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銀の刃

妹と少女は街路をひたすらに逃げた。

行く道はどこも追っ手が潜んでいて

息を休める暇もない。

妹はタクシーを広い遠くへ逃げようとしたが

運転手が会社で見知った顔であることに驚いて

すぐさま路地裏に飛び込んだ。

妹は肩で息をしながら、自分が四方八方から監視されているのではないかと思った。


「なんで…こんな、すぐに見つかる…そうか!」


妹は鞄からスマートフォンを取り出すと

地面に叩きつけ、踏み潰した。

表面のガラスが粉微塵になって飛び散った。

会社から支給されたスマホであることを忘れていた。

彼ならば追跡アプリを抜け目なくインストールしているだろう。

一番最初にしておくべきだった。

少女は不安げな顔で妹を見ている。


「おねえちゃん、だいじょうぶなの?」


「大丈夫だよ、きっと助かるからね」


妹は微笑んでみせた。


言ってはみたが打つ手は無いに等しかった。

この地域の警察はすべて彼の息がかかっている。

通報しようものなら、こちらが捕まりかねない。

頼れるのは手元の現金500万円だけであった。

この金をどう使うかで生き残るかそうでないかが決まるような気がした。


「おなかすいた」


「そっか、じゃあどこかに食べに行こうか」


飲まず食わずで走りっぱなしだったので

空腹なのは妹も同じであった。

スマホを壊したことが幸いしたのか

執拗な追跡はなりを潜めた。

それでもどこに追っ手がいるかわからないから

警戒をゆるめるわけにはいかない。

周囲に気を配りながら幹線道路に出ると

大きなノイズをいっぱいに響かせて選挙カーが走っていた。

公示が始まったのだ。

選挙には彼も出馬している。

だとすればこういう車にも気をつけなければいけないと妹は思った。

二人は周囲の目を気にしながら

おっかなびっくりショッピングモールへと向かった。


なんとか無事にモールにたどり着いた二人は

レストランの集中するフロアに足を運んだ。

昼時はどの店も人でごった返していた。

適当な店の行列に並ぶと前に立っていた中年女性の集団が

なかなかやってこない順番に気を悪くして

口々に悪態をついていた。

妹はあまり人ごみが好きではなかったが

追われている今となっては

身を隠しやすい分都合が良かった。


「二名様、席をご用意できまあす」


店員が行列に向かって声を張り上げた。

別の店員が行列の客に人数を確認している。

前の方に並んでいる客はみな団体客であったらしく

店員が妹のところまで来て席を空けておくのもなんだし

先にはいってくれとうながした。

二人は居並ぶ客を尻目に入店することができた。

中年女性たちの嫉視を受けながらではあるが。


テーブルに座った妹はメニューを開いた。


「何食べたい?」


「オムライス」


「じゃあお姉ちゃんも同じものにするよ」


店員に注文を告げると、目当てのものは数分でやってきた。


「おまちどおさま、オムライスがお二つですね」


とろける黄身にトマトケチャップがたっぷりとかけられた

オムライスがテーブルに置かれた。

湯気が香りを運んでくる。


「あ、ありがとうございます、早いですね」


「他ならぬ妹の頼みだからな」


「え…?」


妹が見やるとコック姿の彼が立っていた。


「ひい!」


妹は声が裏返った。少女はきょとんとしている。


「何を驚いているのだ。

 お前が注文した料理だろうが。

 意味のわからんやつだ」


妹は少女の手を掴んで逃げようとした。

すると行列に並んでいた客たちが

いっせいに入り口を塞ぎ

店内で食事をしていた客たちは円陣をつくり

妹たちを取り囲んだ。

中にはさきほどの中年女性たちの姿もあった。


「おおかた不特定多数の集まる場所ならば

手出しは出来まいと踏んでいたのだろう。

馬鹿なやつだ、ここの客はみな俺の客だ。

このレストランも、あのブティックも

地下のスーパーも、このショッピングモールにいる

人間のすべてが俺の客であり、またたび総合商社の従業員なのだ」


「そんなことって…」


妹はうなだれた。


「そういうことだ。

お前は俺に絶対に勝てない。

スマートフォンを壊して追跡を絶ったつもりだろうが

その程度のことで俺の目を誤魔化すことは出来んぞ」


「なら…」


「ん?」


「これでどう!!」


妹はオムライスを彼の顔面に投げつけた。

出来立てを押し当てられたものだから

彼はたまらず床に転げた。


周囲が騒然となると

すぐさま妹はテーブルの側に立てかけてあった

消火器を取り、客に向かって噴射した。

店内は白煙にまみれ、客はみな咳き込み、目をぬぐっている。

妹は他の客からフォークを奪い取った。


「俺の目からは逃れられない…」


妹は彼の声音を真似ながらフォークの切っ先にタバスコを垂らした。


「なら、目を潰すしかないよね!!」


妹はのたうちまわる彼の右目にフォークを突き刺した。


「ぐうううおおおおおお!!!」


妹は力一杯にフォークの柄を握り締め、

スパゲティを食べるようにねじり回した。

ぶちぶちと何かが千切れる感触が

妹の全身に伝わってきた。

フォークを引き抜くと

眼球から漏れ出た液体が切っ先を濡らしていた。


「ああああああああああああああッ!!!!」


彼は痛みにこらえきれず暴れ出し、備品や什器を片端から壊した。

店は大混乱におちいり、誰一人彼を助けなかった。

ようやく白煙が晴れると、妹と少女の姿はどこにもなかった。

彼は部下に助け起こされ病院に運ばれたが

右目の損傷はあまりに激しく治療は不可能であった。

眼球は摘出され、後には空っぽの眼窩が残された。

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