死体探し(前編)
妹は机に300万円を置いた。
若い寡婦はうろたえた。
幼い子はおもちゃを抱きかかえてじっと二人を見ている。
「就職が決まるまでの生活費、息子さんの養育費
少しでもお金が必要な時だと思います。
同意いただけるなら弊社から
これだけ謝礼をお支払いします。
移植先が見つかればレシピエントからも
追加で報酬が支払われます。
いかがでしょう?悪い話ではないと思いますが」
「でも、でも、できません主人を売り渡すなんて!」
「奥様、お気持ちは理解できますが…」
妹はわざとらしく一呼吸置いた。
「思い出では食べていけませんよ」
妹は押捺と署名の済んだ書類一式を鞄にしまい
家を出た。
妹は彼から臓器売買の仲介を命ぜられた。
彼が言うには生きたがりの爺婆様が金に糸目をつけずに
五臓六腑を欲しがるので
今や死体は宝石箱と同義になった。
臓器移植は高額の医療報酬が約束されているから
病院としても願ったりなのだ。
老人、病院、そしてまたたび総合商社
三方一両得の理想的な構図が生まれる。
そこで死後の臓器移植に同意していない
家庭に赴いて遺族を翻意させるのが御前の仕事というわけ。
貧乏で周囲から孤立している家を狙うと効率が良い。
格差が広がり縁もゆかりも消えうせた今の日本は
どこもかしこもそういう家だらけだ。
なに、最初は家族の絆だの思い出だのと
美辞麗句を振りかざすだろうが
ちらと金目の物を見せてやれば
綺麗さっぱり忘れてしまうのが人のならいよ
御前は俺の言うままに動いて、言われるままに死体を
集めてくれば良いのだ、と妹に言い聞かせた。
妹はその通りにした。
結果が今の家族だ。
うなだれたまま筆をとる寡婦の姿が頭から離れない。
これで良かったのだろうか。
いや、そんな事を考えるのはよそう。
自分は奴隷なのだ。
何をしたところでみんな奪われてしまう
食いつなぐためには言うなりになるしかないのだ。
妹はそう自分に言い聞かせて
スマートフォンに指示のあった次の場所に向かった。




