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幕間(まくあい) 1

施設の朝は早い。

六時には騒がしくなりはじめ

ベッドで寝ていた妹と少女も子供たちに起こされた。

子供は7人いて、みな5、6歳といったところで

少女と同じくらいの年頃である。

子供たちに連れられて食堂にはいると

大きな部屋に長机が整然と並べられていて

なんだか学生食堂のようである。

厨房で調理をしていた院長がにこやかに話しかけてきた。


「おはようございます、いま朝ご飯が出来ましたから

 座って待っていてください。

 その時にみんなに紹介しますからね」


子供たちはそれぞれ手に盆を持って厨房の前にならび

献立をひとつひとつ取っていく。

その光景に妹は高校の食堂を思い出した。

少し前までは特別変わったところのない普通の高校生であった。

それがならず者に追われる身になるとは予想だにしなかった。

学校での記憶が遠い昔のことのように思われた。


「おねえちゃん」


少女が話しかけてきた。


「なに?」


「あの子たち、なんかおかしくない?」


「何言ってるの?」


妹は怪訝に思ったが、列に並ぶ子供たちを見ると

確かになにかおかしい。

みな一様に笑顔を浮かべ

蜂の巣のような秩序だった薄気味悪さがあったが

その違和感はかすかなものであり

食事が待ち遠しいからではないかとか

気のせいなのではないかと思えばそれまでだった。


配膳が終わり、みなが席についた。

妹と少女の分は院長が持ってきた。


「はい、みなさん、いただきます!

 と言いたいところですが

 今日はその前にお知らせがあります」


よく通る高い声でエプロン姿の院長が音頭をとった。


「突然ですが、昨日の夜に二人の新しいお友達が入りました。

 挨拶をしてもらいますからみんな静かに聞いてくださいね」


はーい、と子供たちは明るい返事をした。

院長に、はいっ、と手振りで促されたので

妹は立ち上がった。


「ええと本当に突然ですけど

 仲良くしましょう、みんなよろしくね」


妹が定型的に済ませると、今度は少女が立った。


「おねえちゃん、みんな

 わたしのこと忘れないでね」


「えっ」


妹はびっくりした。院長や子供たちもきょとんとしている。


「ちょっと、どうしたの?」


「ううん、なんとなく」


「面白い子ですね、人と違う世界を見ているのかな?

 みんな、あたたかく迎え入れてあげてね」


院長が場を取りなすと食事が始まった。

妹は心配そうに少女の様子をみたが

ほかの子供と楽しそうに話している。

妹はほっと胸をなでおろした。

対面に座った院長が申し訳なさそうに話しかけてきた。


「あの…来られて早々にこんなことを

 言うのも厚かましいのですが

 手伝ってほしいお仕事があるんです…

 いいですか?」


「いいえ、とんでもないですよ。

 こちらこそお世話になっているのに

 何もしないのは悪いです。

 出来ることならなんでもやります」


「舞台に出てほしいんです」


「演劇…ですか」


「あしたの土曜日に市民文化祭があって

 うちはそこに演劇で参加するんです。

 けれどこの前、出演する子供が二人も病気にかかって

 急に入院することになってしまったんです」


「大変じゃないですか」


「はい、参加を取り止めることも考えたんですが…

 参加団体は市から補助金がもらえるんです。

 情けないですがこのお金が、

 施設を経営していく上で無視できないんです。

 なんとかギリギリでやっているので」


「それで、もしかして…代役ですか?」


「おっしゃる通りです」


「何をやるんですか?」


「『白雪姫』です。貴方には王妃様を

 あの子には白雪姫を演じてほしいんです。

 少ないですがギャラもお支払いします」


「ちょ、ちょっと待ってください。

 すごい重要な役じゃないですか。

 今日中に全部やらないといけないんですよね」


「大丈夫ですよ、そんなに長い話じゃありませんから」


「いや、でも、演劇なんてやったことないですよ…」


「誰でも最初は初めてですよ、心配しないでください

 私が全部教えますから!」


院長は任せておけと言わんばかりに胸をどんと打った。

好意で泊めてもらっている手前、断るのも気の毒である。

こうまで言われたら受け入れるしかない。


「わかりました、やってみます」


妹はか細い声で答えた。


「ほ、本当ですか!?ありがとうございます!」


院長は喜色満面で妹に抱きついた。


「ちょっとちょっと」


「ああ…ごめんなさい、

 いきなり主役二人が抜けちゃって

 代役を探すにも時間が間に合わないから

 本当ににっちもさっちもいかない状況だったんです。

 だから、嬉しくって…」


「は、はあ…」


「お二人に明日の劇に参加してもらうことになりました。

 楽しいお芝居にしていきましょう」


子供たちは声をそろえて、はい!と

歯切れ良く返事をした。

どうやら受け入られたようだ。

妹は座っていた少女に話しかけた。


「劇に出ることになったんだけど大丈夫?」


「うん!わたしがんばってセリフとか覚えるよ」


妹は少女の笑う顔を初めて見た。

逃げてから気の滅入ることばかり続いてから

気分転換には良い機会だろう。

妹は少女のためにも演劇を頑張ろうという気持ちになった。

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