『戦争の英雄』
激痛の中、転がりながら素早く立ち上がり、振り向く。
そこには一人の巨人が立っていた。
2メートルは優に超えている。
ボスや王をも凌ぐ巨体。
巨人は鉄の棒を手に、音もなく襲いかかってきた。
俺はすかさずショットガンを構えた――が、次の瞬間、巨人の姿が掻き消えた。
「――っ!?」
瞬間移動。その言葉がピッタリだった。
「アンナ! 背中合わせだ!」
「う、うん!」
俺とアンナは背中を預け合い、取り回しのいい拳銃に持ち替える。
――パンッ!
アンナの発砲音。
「ヒット! ……でも致命傷じゃない! 肩に当たったよ!」
「ナイス!」
直後、今度は俺の目の前に巨人が現れる。
狙いを定める暇もなく乱射したが、弾丸が空を切るより早く、奴は再び瞬間移動で逃げ去った。
(次はどこから来る……!?)
そう身構えた瞬間、奴は頭上に現れた。
鉄棒の一撃が俺の頭部を直撃し、再び地面に叩きつけられる。
「裕!!」
叫びながらアンナが発砲するが、またしても消えた。
脳へのダメージで激しい吐き気に襲われ、胃液をぶちまける。
間髪入れず巨人が現れ、さらに頭を殴打された。
血と脳漿が飛び散る。
ナノマシンが泡立ち、急速に再生していくが、意識を保つのがやっとだ。
懐に入り込んだ巨人が、今度は鉄棒を俺の胸に突き立てる。
肋骨が何本も折れる嫌な音が響くが、即座に治る。
(俺をまず最初に殺す気だ。このままじゃ……一方的に削り殺される!)
がむしゃらに前方を撃つが、手応えはない。
「ぎゃっ!」
今度はアンナの頭を殴打する音がした。振り向きざまに数発撃つ。
微かな手応え。
巨人の腕を掠めた。
「アンナ! 大丈夫……」
言いかけた刹那、背後から鋭利な刃物が俺の体を貫いた。
いつの間にか俺のナイフを奪い、背後から刺してきたのだ。
「裕、ごめん!」
「え?」
アンナが謝りながら、俺ごと後ろの巨人を撃ち抜いた。
弾丸は俺を貫通し、巨人の胸や腹部に着弾する。
俺は吐血しながら、恨めしげに言った。
「お前、鬼か……」
「裕、ごめん。これしか思い浮かばなくて」
アンナは「てへっ」と可愛く舌を出したが、こっちは蜂の巣にされるからね。
とんでもない女だ!
巨人は致命傷を避けつつもダメージを負ったのか、消えながら出口の方へと逃げ去っていった。
アンナに撃たれた銃創が塞がるのを待ち、俺がリンの方へ向き直った時、そこにはもう誰もいなかった。
「……負けたな。リンは目的を達成して逃げてった」
「オリジナルの対抗策も、考えないとね……」
静まり返った収容所に、俺たちの荒い呼吸だけが響いていた。
◇研究所に戻り、高槻に今回の顛末を報告した。
「今回もまんまとやられたね。リンはこれでオリジナルのチームを作ることができる。やはりオリジナル相手となると、こちらが不利だな」
「ええ、二人がかりで何とか撃退しましたが……」
「強かったー……」
アンナが深くため息をつく。
ナノマシン兵である俺たちを子供扱いする力。
それが本物の“オリジナル”の力だった。
「協力は期待できないが……君の“オリジナル”に会ってみるかね?」
「俺のオリジナル? 収容所にいたんじゃないんですか?」
「てことは、再生能力の……?」
「ああ。第二次世界大戦の英雄でね。軍を退いてからは隠居しているよ」
「ジジイじゃないですか!」
第二次世界大戦と言ったら、今から100年も昔だ。
まだ生きているのが不思議なレベルだ。
「彼を見たら、そうも言えなくなるよ。私が行ったら殺されかねないからね。君が適任だ。まぁ、ダメ元で会ってみる価値はある」
「場所はどこですか?」
「C区だ。無類の酒好きでね、飲み屋にいるだろう。これが写真だ」
見せられた写真には、どう見ても30代に見える精悍な男が写っていた。
「昔の写真ですか?」
「10年前の写真だが、今も見た目は変わっていないはずだよ」
◇都心・C区
「裕ぁ、C区の美味しいお店は?」
「ああ、二郎系が……って、そうじゃなくて飲み屋を探そう。アンナはいつも食べ物のことばっかりだな」
「いいね! 飲み会!」
「あ、でもアンナ飲めるの? 店ではジュースにしとけよ」
「ねー!背が低いからって子供扱いやめて!」
「あはは、じゃあ適当に入るか」
一軒の居酒屋に入り、生ビールを二つ頼む。
「はい、生二つ!」
「あ、すいません。この人、見覚えありますか?」
店員に写真を見せると、あからさまに顔を引きつらせた。
「あ、ああ……この人! ウチは出禁だよ。店で大暴れしたから。弁償させようとした店長まで殴られて大変だったんだから」
どうやら相当に血の気の多い人らしい。
「どの辺で会えるか知ってますか?」
「表通りの店は全部出禁だって噂だからね。裏通りの、もっとヤバい店にいるんじゃないかな」
「ありがとう。」
「あと、焼き鳥の盛り合わせもちょーだい!」
一頻り飲み食いした後、俺たちは裏通りへと向かった。
「裕ぁ、C区の裏通りは治安悪いから気をつけなよ」
――ガシャアアアンッ!!
景気よく飲み屋のガラス扉を突き破って、男が一人転がり出てきた。
「……みたいだね」
転がった男は白目を剥いて気絶している。
店内を覗くと、俺と同じくらいの背丈の男が立っていた。
だが、筋肉の密度が違う。
写真の通り、全く老けていない――ヒロシだ。
ヒロシは倒れた男を一瞥すると、興味なさそうにカウンターに戻って飲み直し始めた。
「いきなり居た!」
「なんか、見るからに危なそうな人だね……」
「声を掛けてみよう。……あの、ヒロシさんですか?」
「お前らは?」
低い腹に響く声。
「俺は裕です」
「アンナだよ! 警察だよ!」
アンナが身分証を突き出した。
「消えな、ガキ共」
ヒロシは一蹴して酒を煽る。
「話だけでも……」
食い下がろうと彼の肩に手を置いた。
――それがマズかった。
次の瞬間、視界が回転した。
俺は鮮やかに投げ飛ばされ、気づけば腰のナイフを奪われていた。
「裕! 止まれ!」
アンナが慌てて拳銃を構える。
「争いなら外でやってくんな」
店主や他の客は慣れているのか、騒ぎもせずに普通に飲み食いしている。
なんだこの店。
「撃ってみな。そんな玩具、俺には効かん」
「……じゃあ、これは?」
俺は至近距離からヒロシの股間を膝蹴りした。
直後、ヒロシの目が獣のようにギラついた。
彼は激怒し、俺の襟首を掴んで店の外へと放り投げた。
凄まじい怪力だ。
「アンナ! 手を出すな!」
地面に転がりながら叫ぶ。
ヒロシがゆっくりと店から出てくる。その全身から、震えるほどの威圧感が溢れ出していた。
「坊主……覚悟は出来てんだろうな?」




