『初任務』
「要訓練だが、十分実戦で使えるな」
「リーダーさん、脚撃っちゃったけど、大丈夫でした? 」
普通なら歩けないほどの大怪我だ。
「そんなヤワじゃないさ。……早速だが、今日これから実戦だ」
「今日?!無理ですよ! 」
「命令だ」
有無を言わせぬと言った感じだった。
◇
今回の任務はアンナと警察の精鋭部隊との合同。
俺の役割は、テロ組織の幹部を単独で仕留めること。
「また単独か……」
アンナは屋外での狙撃援護、俺が屋内の制圧。
「さあ、出動だ。私も行くがね」
「え?博士も?」
「これでもベテランだからね。指示系統や武器の扱いは君より上手いよ」
◇輸送車に揺られながら現場へ向かう。
「初任務かぁ……不安だなぁ。帰りたい」
「裕、これあげる」
アンナが手渡してきたバッグには、様々な小道具が入っていた。
「これなに?」
「便利道具!」
ピリついた空気の中、アンナの明るい声が響く。
(声が大きいよ!)
周囲の隊員たちは歴戦!って感じだ。
ぶっちゃけ怖い。
「これより、テロ組織の隠れ家を壊滅させる」
隊長のブリーフィングが始まる。
「君は高槻博士のナノマシン兵だな。現場では私の指示に従え。地下の幹部を殲滅しろ」
「ナノマシン兵?」
「私たちの事だよ」
俺が聞くとアンナが答えた。
「おい、この娘が『死神』アンナか?」
ベテランそうな隊員が茶化すように聞いた。
「うん! アンナでいいよ!」
笑顔で答える。
こいつ明るいよな。
てか、死神?
「子供と冴えない兄ちゃんか……大丈夫かよ」
鼻で笑う隊員。
“嫌な奴”ってレッテル貼ってやる!
見てろよ、度肝抜かせてやるからな。
俺じゃなくて、アンナが。
「ナノマシン兵さん、光栄です。俺、佐藤って言います」
別の隊員が丁寧に挨拶してきた。
「あ、裕です。よろしく」
彼も初任務らしい。
少しだけ緊張が和らいだ。
だが、目的地が近づくと空気が一変した。
『そろそろ現場だ』
カチャッと弾を装填する音が一斉に響き渡る。
「裕、頑張ろうね!」
「……うん、頑張ろうね」
突入は一瞬だった。
ガシャァァン!!
と、輸送車がゲートを突き破った音と衝撃があり、慌てて掴まる。
輸送車が止まると皆飛び出し、隊員達が隠れ家を一斉に取り囲む。
俺は窓ガラスを割って侵入し、地下へと急いだ。
『クリア! 裕、あとはお願い!』
無線からアンナの声。
外の敵は片付けてくれたらしい。
(さすが、アンナ。殺したのかな……)
地下まで降りると奥に部屋があった。
『1人も逃がすな』
と高槻から無線が入る。
俺は覚悟を決め、拳銃のセーフティを外した。
(突入ってどうやるんだ?ハリウッドみたいに蹴破るのか?)
扉の前で、俺は少し考え……。
ノックした。
瞬間、猛烈な銃撃が扉を貫通した。
「……あぶなっ!」
扉の影に即座に隠れ、アンナに無線を入れた。
「アンナ!アンナ!突入ってどうやんの?!」
『停電させる?』
「俺も見えなくなるよ!」
『バッグに暗視ゴーグルあるよ!』
バッグを漁るとゴーグルが出て来た。
「これか?つ、着けたよ」
瞬間、照明が落ちた。
中の幹部は騒いでいる。
こっそりフラッシュバンを投げ込み……
大きな音を立て破裂した。
暗闇の中、フラッシュバンの閃光で5人の男たちが怯んでいた。
俺は拳銃を乱射して2人倒す。
3人目を倒したところで予備電源が入り、室内が明るくなった。
「この野郎!」
残りの幹部が銃口を向け乱射してきた。
「うおおお……!」
素早くソファーの陰に隠れる。
(怖えぇ……)
ソファーの中身が飛び散る中、弾が切れた。
(リロード……!リロード……!
