『対ナノマシン弾』
爆破の報告を受けた高槻は、驚く様子もなく
「そうか」
とだけ口にした。
「……え、それだけですか? ナノマシン兵かもしれないんですよ?」
食いついてくるかと思ってたので拍子抜けした。
「ああ。だが、その前に武器工場の場所を突き止めたいのだよ」
そんな優先事項だったのか、どんな武器なんだろ?
「店員は口を割らなかったの? 私が『尋問』代わろうか?」
うちの相方は時々怖い事を言う。
「いや、何も知らないようだったよ。私が直々に『尋問』したからね」
「た、高槻がやったの……?」
アンナが珍しく身震いした。……え、博士の尋問ってそんなにヤバいのか?
「引き続き、M市で調査を続けたまえ。そこには中国マフィアの拠点がある。そこから当たるんだ」
◇
「裕ぁ、ラウワン行こうよー」
「……後にしなさい」
マフィアって、マフィアだぞ。道端で会ったら端に寄らなきゃいけない系の
「じゃあ、真面目にマフィアに話聞く? アジトなら知ってるよ。私、昔そこ潰したことあるもん」
「君、さらっと凄いこと言うよね……」
◇
「たのもー!」
アンナは満面の笑みで元気よくマフィアのアジトへ突入した。
「誰だ!」「カチコミか!?」
一斉に銃口が向けられるが、一人の構成員が悲鳴を上げた。
「待て! この女……“死神”だ!」
(うちの子、有名人なのね……)
アンナは怯む様子もなく、流暢な中国語で交渉を始めた。
「新しいボスいる? アンナが来たって言えば分かると思うよ」
構成員は奥へ“ボス”とやらを呼びに行った。
やがて奥から、身長2メートルはあろうかというスキンヘッドの巨漢が現れた。でけぇ…
「アンナか。……何の用だ?」
意外にも、ボスの日本語は完璧だった。
「武器を密造してる工場の場所を知らない? もしくは、そこの女リーダー!」
ボスは片眉を上げ、低く答える。さすがマフィア、貫禄がある。
「……それは教えられないな」
「私の頼みでも?」
一触即発。
アンナの雰囲気が明らかに変わる。
この二人、過去に何があったんだ?
重苦しい沈黙の後、ボスが溜息をついた。
「……負けたよ。俺たちもその『女リーダー』を探しているところだ。奴は俺たちの仲間ではない」
「探してどうするつもり?」
「……分かるだろう?」
「あー、そっか」
アンナだけが納得している。
……十中八九、消すって意味だろうな。
「で、アタリは付いてないの?」
「M市にはもういないだろう。K市には行ったか?」
「ううん、まだ」
「そこに人手を割けなくてな。代わりに探してくれないか。ただし――見つけたら始末してくれ」
女リーダーと何かあったのだろうか。その声には怒気が含まれていた。
「わかった! また来るね!」
「二度と来るな」
アンナは明るく振る舞っていたが、その手は最後までジャケットの中の拳銃から離れていなかった。
◇
「アンナ、あのボスと知り合いだったのか?」
「うん! 邪魔だった先代を私が撃ったから、恩を感じてるんだって。高槻も『利用価値がある』って言って検挙しないの!」
この国って、想像以上に真っ黒だ。
「あのボスってどうみても強そうだったけど、強いの?」
「強いよ! 生身の人間なのに物凄い怪力なんだから!裕、一人であの人に近づいちゃダメだよ!」
「え?そんなやばいの?」
「ボス1人の為にS区のヤクザが手を出せないって言えばわかるかな?」
「一組織が1人に手を出せないの?」
「そう!」
分からないけど何か分かった気がした。
オーラが凄かったもんなぁ……
アンナも負けず劣らず……この子は底が見えないな。
K市に向かう前に高槻へ現状を報告した。
『そうか。そちらには本部の捜査班を送ろう。2人は一度、戻ってきてくれないか』
