28泊目
黒い球体が出来上がると同時にスミカ殿が跳躍し、空中で体を半回転させながら俺達の目の前にふわりと着地した。その表情は少し焦っている様に見えた
「すみません、私のミスです。直ぐに決着を着ければ良かったです」
「何が起こっているのだ?」
「......お師匠?」
「どうしたんですか? 姉さん」
俺達が矢継ぎ早に質問するとスミカ殿が並んで刺さっていた剣を二本抜いて両手に持った。
「今までここに広がっていた赤い水、あれはトッド村の村人達の血液、それともともとこのダンジョンに居たはずの魔物の血液、それとディーネのマナが混ざった物です」
「マナが見える物なのか?」
「彼女の魔力は強大で内包するマナも莫大です、それに彼女は特殊な吸血鬼なんです」
「ヴァンパイアに特殊なんてあるのか? 太陽に弱い、血を吸って生きるぐらいしか俺は知らねぇけどな」
ケインズの言うと通りだ。俺もそれしか知らないがな。
「普通の吸血鬼、ヴァンパイアにとっては血を飲むのはただの食事です。でもディーネは血を吸った相手のマナや相手の力を自分の物に出来る、それはあの赤い水も一緒でもし血を流して混じれば彼女の一部になります。今彼女は全ての赤い水を自分の内に取り込んでいます」
「確かに特殊、規格外の力だがそれがどうしたのだ?」
「......あ」
俺が疑問に思っているとサーシャが何か気付いたのかスミカ殿の怪我をしていた所を指差した。あ、まさか......
「あの場面で攻撃を食らう、しかも出血して私の血はディーネのマナ、赤い水に混じりました。もうわかりますか?」
初代魔王を圧倒したスミカ殿の血、つまり力を取り込んだ? それはつまり―――
ドクンッ! と黒い球体が脈動する。
「サーシャ、二人を連れて逃げて。私が出来るだけ時間を稼ぐから」
「......やだ」
「サーシャ!」
「イヤだ! 私も戦う」
「お願いだから話しを―――ッ!? 危ない!」
「きゃっ!」
ドンとサーシャを突き飛ばしたスミカ殿が剣をクロスさせて防御しようとした。
「ぐっ!」
だが何か赤黒い触手の様な物に弾き飛ばされて数十メートル先の壁に激突、がらがらと壁が崩れ土煙が上がった。俺は突き飛ばされたサーシャを受け止めてその肩に触れていたが震えているのが分かった。
震えながらサーシャが赤黒い触手の根元に視線を向ける、俺も同じ様に目を動かすとそこにはひび割れた黒い球体から触手が生えていた。
いや、触手じゃない。あれは尻尾だ、太く長い鱗に覆われた何かの尻尾。しゅるしゅると尻尾が小さくなり球体の影に隠れると鳥の卵からヒナが孵る様に黒い玉が割れる。
「厄日だな」
「とんでもねぇ厄日ですぜ団長」
ズズンッと地鳴りが起こる、巨大な二本の足。そこから生えている爪は人を軽く引き裂けそうだ、全身を赤黒く覆う鱗。ミスリル製の剣でも切れないかもしれない、背中にはコウモリのような翼とドラゴンの翼、異なる四枚の翼が生えていた。
首は長くゴツゴツとした頭をには羊のような角が生えており蛇のような瞳は血のように紅い、二本の腕は巨大な体にピッタリなほどの大きさで五本の指先には凶悪な爪が見えた。
俺達の数十メートル先にいるのは大きく異形なドラゴンだった。
『ククク、フハハハハハハハハ!! 手にいれたぞドラゴンの力を! 疼く! 力が、全てを壊せと疼くぞ! まんまと策にはまってくれて助かったぞ? スミカよ、クハハ! 最早聞こえてはおらんだろうがな!』
鋭い牙が並んだ口を開き低く、それでいてディーネの声に似た音質が腹に響く、ビリビリと空気を揺らす。
バンッと破裂音が聞こえたと思うと紅黒いドラゴンの顔に小さな火花が散った。音の発生源はいつの間にか立ち上がり銃と剣合わせた武器を構えたサーシャだ、また引き金を引いた。
更に五発が連続で発射されるがどれも致命打とはならない、火花が散るだけで鱗に傷一つ付いていなかった。それを見てサーシャは武器を下ろした。
『クク、もう終わりか? 痛くも痒くないぞ?』
「......ッチ、クソトカゲが」
「落ち着けサーシャ殿! ここは一時退却だ、ケインズ!」
「おう!」
「いいか? 生きているとは思うがスミカ殿を回収したらそのまま通路に逃げ込む、あの巨体では通れない」
「分かりましたぜ!」
「だがそれを行うには奴の気を引かなければならない」
「......私がやる」
スッとサーシャが一歩踏み出した。
「駄目だ! サーシャ殿はケインズと一緒にスミカ殿の救助をしてもらう」
「......私がやる!」
「落ち着けと言っているだろうが!」
『何をごちゃごちゃ言っている? 逃がすわけないだろうが『重力場』」
ズンッと体が床に叩き付けられ上から圧力がかかる。
「ぐぅ、くっそが重力魔法か!?」
「う、動けねぇ!」
「......っく!」
俺達三人は地面に縫い付けられた様に動けず、這いつくばった。
『クハハハ! 劣等種に相応しい姿よ! そのまま圧し潰れるがいい!』
ズズンっとまた圧力が強くなる、体が軋む、内蔵が口からでそうだ。
このまま死ぬのか、そんな事が頭を過ったその時。
「私の可愛い娘とお客さんに何してんだこの貧乳ロリババァが!」
ガゴン!
『がふぅ!?』
鈍い金属音とスミカ殿の怒号が聞こえたと思うと体を押し潰そうとしていた圧力が消え視線を向けると埃と血にまみれたスミカ殿が紅黒いドラゴンの顔を殴り飛ばしていた。
ブックマーク登録件数が90を突破しました!
ありがとうございます!




