24泊目
「何なのだこれは一体......」
「一面真っ赤ですぜこれ」
「......クサイ」
スミカ殿が剣士と言う衝撃的な事実を知らされたあの小部屋から出て罠を警戒しながら二約時間ほど歩いた。通路は真っ直ぐだがやや傾斜があり段々と地下に向かっているようだった。
そして、地図で見た最深部手前の『大広間』に出た俺達を待ち構えていたのはギブリンと戦った『大広間』よりさらに広く天井も倍以上高い。だがそれより異様な光景が扉を開いた瞬間、視界に飛び込んできた。
床一面が赤い、しかも少し波打っているのを見ると液体だと分かる。そして鉄のような臭い。血だ、『大広間』一面を血液が満たしている。これ程の血液......一体何処から? 俺が疑問に思っているとスミカ殿が躊躇なく一歩を踏み出し、入り口から一段下がった床に足をつける。
パシャンっと水のような音がした。血液にしては水のように薄いな? 一体なんだこれは?
スミカ殿に続くようにサーシャが、俺とケインズも水音をたてながら進む、血のような液体はくるぶし程の高さまである。臭いは相変わらず酷いが。
「血液のようだがやけに薄いな、もっと別の何か?」
「臭いはひでぇーっすけどね」
「......クサイ」
「サーシャ殿は血の臭いが苦手なのか?」
俺がサーシャに聞くとふるふると鼻を摘まみながら首を横に振った。
「......違う、血の臭いは平気。何か混ざった臭いがする」
「混ざってる?」
足元の赤い液体を見つめる、血のように赤い、だがやはり水のようだ、俺は手で触ろうと左手のガントレットを外して赤い液体に触ろうとした瞬間。
「ダメ!」
「ッ?!」
スミカ殿の声が聞こえたと思うとピシリと左手が液体に触れる紙一重で動かなくなった。腕を見るとスミカ殿の『魔糸』が見える程に巻かれていた。
「すみません、先に言えばよかったですね。この液体には絶対に素手で触れないでください、服や靴、甲冑を着けていれば入ってくる事はないですから」
「そ、そうか。俺の注意不足だった、助かったぞスミカ殿。それにしてもこの赤い液体は何なのだ? 血液にしては薄いぞ?」
俺が問うとスミカ殿が魔糸を解いてくれた。
「人間にとっては猛毒です、獣人も同じです。サーシャも触らないでね?」
「......ん」
コクリとサーシャが頷いた。人間や獣人には猛毒だと?
「猛毒と言うことは兵器の類いか?」
「こんなクサイ液体が兵器っすか団長?」
―――酷いことを言うではないか? この素晴らしい香りが分からんとはな所詮劣等種族ということか。
ゾワっと寒気がして俺は剣に手をかけた、ケインズとサーシャも同じように辺りを警戒し始めた。今の声と同時に感じた肌をピリピリとしたしびれる感覚、殺気。いや、威圧か?
頭をすっぽりと覆う兜の視界は狭く、自分の息使いが響く。そして俺は視界に人影を捕らえた。
「何者だ!?」
―――劣等種が我に名を訪ねるか? フハハハ、面白いぞ劣等種。我を笑わた礼をせねばならんな?
ゆっくりと近づいてくる人影は段々とはっきりとした姿を見ることが出来た。
腰まである金色の髪、その前髪の隙間から赤い瞳が覗いていた。肩が露出した赤いドレスを身にまとい、赤いストールを身につけた少女。
その少女が赤い液体の上を素足で歩く、その度に水滴が落ちるように波紋が広がった。俺は息を飲んだ。見覚えがある少女だった。
「サテラ......殿?」
腰からコウモリのような羽が生えた少女の口元はつり上がるように歪んだ。




