第七話 勇者召喚の犠牲
この作品を読む時は部屋を明るくして、画面から約33cm位離れて読んで下さいね?
とんでもない現象に出会ってしまった。
幽霊だ。
足が無く、半透明で、三角巾は付けていない幽霊だ。
「……アリア」
「ひぅ、な、なんですかぁ?勇者さまぁ」
……物凄く可愛いと思ってしまうのは俺だけなのだろうか?
今はこの光景を脳に保存しつつ、現状を把握するためにアリアに尋ねることにした。
「ここってさ、依頼人が言ってたゴーストハウスってコト合ってるんだよな?」
「は、はい……」
「物凄く恐ろしい幽霊が出るって言ってたよな?」
アリアが無言でうなずいたのを確認して俺は幽霊の方に目を向ける。
「……コレの何処が怖いんだ?」
○
「……幽霊っているんだなァ」
「そうだね、私も初めて見たよ」
直接は見ていないんだが。
それにしても、あんな可愛い幽霊を怖がるこの世界の住人ってどォなってんだ?
もしかして俺達異世界人がみる幽霊とこの世界の人間が見た幽霊は違って見えていたりすんのかねェ?
「あ、そう言えば。最近魔術部隊と剣士部隊とを作ったから一度模擬戦させても良いかァ?」
「良いと思うよ?と、言うよりなんで私に聞くの?今は葵が魔王なんだよ?」
……しょうがねェだろォが。
俺はこう見えて優柔不断で他人任せな決断しかしたことねェ高校生なんだからよォ。
「まだ色々リアに教えてもらわなきゃ動けねェ場面もあんだ、仕方ねェだろ……」
「ふふふ、ふて腐れるなふて腐れるな」
「……ちくせう」
○
「なぁ、アリア。この子って何処が怖いんだ?」
「そ、そのお腹から出てる臓器とか、頭が半分腐ってるって所とか……」
……ちょっと待て。
やっぱり俺が見ている光景とアリアが見ている光景は違うのか……。
「姫様はどう見えているんだ?」
「何も見てない何も見てない何も見てない……」
つ、使えねぇえええ!?
このクエストを選んだ姫様がこんなんじゃ意味ねぇじゃんよ!
いやいやいやいや、テメェ幽霊なんか居ない的なコト言ってたじゃんか……。
「え、えと、幽霊さん?」
「……ダレ?ワタシニ話シカケテルノハ」
「お、俺は勇者ってコトになってる」
「……勇者?今時ソンナ痛イコトイウ厨二病ナ奴居ルンダ」
「ぐ、ぐふぅ!?」
○
「ぐ、ぐふぅ!?」
「旦那!?ど、どうしたのッ!?」
「い、いや。ははは、そうだよな……。今時勇者やら魔王って痛いよな……」
「え?え?ど、どういうコト?」
ま、まさか、こんな精神的ダメージを与えてくるとは……。
幽霊侮れねぇぞ……。
……ン?もしかしてあの幽霊現代人か?この世界に厨二病なんて言葉は無かった筈だしなァ……。
なら、何で幽霊に?……そうか。そう言うことか。
「……シア」
「……此処に」
「なんで又天井に三角座りしてンだ!?」
「……用件を」
「ック……、何か負けた気分なんだが……。あの幽霊を連れてこれるか?」
「……御意に」
「ちょ、煙玉なんか投げるんじゃn……ゲホッゲホッ」
……帰ってきたら亀甲縛りで城の頂上に括り付けてやる。
ンで、ロリコン伯爵呼んでシアが泣くまで鑑賞するのを止めさせないでいてやる……。
「で、レイナール」
「ふぇ?な、何ですかぃ?」
ふぇって何回聞いても可愛いな、コンチクショウ!
