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またたび総合商社 3

ヘリは気まずい雰囲気を漂わせて

夜空を飛んでいた。

眠る少女を間に挟んで

院長が顔にこびりついた血と灯油を落としている。

敵味方に別れていたとはいえ

ついさっき木刀でさんざんに打ちのめした相手と

打ち解けられるほど妹の神経は太くない。

そんな空気を察したのか院長が口を開いた。


「あなたには感謝しているんです」


「えっ」


「稽古の時の頑張りを見ていて

 計画に迷いが生まれたんです。

 こんな良い子を殺そうだなんて

 取り返しのつかないことをつかないことを

 するところでした」


「でも、いいんですか、娘さんは」


「実は娘を助ける方法は他にあるんです。

 それをしなかったのは…

 私が怖いから、ただの甘えなんです。

 だからそのことは何も気にしないでいいんですよ」


「はぁ…」


「着きましたよ、病院です」


パイロットにうながされて

妹がヘリから病院を見下ろすと

正面玄関前の大きな庭園は

ぎらつく原色の光線が乱舞する

ライブ会場に変貌していた。

観客が立錐の余地もなくおしあいへしあい

特設ステージの前に集まっている。


ステージ以外にも

脂っこい料理を供する屋台、無料のビール&焼酎サーバー

高級ブランド品販売、土産物屋、

ゲームセンター、風俗の出張店、薬品販売

映画の野外上映、賭博場に露天風呂などなど

さまざまな娯楽と快楽が節操なく詰め込まれ

病院全体がの酒池肉林のレジャーランドと化していた。

人々は熱狂の中で彼の用意したエサを

家畜のようにむさぼっている。

妹は顔をしかめた。


「ここまで下品に出来るなんて

 狙っても難しいよ」


「お金があっても

 センスがないと

 こうなっちゃうんですね」


院長は苦笑した。

その時、会場の明かりが落とされたかと思うと

病室の窓が一斉に開かれ

室内に設置された大型の照明がステージに降り注いだ。

怪しげな宗教音楽が鳴り響き

大量のチョークを爆破したかのような

色付きの粉塵の中から彼が現れた。

壮年の男性も引き連れている。


「市民諸君、

 我が生涯最高の日にようこそ

 今夜は、人類史に永遠に刻み込まれる日となる。

 半死半生の議員先生の孫娘が移植手術によって蘇生し

 俺の初当選が決定づけられる日だからだ。

 そうなればまたたび総合商社は

 政府機関を後ろ盾に持ち、軍事力を矛とする御用達企業となり

 臓器移植法案を改正し、血液を含め臓器の自由売買を可能として

 さらなる巨万の富と権力を得ることになる。

 もちろん活動は世界に広がるぞ。

 地球上にある全ての臓器を売りつくすのだ!」


彼の声がマイクを通じて

大型の音響機器から発せられると

会場は狂気は観客の大歓声となって木霊した。

前方に陣取っている若い女の集団は

感極まって涙を流していた。


「薄気味の悪い…」


妹は苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。

彼が壮年の男性にマイクを手渡す。

男性は突き出た腹をダブルのジャケットで覆い隠し

その面もちは一見柔和ではあるが

皮一枚の下に悪徳をみなぎらせいている。

  

「みなさんこんばんは

 私の孫娘は遺伝性の内臓の病気で

 移植手術を受けなければ明日をも知れぬ命です。

 ところが現行法では移植のためのハードルが非常に多く

 これでは手続きが終わるまえに孫娘が死んでしまう。

 私はかわいい孫娘が死の恐怖に怯える姿を

 ただ指をくわえて見ているしかなかった。

 しかし!彼が現れたおかげで

 彼がここにいてくれたおかげで!

 孫娘は命を拾うことが出来るのです!

 これも社長である彼とみなさんのご支援のおかげです。

 その見返りに、我が党は社長、ならびに御社の支援を

 全力でして参る所存であります。

 本当にありがとうございました」


またも歓声があがる。

院長は「父さん」と悲しくつぶやいた。

彼が再びマイクを取った。


「上空のヘリを見てほしい。

 死にたてほやほやの少女のはらわたが

 特急便で運ばれてきた!

 これより我が病院は復活の場となる。

 奇跡の移植手術をほろ酔い加減で観戦しよう。

 さあ存分に飲み、食い、踊れ!」


「あっちょっとやめてください!」


妹はパイロットの制止を押しのけて

消火剤の投下スイッチを押した。

機体下に備え付けられた袋が開かれ

消火剤がステージに降り注ぎ、

彼と議員は粉まみれになった。

熱気に冷や水を浴びせた妹は

ボストンバッグから拡声器を掴み取り

身を乗り出して叫ぶ。


「またたび総合商社社員のみなさま!

 目を覚ましてください!

 あなたたちの前に立っている男は犯罪者です!

 やり手の社長はただの虚像です!

 本当は窃盗せっとう詐欺さぎ強盗ごうとう恐喝きょうかつ放火ほうか殺人さつじん

 ありとあらゆる犯罪に手を染めた

 死刑囚がなぜか大手を振って歩いているんです!!

 そこにいる男は自己顕示欲を満たすためなら

 手段を選ばない、性質たちの悪い赤ん坊です!」


彼も黙ってはいない。

意気揚々と空に声を響かせる。


「ほう、ほう、ほほーう。

 馬鹿は高いところが好きというが

 お前の愚かさは天井知らずというわけか。

 そうやって己を押さえられず

 大声で不平不満を叫びたがるところがまさにそうだ。

 身を潜めて騙し討ちを狙ったほうが

 何倍も俺に打撃を与えるというのに。

 どれ、どれ、ほれ、ほれ」


彼はポケットからスマートフォンを

取り出して操作をした。

するとヘリががたんと揺れて、

プロペラの回転が止まった。

 

「どうなってるの!?」


「操作系統を向こうに取られました!

 強制的に高度を下げられています!」 


「はっはっは 俺は責任感が強いからな、

 自分の会社の機器はしっかりと管理しているのだ。

 無責任なガキのお前と違ってな!

 そのまま地獄まで堕ちていけ!」


「きゃあああああああ!!」


ヘリは姿勢を制御できなくなり

ステージに向かって落ちていく。

妹は少女だけでも助けようと

力一杯に抱き寄せた。

地面がヘリに向かって押し寄せてくる。


「死ぬうっ!」


妹が覚悟を決めた瞬間、プロペラが再び回り始め

ヘリは即座に姿勢を元に戻して

ステージに着陸した。

急に姿勢が戻ったものだから

乗員は室内で盛大に揺さぶられた。

妹はヘリの天井に頭を強打し体中の力が抜けた。

ドアを乱暴に開ける音と、院長の叫び声と

彼の笑い声の混ざりあったものを

噛みしめながら意識は消えていった。

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