ダメだ手が震えて、マガジンがなかなか入らない……!)
震えながら気合いでマガジンを叩き込み、4人目の首を撃ち抜く。
最後の1人は、手榴弾を投げて来た。
俺は慌てながら投げ返した。
ドォン!!
男は爆発に呑まれ、呻き声を上げる。
(助からないな……)
俺は介錯のつもりで5人目の頭を撃った。
俺は震える声で無線連絡を入れる。
「幹部5人倒しました!」
『リーダーを含めて6人のはずだ。探せ』
(まだいるのか……)
◇
奥の部屋。
ガタッという音にビビって反応し、俺は音のした方へ、無我夢中で発砲した。
だが、返って来たのは銃声ではなく――
「きゃあっ!!」
――女の子の悲鳴だった。
「誰だ!!出てこい!」
出てきたのは、十代後半くらいの女の子だった。
手には小さな果物ナイフ。
(人質か何かか?)
「大丈夫。リーダーを探してるだけだから大丈夫。落ち着いて、すぐ助けるからね」
俺は銃を収め、努めて優しく声をかけた。
「わ、私が、リーダーだ……!み、みんなをどうした!」
震える声で彼女は恐怖のあまりか、向けてる果物ナイフがガタガタと震える。
「君がリーダー?」
こちらが撃つ気がないとわかると、彼女はへたり込んだ。
落ち着かせて話を聞けば、今の政治への不満。
彼女の言っていることは至極真っ当だった。
「わかるよ。今の政権、俺も不満あるよ。治安は悪化の一途を辿ってるし」
「それで有志を募ってたら、いつの間にか担がれて……こうなっちゃったんです……」
俺は彼女をソファーに座らせ、冷静になったところで自己紹介をした。
「――そうそう、俺は裕。改造人間・不死身男だよ」
俺は握手を求めた。
「何ですかそれ?」
彼女は少しだけ、くすりと笑った。
「私は――」
彼女が手を差し伸べ名乗ろうとした瞬間。
パンッ!
という乾いた音が響いた。
目の前で、彼女の額に穴が空く。
崩れ落ちる体。
「……え?」
スローモーションに見えた。
彼女を支えたが、もう息絶えていた。
後ろを見ると銃を構えた佐藤が立っていた。
俺は佐藤の胸ぐらを掴み、壁へ押し付けた。
「……なんで撃った!!」
「命令でしたので」
キョトンとした顔で、佐藤は言った。
「命令……?」
俺の力は、すっと抜けた。
「リーダーを始末しました」
と無線を飛ばし、佐藤はそのまま本隊へと戻っていく。
◇帰りの車内。
戦功を誇り合う隊員たちの声が、ひどく遠く感じられた。
「裕、怪我ない?」
「……あっても治るよ」
アンナの心配にも、素っ気なく返してしまう。
「おい裕、見直したぜ」
さっきの嫌な奴が話しかけてきた。
「……タバコ、ある?」
不機嫌に言ったが、
一本貰い、火をつけてもらう。
「殺した相手のこと、覚えてる?」
「初任務の頃はな。夢にも出てくる。……いい面構えになったじゃねぇか。俺は菊池ってんだ。」
「……覚えとくよ。タバコ貰ったから」
この日のタバコは血のような最悪な味だった。
「裕さん!流石です!地下降りたら幹部全員倒してあるんですもの!」
佐藤も話しかけて来た。
「……君も女の子によく引き金引けたね」
◇
家に戻っても、あの少女のことが頭から離れなかった。
あの時、何て名前を言おうとしたのか?
結局、聞けず終い。
その夜から夢を見た。
少女と理想の日本について楽しく語り合う。
だが、彼女が名乗ろうとする瞬間に、必ずあの乾いた音が響く。
汗だくで目を覚ますと、鼻を突く血と硝煙の臭い。
俺は、トイレで吐いた後、またシャワーへと向かった。
臭いは洗っても洗っても落ちなかった。