今はそんなこと関係ないから、頭の隅っこに置いておくとして。
「準備は出来たか?」
「あ、うん!大丈夫だよ。何時でも始められるぜぃ!」
「……流石だなァ。ものの数分で終わらせるなんてよォ」
「僕だからね!」
胸張るな、服がはち切れんぞ。
ま、本気でレイナールはスゲェと思うね。
コイツ一人でこの世界を制圧しろっつったら出来るんじゃねェかなァ……。
「ンじゃ、始めっかね」
そう言って拡声器で兵士達に声を掛ける。
因みにだ、魔術部隊の隊長はユリア。
ユリアの魔力はリアには劣るが、この世界で言えば最強ランクだ。
んで、剣士部隊の隊長はムゥ。
剣士部隊とは名ばかりで正確には近接部隊だ。
ムゥは近接に限ればこの世界で三本の指に入る程度の実力者であり、気配も消せるというチート使用だ。
「これより模擬戦を始める!ルールは簡単だ。相手の部隊を半数に減らせば勝ち。大怪我までは良いぞ。だが、命に関わるような怪我をさせた場合は……。良いな?」
『『『『ウォオオ!!』』』』
「では、始める!」
○
「……どうせ、痛い子です。どうせ、どうせ、どうせ……」
「……?」
うぅ、心が痛い……。
あんな純粋に心に響く言葉は初めてだよ、コノヤロー!
響きすぎてグサグサ行ったわ!痛いわ、痛すぎるわ!!
「……デ、戦ウ?」
「……今は放って置いて下さい」
……グスングスン。
「……ッキャ!?」
心が痛くてしょうがないです。
辛いし、しんどいし、辛いし、辛いし……。
○
「……この光景スゲェな」
「だね」
「僕はこの兵士達の練度に吃驚しちゃったよ!」
……実はつい最近まで爺さんに教えて貰った通りに兵士達に動きを教えていたんだが、俺自身此処までアイツ達が動けるようになっているとは思わなかった。
……爺さん、マジパネェ。
「葵はどっちが勝つと思う?」
「……魔術部隊だろォな」
「え?何でなの、旦那?」
「先ずはリーチの差だ。ほれ、近づききれてねェだろ?ムゥくらいの奴なら関係ねェんだろォがよォ。で、次に防御力の差だな。魔術師は攻撃されることも想定して既に魔術を使って防御力が高くなっているからな」
「え?じゃあ、魔術部隊だけで良いんじゃないの?」
「それは違うよ、レイナちゃん。前衛あっての後衛、後衛あっての前衛だからね」
レイナールって天災の筈なんだがねェ?
ま、何処かしら抜けてねェとつまんねェ人生になっちまうからなァ。
○
どうしてこの世界に来てしまったんだろうか?
そして、どうして私は幽霊なんだろうか……。
「……大丈夫?」
「……ウン」
……片言にしか喋れない自分がウザイ。
どうしてこうなったんだろ?何が悪かったんだろ……。
「……貴方のコトを魔王様が連れてこいと仰っている」
……魔王、か。
勇者もいるし、この世界はきっとファンタジーの世界なんだろうね。
「ドウシテ?」
「……さぁ?」
……人間になりたいな。
こんな醜い姿は嫌だよ……、帰りたいよ……。
「……魔王様ならきっとどうにかしてくれる」
「……エ?」
「……魔王様は心優しい。大丈夫、貴方はそんな顔をしなくて良いようになる」
「ホ、ホントウ?」
「……本当」
助かるのかな……?元の姿に戻れるのかな……?
右も左も解らないし、無理なら無理でしょうがないよ。
この子に出会えなかったらこういう機会は無かったんだし、信じてみよう……。
○
「終わったか……」
「旦那の言うとおり魔術部隊が勝ったね!」
「それでも凄い接戦だったよね」
「試合中に実力が上がっていくっつゥ物語の主人公みてェな奴もいたからなァ……」
本当にご都合主義だなァ。
ま、今回ので天狗になっちまったら三下になるんだろォがな。
そして再び拡声器で兵士達に声をかける。
「内容の濃い良い模擬戦だった!両部隊にボーナスをやる!明日は一日休んで身体を休めるなり家族サービスをするなりしてこい!」
『『『『ハイッ!!』』』』
……すっかり元気になったな。
流石ボーナス、流石休日。
「……戻りました」
「お帰り、そして覚えておけ」
「……?」
「ア、アノ」
「ちょっと待て。えーと確か、コレだな。【彼の物の時を戻せ『リ・テンプラル』】」
「エ?エ?ド、ドウイウ」
俺が魔術をかけて元の姿に戻した所、案の定女子高生の格好をしていた。
「矢っ張りか」
……元の世界ではモテモテだったんだろォな。
ま、勇者召喚になんて巻き込まれちまったのが運の尽きだったんだろうな。
次回は説明回な予定。