30泊目
―――――――――竜風亭
「ぶえっくしゅん!」
「あばあああああ!? きったねぇぇえええええ!」
「あははははははは!」
スミカが作っておいてくれた昼ごはん食べ終えてミルクを飲んでいたらいきなり鼻がむず痒くなってくしゃみをしたら吹き出してジングに吹き掛けてしもうた。
ジングの隣に居たカーラは上手く避けて真っ白に染まったジングを指差して笑っている。
「誰かに噂されておるのかのう?」
「そうかもねーぷふふ」
「一人で暇そうにしてるから一緒に昼飯食ってたらこの有り様だよ!」
「なんじゃ? 何か文句でもあるのかえ? 美少女にミルク吹き掛けられたらご褒美じゃろう?」
「俺はそんな変態じゃねぇよ?!」
「本音わー?」
「ありがとうございます! とでも言うと思ったか?!」
「つまらん奴よのう、王子なんぞ頭を下げて礼をしていたのにのう」
「ただの変態じゃねーか!?」
「うわーこの国のートップがー女王様でー良かったー」
アレもあれで頑張っておるのじゃがのう、目立たんからしょうがないと言えばしょうがないが。そう思っていると宿の扉が開き鈴がなる。
受付がある正面ホールは飲食や雑談が出来るように少し広くなっていてテーブルと椅子が置かれている。そこで昼食を食べていた妾達は扉の方に視線を向ける。
「ありゃ? 誰も居ねーのかいって、ぶははははは! ジングが真っ白になってやがる! こいつぁ傑作だ!」
小柄が特徴的なドワーフの男、ホメットがミルクにまみれたジングを指差して笑う。
「うっせぇ! サテラさん風呂場借りるぜ?」
「好きにせい」
ジングが席をたって奥にある風呂場に歩いていった。
「あー笑ったぜ、何があったか知らんがジングは面白い奴だな」
「そーだねー」
「そうじゃな、それで? 何用じゃ?」
「何用って昨日も言ったじゃないですかサテラさん」
妾がホメットに聞くと妾達が座っていたテーブルまで歩いてきて腰袋に手を突っ込みジャラリと音がする革袋を取り出して妾に見せた。
「治療代が集まったからスミカ姉さん渡したいんだが? まだ帰って来ねぇのか? もう三日だぜ?」
「手こずっておるかもしれんのう、まぁ『死者の祭壇』内部は外と時の流れが違うのじゃから仕方ないがのう」
「そうなのか?! あっぶねぇ、俺達知らずに入ってたぜ」
「入り口なら影響は皆無じゃな。こっちでは三日じゃが、内部だと半日位じゃのう」
「へぇ、おっかねぇ場所だな。仕方ねぇ、出直して来る」
そう言いホメットは革袋をしまって宿から出ていった。
「じゃー私ー食器洗ってー来るねー」
「ん? ああ、すまんのう」
「いいよーサテラさんは休んでてー」
カーラがテーブルの上にあった空の食器を持って奥に消えていった。それを見送って妾はミルクの入ったコップに口をつけた。
「手こずる......か」
午後の日射しを浴びながら妾はミルクを飲み干した。
―――――――――死者の祭壇
「しょうがない、少し本気だすか」
苛立ったような咆哮を放つ紅黒いドラゴンを視界に捕らえながらスミカ殿が俺達がいる場所まで降りてき着地した。血と埃とにまみれてはいるが致命傷を負った感じはまるでなかった。
「スミカ殿、もしかしてディーネと言う初代魔王は二重人格なのか?」
俺の問いに少し驚いた表情になったスミカ殿。
「二重人格ってあれっすよね、自分の中にもう一人の自分がいるって奴ですよね? 嘘か本当かは知らないっすけど。珍しい病気って言われてますぜ?」
俺も一度だけ見たことがある。と言うか会ったことがる、男だったがとても優しく怒ったことが無いような奴だったが、少し前に起こった領土戦争から帰って来たそいつは普段は優しい奴なのだが怒ったり不安になったりすると性格が一変して暴力的になった。
しかも男の名前と違う名前を語ったのだから当時一般騎士だった私は驚いた。今はどうしてるか知らないが、あれが二重人格と言うものだったのかもしれん。
「そうですね......ディーネの中にはもう一人ディーネが居ます。表は優しく慈悲深いディーネ、裏は残虐非道の魔王ディーネ。彼女の壊れた心から産み出されたもう一人のディーネです」
「精神の病が引き金か......」
スミカ殿は静かに頷いて俺達三人に背を向けた。
「その引き金を引いたのは人間達ですけどね」
「「ッ!?」」
ビクッと俺とケインズは震えた。
「恨んで居るのか? 人間を」
「恨む? そりゃ彼女がああなった時は恨みましたよ。恨んで、恨んで、根絶やしにしてやりうかと思いました......でも時代が時代でしたし彼女の思想は当時の人間や獣人、エルフと言った種族達には早すぎたのかもしれません」
そう言ったスミカ殿に俺とケインズは何も言えなかった。そんな俺とケインズをチラッと見たスミカ殿がため息を吐いた。
「はぁ、恨んでいたら宿屋なんてやりませんよ」
振り返ったスミカ殿は笑っていた。そして同時にスミカ殿の背中に生えている羽が縮んだ。
「よいしょっと。サーシャ、これ預かっててくれる?」
「......ん」
シュルリとスミカ殿はコートを脱いでサーシャに手渡す、前を閉じていてコートの下はわからなかったが少し緩めのズボンに薄く白い長袖の肌着を着ていた。
「ヒュー! ホントに着痩せするのぶへぇ!」
「へ?」
ケインズの顔を殴り飛ばしたが間に合わず、スミカ殿がきょとんとした顔をしていた。




