23泊目
―――――――――アインス王国、王城
「やぁ! マイシスター! 今日もかわぶへ!?」
「王子!?」
俺が勢い良く妹......おっと違った。女王陛下が居る執務室のドアを開けた途端、顔面に分厚い本がぶち当たり仰け反った。痛いじゃないか。
付き添い兼護衛で隣に隣に立っていたダイメルが驚いていた。俺はヒリヒリと痛む顔を手でさすりながら執務室の中を見ると腕を組んで仁王立ちした女王陛下が机の前に居た。
あー......あれは怒ってる、目元がピクピクしてるし。
「ッチ! 急所を外したわ......何の用かしら? ゲンシュお兄様?」
「陛下、ジャストミートでございます......プフフ」
妹が舌打ちして側に控えていたクリスが肩を震わせていた。最近のクリスが俺に冷たいんだが? 妹は昔から俺に冷たいが。
「いやいや陛下、何の用って貴女が私を呼んだんじゃないですか? 朝早くに執務室に来いって」
「そうだったかしらね?」
「私は存じ上げません」
「っく!......」
これがイジメって奴か!? 俺はなにもしてないぞ? むしろ感謝される事はあるが妹が俺に対して怒ることなど......あ。
「はっはーん、分かったぞ。昨日の夜に叔母上の所に行ったから嫉妬しているな? フフフ」
「んなっ!?」
「お前は昔っから叔母上が大好きだったからな、嫉妬しても仕方ないか」
「なっ! なっ!?」
妹の顔が真っ赤に染まった。分かりやすい奴め、お前が叔母上を尊敬し敬愛しているのは周知の事実、最近は御前会議やら謁見やら書類仕事で会えないと語っていたのをメイドを通じて知っているぞ。
おや? うつ向いてしまった。からかい過ぎたか?
「......ろ」
「何だって?」
「お前の罪を数えろ! 馬鹿兄上! 『我が命ずるは天を貫く柱なり、その雷鳴をもって穿つ槍なり』! 『ライトニングスピア』!」
「ちょ!?」
雷系魔法の『ライトニングスピア』だと!? 妹が上に突き出した右の手の上にバチバチと放電する黄色い槍が現れていた。だが妹はそれをフッと消した。
「はぁ、スミカ様の邪魔をしたお兄様には本当はキツい罰が必要なんでしょうけど、今は良いでしょう」
溜息を吐いてそういう妹に俺とダイメルは同時に安堵していた。ん? こんなやり取りを前にもしたような? まぁいいか。
「驚かさないでくれよノエ」
「女王様! まったくもう......お兄様、お仕事です。エスルーアン聖王国に届けて欲しい物があるので飛んで下さい。クリス」
「はい、これをどうぞ王子」
そばに控えていたクリスが装飾された封筒を俺に手渡してきた。外交用の正式品か、嘘では無いようだ。
「ふむ、手紙か誰に渡せば良いのだ? 王か?」
「正式品の封筒なのですからそうですね普通」
「っはっは! そう冷たい目をするな、少しからかっただけだ。わかった行ってくるとしよう、ダイメル」
「っは!」
「お前が指揮をとり護衛を見繕え、直ぐに出るぞ」
「わかりました王子」
「では王女陛下、行って参ります」
「はいはい、行ってきなさい」
シッシと手を振る妹に背を向けて俺とダイメルは歩き出した。エスルーアンか、遠いな。だがおいしい菓子があると聞くし買ってきてやるか、チラリと手にした封筒を視界に納めて懐にしまった。
――――――死者の祭壇
「......罠が無い」
サーシャがしょんぼりとしながらパンを囓っていた。ギブリンと死闘? を繰り広げた『大広間』を出て罠があると言われていた通路の脇にあった小部屋で休憩と昼食を取っていた。
「あるよりは無い方が助かるんだが?」
「そうだぜサーシャ殿! そんなにしょげること無いぜ?」
「......しょげてない」
膨れっ面のサーシャ顔を背けてしまった。
「そういえばスミカ殿、聞くのを忘れていたんだがさっきの攻撃は何なのだ?」
「はい? さっきのと言いますと?」
スミカ殿が水筒を魔道具から取り出して人数分の皿にスープを注ぎながら首を傾げていた。やはり便利だな収納の魔道具は。
「あれっすよ姉さん。こう、手を振るうと虫共がバラバラになったやつですよ」
「あー......あれですか」
ケインズが真似した手の動きを見てスミカ殿がチラリとサーシャを見た。
「......教えても言いと思う、お師匠以外に出来る人は居ない」
「面倒な事にならないかな?」
「......面倒くさがり」
「うっ......はぁ、えっとですねさっきのはちょっと特殊と言うか私が編み出したと言うか」
「ほぉ、流石SSランク冒険者だな」
「すげぇっすね!流石姉さんだ! それで? どんな魔法なんですかい?」
期待した眼差しを向けているケインズにスミカ殿は頬をかきながら苦い顔をしていた。
「魔法じゃないんです」
「「え?」」
「あーでも、一応マナは使ってるから魔法なのかな?」
曖昧な事を言いながらスミカ殿が近くに落ちていた拳程の石を拾い、俺とケインズの前に差し出した。
「私は『魔糸』と呼んでいます。自分の中のマナと身の回りに漂っている魔素を使うんですけど、見えます?」
スミカ殿が左手に石を乗せて右手の人差し指を石を撫でるように一周回した。何も見えんが?
「何も見えないっす。姉さん」
「此ならどうでしょう?」
小部屋を明るくしていた『照石』に石を近づける、すると何かキラキラと光る細い物が巻き付いていた。髪の毛より細いぞ? コレが糸?
「それが、『まし』と言うか奴か? 細すぎて切れてしまいそうだな」
「ええ、髪の毛より細く蜘蛛の糸より軽く、そして―――」
スミカ殿が右手をピッと引っ張ると左手に持っていた石がバターのように切断され、輪切りになった。
「強度はミスリルより上です」
「なんだと......」
輪切りになった石を俺は見つめると断面は鏡のように光を反射していた。魔剣を使ったとしてもここまで綺麗に石は切れない、魔法を使っても無理だ。
「なるほどな、あれだけ居たギブリンをまとめて始末していたのが糸とはな、確かに糸使いの冒険者なんて聞いたことがないな」
「すげぇとしか言葉がでねーっす!」
頷いている俺と拳を握って目を輝かせているケインズにパンを食べ終わったサーシャがジトッと視線を向けてきた。
「......言っておく、お師匠は『剣士』。ギルドにもそう登録されてる」
「「は?!」」
「あー言わなくてもいいのに、サーシャったら......」
「......お師匠が誤解されるのがイヤ」
「もー! 可愛い奴めー!」
サーシャが少し顔を赤くして言うとスミカ殿がサーシャに抱きついて頭を撫でていた。嘘だと言ってくれ、上級魔法を無詠唱で使い『魔糸』と言う独自の物まで作り上げたスミカ殿が剣士だと!?




