31泊目
「着痩せって......あーこれですか?」
スミカ殿は自分の姿を上から下まで眺めてから自分の胸を指差した。小さくはないな、むしろ大きいくらい......おっといかん、俺まで何を考えているんだ。
「邪魔なだけなんですけどねー、重いし揺れると痛いし」
ぽよぽよと胸を突きながら言うスミカ殿の後ろで紅黒いドラゴンが震えていた。なんだ? まさかもう一段階進化でもする気か?!
「スミカ殿! 紅黒いドラゴンの様子がおか―――」
『イヤミかスミカ! 我なんてまな板だぞ!? 背中と胸の区別が付かんと言われたんだぞ?! 我より胸が大きい奴は皆死ねば良い!』
「「「「......」」」」
魔王も胸が小さいことを気にしてるのか......
「あー......うん、ディーネの裏側だから気にしてても仕方ないか」
スミカ殿は今度は手袋を外してサーシャが持っているコートの上に置いて首を回して少し背伸びすると背中の羽が元のサイズに戻っていた。
「縮めたりできるのだな......」
「寝るときとか着替えたりするのに大きいままだと不便なんですよ。よっし」
銀色の腕輪を外し手袋の上に置いた。
「ちょっと眩しいと思うので気をつけて下さいね?」
「え?」
「はい?」
「......ん」
右手を前に突き出して指を鳴らす、その瞬間、視界を奪われるほどの閃光が空間を支配した。手で光を遮っていなければ立っていることすら困難な程の光の中、ズズン! っと足下が揺れた。紅黒いドラゴンが出現した時に似ているがそれよりも少しだけ大きく揺れた。
グルルルルル......
獣が唸るような鳴き声、そしてどの獣よりも大きな呼吸音が聞こえる、すると光が徐々に弱まって行き唸り声の正体を俺は見た。漆黒の鱗が全身を覆い瞳は黄金に輝き瞳孔はヘビのようだ。口元には鋭い牙が幾本も並び、スミカ殿の頭に生えていた角と同じ物が確認出来、首は長い、翼は黒いが所々紫色の紋様のような物が浮かび上がっていた。漆黒のドラゴン、その一言に尽きる。
紅黒いドラゴン、裏ディーネとでも呼ぼうか、彼女と違う点は裏ディーネの紅黒いドラゴンは二本足で立っているのに対し、漆黒のドラゴンは四本足だと言うことだ。
「嘘だろ......」
「黒いドラゴン......」
「......久しぶりに見た、お母さんの本当の姿」
サーシャの声が聞こえたのか漆黒のドラゴン、スミカ殿がこちらに首を向けた。
『久しぶりに戻ったからね本当に、サーシャ、二人を少し離れた場所に』
「......ん、わかった。二人とも聞いてる?」
「ん? あぁ、すまん。少し見惚れてた」
「俺もっす......」
俺とケインズは軽く頭を下げながらサーシャの後ろについて行き少し距離を取った。すると裏ディーネが鼻を鳴らして笑った。
『ふん、ククク。ただ『龍人化』の魔法を解いただけ、それだけでカルドヴェルクと融合し、尚且つスミカの血を取り込んだ我に勝てるもぶへら!?』
『あ、ごめん』
言葉を言い終わる前に裏ディーネが吹き飛び壁にめり込んだ。見えなかった、あの巨大なスミカ殿が消えたと思ったら裏ディーネ懐にスミカ殿が現れて、瞬きした時には尻尾に叩き飛ばされ、壁にめり込んだ裏ディーネしか見えなかった。
速すぎる、時間でも止めたのかという程の瞬間。
「み、見えたかケインズ?」
「みえねぇっす......」
「......ぎりぎり見えた」
「「嘘ぉ!?」」
「......あれ」
サーシャがスミカ殿が立っていた場所を指差した。床がえぐれてる?
「......多分『縮地』、床がえぐれるとこは見えた」
「縮地って使える人がいるんすか!? 勇者かその仲間しか使えないって聞いたんすけど?!」
地面を蹴り、瞬間的に近づくスキル、習得にはかなりに年月を費やすため使っている者は少ない、天才的な武の才能を持って召喚される勇者は別だが。
そんな事を考えていたら裏ディーネが大量の血を吐きながら埋まっていた壁から抜け出して着地した。
『ゴフッ! ゴホ! ふ、不意打ちとは卑怯だなスミカ。だ、だがそうしなければ我と対等ではな―――』
『力加減が出来ないから今ので眠ってくれればって思ったけど駄目か、それに少し本気出すって言ったじゃん』
スミカ殿の顔の前に十数個の魔方陣が連なった。
『少し痛いよ? 耐えてね?『龍の咆哮』』
ゴバッという音と共にサーシャがギブリンに放った放射系魔法の『バーストフレイム』より極太の閃光、いや、もはや光線が発射された。
『あ、我しぬこれ』
何か聞こえた気がする。




