴンッ! っと大きな鍵が外れるように音が鳴り扉が開く、最初に感じたのは甘い匂い、花の匂いだ。その次に土や草の爽やかな香り、それを運んできた風が通り抜けた。
俺は目を見開いた。扉の先は草花が咲き乱れ日の光が優しく降り注ぐ大地、そこに大きな屋敷が一件だけぽつんと建ててあった。
「魔王の城にようこそ」
スミカ殿が笑うようにディーネがふわりと笑った。




