『格の違い』
(すげー怒ってる……。立ってるだけで威圧感が半端ない)
ヒロシは奪った俺のナイフを逆手に持ち、迷いなく襲いかかってきた。
俺はすかさず、カウンターでヒロシの膝に蹴りを入れた。
ゴキッ!
と鈍い音が響いたが、奴は顔色一つ変えずに即座に完治させ、そのまま俺の太腿を深く刺し貫いた。
「大腿動脈だ。死にたくなかったらさっさと病院へ行くんだな、お嬢ちゃん」
「お嬢ちゃん……!? 俺は男だ!」
俺は激痛を堪えてナイフを引き抜くと、ヒロシの脚に刺し返した。
「小僧……ナノマシン兵か? なら遠慮はいらねぇな」
そこからは一方的だった。殴っては引き起こされ、蹴っては引き起こされ、柔道の投げで地面に叩きつけられたかと思えば、壁に頭を何度も打ち据えられる。
脚にナイフが刺さったまま、俺は文字通りボッコボコにされた。
――パンッ!
見かねたアンナがヒロシの頭を撃ち抜いた。だが、銃創は泡立つ暇もなく瞬時に塞がる。
再生速度は俺とは比較にならない、異常な速さだ。
ヒロシはアンナの方へ向き直ると、ツカツカと歩き出した。
アンナは焦り、頭、心臓、肝臓、股間と、弾切れになるまで連射した。
だが、ヒロシは歩みを全く止めない。
痛みを感じていないのか?
ヒロシはアンナの手から拳銃を掴み取ると、鉄屑のようにひしゃげさせた。
「こんな玩具じゃ効かねぇと言ったろ?」
「死ねぇ!」
ガコッ!
俺は後ろから、落ちていたコンクリートブロックでヒロシの後頭部を全力で殴打した。
ブロックは粉々に砕け、ヒロシも血を吹き出したが、奴は脚に刺さっていたナイフを抜くや否や、俺の喉元へ刺し返した。
「っが……あ……!」
喉を焼くような激痛。
ナイフを抜こうと手を伸ばすが、そのまま顔面を殴り飛ばされた。
「裕! この!」
銃を失ったアンナが、後ろからヒロシの背中をペチッと殴る。
ヒロシは鬱陶しそうに振り向くと、アンナの顔を片手で掴み、俺の方へ向かって放り投げた。
「きゃっ!」
アンナが小さな悲鳴を上げて俺の上に重なる。
「帰んな。次は……遊びじゃ済まさん。心臓を狙うぞ」
「は、話ぐらい……聞いてくれてもいいだろ……!」
喉の傷を必死に塞ぎながら食い下がるが、ヒロシは一瞥もくれなかった。
「帰れ」
そう吐き捨て、彼は平然とした足取りで飲み屋の中へと戻っていった。
◇
ヒロシに完膚なきまでに叩きのめされた後、息をつく暇もなく高槻から通信が入った。
『これからすぐにB区に行ってくれ。オリジナルが暴れていて、現地の警察が手を焼いている』
「了解……。アンナ! 行こう、事件だ!」
「う、うん……でも、負けた直後だからなんか自信ないよ……」
◇B区
急行すると、そこは地獄絵図だった。街には台風のような風が吹き荒れ、上空では一人の“オリジナル”が上空に滞空していた。
周囲の警官隊は、パトカーごと吹き飛ばされてほぼ全滅状態だ。
「この台風……あいつの能力か」
「撃ち落とすね!」
アンナは迷いを振り払うように狙撃銃を構え、引き金を引いた。
――ドンッ!
重厚な発砲音。
だが、着弾の直前に突如として竜巻が発生し、弾道は無慈悲に逸らされた。
「当たらなかった!」
「天候を操るのか……!」
俺はショットガンを握りしめ、オリジナルを地上から引きずり下ろすべく走り出した。
しかし、奴は俺の接近を許さなかった。
「……邪魔」
オリジナルが手をかざした瞬間、猛烈な突風が俺の体を掬い上げる。
「お、おおぉぉー……!」
情けない声を上げながら遥か上空まで放り出され、そのままコンクリートの地面に叩きつけられた。
「うぐっ……このっ!」
やけっぱちでショットガンを乱射する。
だが、オリジナルは近くにあった乗用車を風で操り、盾にすると同時にそのまま俺目掛けて投げつけてきた。
(ヤバい! 死ぬ!)
必死に横へ跳んだが、回避が間に合わず下半身が車の下敷きになる。
「ぐあああああ!!」
下半身がめちゃくちゃに砕け、ナノマシンが泡立ちながら再生を開始する。
だが、追い打ちをかけるようにオリジナルが空を指差した。
直後、空から雷光が降り注ぐ。
「ぐあッ?!」
ドンッ!
音が後から鳴り響き全身に鋭い激痛と衝撃が走り、その場に崩れ落ちた。
アンナが再び狙撃を試みるが、風で操られたブロック塀が盾となり、弾丸を弾き返す。
「逃がさないわ」
オリジナルが手を払うと、そのブロック塀が物凄い速度でアンナへと叩きつけられた。
(ヤバい、モロだ!)
「アンナぁーー!!」
叫び、駆け寄ろうとするが、体が言うことを聞かない。
必死に這い進む俺の前に、再び竜巻が立ちふさがる。
風圧の刃に全身をズタズタにされ、またしても地面に転がされた。
そこへ追い打ちの雷撃。
意識が飛びそうになるのを必死に繋ぎ止めたが、全身が痺れて指一本動かせない。
ナノマシンのコアごと焼かれたのか、自慢の再生能力すら鈍っている。
それでも這いながらアンナの元へ向かおうとする俺の前に、オリジナルがゆっくりと降りてきた。
まだ若い女だ。
女は靴の先で俺の顎をしゃくり上げた。
「……ナノマシン兵ね。あんたが裕?」
「そ、そうだ……。足をどけろよ……!」
震える声で虚勢を張る。
正直死ぬほど怖かった。
「ふうん」
女はゴミを見るような目で俺を値踏みし、サディスティックな笑みを浮かべた。
「再生が全然追いついてないわねぇ? 惨めなものだわ」
俺は最後の力を振り絞り、目の前にある女の足首にガブリと噛み付いた。




