駆け込み寺
ショッピングモールを抜け出した妹と少女は
郊外の住宅街まで逃げ延びていた。
空はもう真っ暗になっている。
社長に危害を加えられたとあってか
追撃の度合いは熾烈さを増して留まるところを知らず
車に轢かれかけたことも二度三度ではない。
二人は公園に身を隠していた。
「おねえちゃんこわいよう」
「もうちょっと、もうちょっとで着くから
頑張ろう、ね?」
「うん」
一体どこに着くというのか
そんな場所があるなら自分が聞きたかった。
「あそこだ、公園にいる!」
二人は公園から抜け出して走った。
排気音を響かせて大型バイクが集まってきた。
なるべく狭く入り組んだ道を選んで逃げるが
追っ手は大型バイクとは思えない機動性を発揮して
どこまでも追ってくる、体力はもう限界だった。
「こっちに入ってください!」
雑居ビルの中から若い女が扉を開けて妹に呼びかけた。
二人は飛び込んだ。
甲高い排気音が近づいてくる。
妹は固唾を呑んだが、音が離れていくのを確認して安堵した。
「大丈夫ですか?」
若い女が心配そうに語りかけてきた。
歳は22、3というところだろう。
その場にいるだけで人の心を和やかにする、
そんな力を秘めた美人である。
「ありがとうございます、助かりました」
「いえ、お礼には及びません。
何か事情があるんですよね。
もし、行く当てが無いのでしたら
しばらくここに泊まっていきますか?」
「そこまでしてもらうわけには…」
「いえ、お気になさらずに私も、
子供たちもにぎやかな方が好きですし」
「子供たち?」
「ここは児童養護施設なんです、私は院長をしています」
まだまだ未熟者ですけどね。
その女の子もしんどそうですし、
ぜひ泊まっていってください」
少女は疲労が溜まりうつろな目をしていた。
そう言われれば断る理由はなかった。
「わかりました。
それではお言葉に甘えさせていただきます」
「はい!甘えちゃってください。
あそこの部屋が空いていますから、
ゆっくり休んでいってくださいね。
今おふとんを持ってきますから」
院長は嬉しそうに準備をはじめた。
妹は久しぶりに人の善意に触れた気がした。
休める場所と協力者を見つけた喜びに酔いしれた。
今日はいろいろな事ががありすぎた。
床に入ると一気に疲れが吹き出し
妹も少女もすぐ眠りについた。
二人が寝静まったあと、院長は受話器を取った。
明くる朝、彼は笑っていた。
妹に目を潰されたからである。
もう開くことの無い右の目蓋をさすりながら
葉巻を噛んだ。
「あいつめ、きっといまごろ俺に一矢報いたと
陶酔しきりなのだろう。
愚か者め、馬鹿者め、度し難い者め
無能らしく言われたことだけをしていれば
良い目を見られたものを。
自由の味を覚えたものを生かしておくわけにはいかぬ。
さりとて俺は選挙活動中
来る登院の日に備えての準備に専念せねばならぬから
他のことに時間を費やすのは具合が悪い。
かといってこのまま反乱分子を放っておくと
社員に示しがつかないし、俺の腹の虫も収まらない。
これは困ったことだ。
ところでここに俺の部下たちの集めた情報が山と積まれている。
どれどれ、ふむふむ、昨晩入ったあいつからの電話…
なんてことだ、あのきちがい女め
こちらが出演をチラつかせた途端にチャンスを掴んだか。
つくづく悪運の強い、まあ、いい。
俺は指示を出すだけだ。
他人に始末をつけさせて、俺は悠々ダルマに墨を入れるというわけ。
さて、議員先生方への挨拶回りといこうか」