K市は隣の市なのに……と思ったが高槻はちょっと焦ってる声だった。
◇
「戻ったね。密造された武器の使用が確認されたよ。恐れていた通り、あれは『対ナノマシン弾』だった」
高槻がモニターに映し出したのは、歪な形状をした弾丸の設計図だった。見ても分からないけど
「対ナノマシン弾?何ですか、それ」
「軍用の特殊弾だ。着弾後、体内に残るように設計されている。そして再生を阻害する」
「撃たれたら再生しなくなるってこと?」
「ああ。それだけじゃない。猛毒だ。すぐに弾を取り除かなければ、裕くん、再生型の君でも数分で命を落とすだろうね」
高槻は淡々と、恐ろしい事実を突きつける。
「心臓は特に気をつけたまえ。そこにナノマシンの『核』があるからね。撃たれれば即死だ」
「俺たちを殺すための武器が、もう出回ってるんすね」
「女リーダーの仲間の潜伏先が判明した。T区の雑居ビルだ。必ず生かして確保してくれたまえ」
「……そんな危険な弾があるのに、俺たちが行くんですか?」
「当たり前だよ。普通の人間ならまず助からないからね」
「ところでアンナは再生しないの?」
「するよー!裕と比べたらだいぶ弱いけどね!」
◇
T区に辿り着いてもアンナいつも通りだった。
「T区って、おいしいものあるの?」
「ああ、お好み焼きの名店があるよ」
最後になるかもしれないしな……
俺たちは突入前にお好み焼き屋へ寄った。
「裕、そのケース、重そうだね」
「ショットガンだよ。アンナのは?」
「狙撃銃!」
考える事は一緒ってことか
「ねぇ、裕……」
店を出る際、アンナが真面目な顔で俺の服の裾を掴んだ。
「どうした?」
「……撃たれないでね。」
フラグを立った気がした。
◇
雑居ビル。
アンナを隣のビルに配置し、俺は建物の入り口に立った。
(どうやって突入するかな?)
俺は慎重に扉を開け、フラッシュバンを二個、室内に転がした。
――バァンッ!
炸裂音を確認し、突入。
怯んだテロリスト六人の足をショットガンで次々と撃ち抜く。
(ライフル持ちはいないか。……よし!)
『裕!後ろ!!』
アンナの悲鳴に近い警告。
咄嗟にしゃがみ込む。
――タァーンッ!
髪の毛を撫でるほどギリギリだった。
奥に、ライフルを構えた男がいた。
「ちょこまかと……!(中国語)」
男が次弾を装填する。俺は必死に飛び退いた。
(あれが対ナノマシン弾か……!)
装填の隙を突き、俺は近くの椅子を勢いよく投げつけた。
男は片手で弾いたが、その隙にライフルを蹴り上げた。
男の手からライフルが離れる。
俺はショットガンの銃口を向けたが、男は怯まなかった。
見事な中国拳法でショットガンを俺の手から叩き落とす。
互いに素手。
睨み合う。
拳銃を抜く隙さえ与えてくれない。
男が動いた。鋭い飛び蹴りが俺の顔面に突き刺さる。
鼻の骨が砕ける音がしたが、俺は構わず男を抱え上げ、床に叩きつけた。
決まった――と思ったと同時に男の手が俺の腰に伸びる。
効いてないのか男は床を転がりながら、いつの間にか奪っていた俺の拳銃を向けた。
(あ、俺の銃)
と思ったら
――パァンッ!
「いッッッ!!」
弾丸は俺の左脚を貫いた。
それとほぼ同時に、
ドンッ!!
ビルの窓を突き破って隣のビルからアンナの弾丸が男の脚を貫いた。
男が怯んだ一瞬を逃さず、俺は背後からその首を腕で絞め上げた。
歯を食いしばり必死に絞めた。
数秒後、男の体が力なく崩れ落ちる。
『裕!怪我は無い?』
「はぁ、はぁ……か、確保。……ナイス、アンナ。撃たれたけど治ったよ」
『対ナノマシン弾?!』
「いや、俺の拳銃奪われて撃たれただけ。大丈夫だよ」
『よかった……』
「博士、幹部の1人を確保しました」
『よくやった。回収班を向かわせる』
何にせよ、男は何か情報を持ってるはずだ。




