『勧誘』
ミナの事件が終わったあと、何とも言えない後味の悪さを抱えながら、俺とアンナは日常に戻っていった。少しずつ、少しずつ……
◇数週間経った、昼のファミレス。
多くの家族連れで賑わい、子供が走り回っていた。
「……で、そこで雪崩式ブレーンバスターを決めたあとでね。」
「雪崩式?もー、いつもプロレスの話ばっか!」
俺はアンナと昨日のプロレスの話をしていた時に、その“女”は静かに。
気配もなく現れた。
「相席いいかしら?」
「え?あ、はい。どうぞ」
サングラスを取ると、見た事があった。
ーー女リーダーだ!
「お前は!!」
俺とアンナは反射的に拳銃に手が伸びる。
「やめておいた方がいいわ。張が遺した爆弾がまだあるわ」
そう言って、起爆スイッチを見せた
「とりあえず座りなさい」
「……くっ。」
俺は拳銃から手を離し座った。
店員がオーダーを聞きに来る。
「コーヒー。ブラックで」
その声は不思議なほど落ち着いていた。
「裕とアンナね?」
「なんでこんな所にいるんだ……?」
「ミナを殺したわね?」
「……彼女が望んだんだ…」
「オリジナルの話は知ってるわね?」
「……知ってる」
「そう、私の目的は表向きは世直しのため。最近治安も良くなってきたでしょう?」
確かに最近政権が代わり治安は少し回復してきていた。
「表向き?」
「本来の目的はオリジナルの解放よ。」
「お前もオリジナルか?」
「さあね」
「解放してどうする?戦争でも起こすのか?」
「それもいいわね。」
「裕!逮捕しよう!」
「やめた方がいいって言わなかったかしら?」
「…アンナ、よせ」
「賢明ね」
「お前はナノマシン兵か?」
「どうかしらね」
そう言ってコーヒーに口をつけた。
「なんで俺たちの前に現れた?」
「そうね。私たちの仲間がたくさんやられたから、補充よ。私と組まない?」
「断る。テロリストに加担しない」
「そっちの貴女は?」
「私も加担しない!」
「……そう。やっぱり『出来損ない』ね。弱点だらけの欠陥品だわ。少しは自分で考えたらどう?」
「出来損ないだと」
「ええ、オリジナルに到底及ばない出来損ないよ。じゃあ私は帰るから10分はこの店にいてもらおうかしら、もし10分以内にここから出たら爆破するわ。」
そう言うと女は立ち上がった
「待て!……名前ぐらいは答えてもいいだろ?」
「そうね……リンとでも名乗ろうかしら」
それじゃあ、と女リーダー……いや、リンは店から出た。
なんてプレッシャーだ。
冷や汗が止まらない。
「裕、いいの?」
「うん、博士に爆弾処理班を送って貰えるように頼んでおいて、俺は捜査班にこのことを伝えてやつを確保してもらう」
爆弾処理班が来たが爆弾は仕掛けられていなかった。
ただ、実際仕掛けていてもおかしくない……そう思わせる凄みが、彼女にはあった。
◇
リンを捜索していた捜査員3人が行方不明になった。
状況からして、おそらくだけど、リンの手にかかったのかも。
俺は研究所に戻り、高槻にファミレスで起きた事を話した。
「博士、女リーダーの目的がわかりました。オリジナルの解放だそうです。名前はリンと名乗っていました」
「そうか。ならば、我々の管轄外だな」
高槻は表情一つ変えずに言った。
「何でですか?」
「オリジナルは日本軍の管理下、特殊な収容所に囚われている。警察の権限など及びもしない場所だよ」
ミナが壊されたところか、と心がざわついた。
「警護につけますか?」
「君たちが軍人にでもならない限り無理だ」
「あーあ、せっかくの手がかりだったのになぁ」
アンナが肩を落としてため息をつく。
「なら、収容所施設の“外”で張り込むのはどうかね?」
「えっ、場所を教えてもらえるんですか?」
「ああ、君たちにならいいだろう。これでも、それなりに信用しているんだよ」
「え? 信用してくれてた? モルモットじゃなかったの?」
思わず本音が出た。
トカゲ野郎の癖に、妙に物分りがいい。
「私は自分も含めた命は平等に扱う主義でね。それに……」
「それに?」
「モルモットは可愛いだろう?」
高槻は冷たい笑みを浮かべた。絶対、俺の想像してる“可愛い”とは意味合いが違うんだろうな。
冷血トカゲ男の思考は一般人の俺には分からない。
「それで、場所はどこなんですか?」
「K区だ。……何かと因縁があるね」
王と戦った、K区。
◇K区
日本軍基地は想像以上に広大だった。リンが現れるなら、収容所のある東側だろう……そう踏んで張り込みを続けて数日。
「来ないねぇ、今日もハズレかなぁ」
「でもここで張ってれば、いつか必ず現れるさ。……たぶん、おそらく…だったらいいな」
自信なく、そう言った直後だった。目の前の巨大な壁が、
――ドォォォォン!!
凄まじい轟音と共に爆発した。至近距離にいた俺たちは、熱風と爆風に煽られ派手に吹き飛ぶ。
けたたましい警報が鳴り響き、瓦礫の隙間から囚人服を着た男たちが散り散りに逃げ出していく。
「アンナ! 大丈夫か?!」
「なんとか! それより見て、囚人? 捕虜? みんな逃げてくよ!」
「リンは……リンは出てきたか?!」
俺はケースからショットガンを取り出した。
「わからない! スモークが濃くて見えない!」
アンナも素早く狙撃銃を構える。
「行くぞ!」
「うん!」
俺とアンナは収容所内に飛び込んだ。
◇
収容所の奥へと踏み込むと、そこには地獄を煮詰めたような異様な光景が広がっていた。
鎖に繋がれて狂ったように暴れる者、
虚空を見つめて指をくわえ続ける者、
ブツブツと支離滅裂な独り言を呟く者。
ここにある“命”は、すべて壊れていた。
「ところどころ、檻の中が空だ。逃げ出した形跡があるな」
「遅かったのかな? あの壁の爆発は、こっちから注意を逸らすための陽動?」
「そうかもな……クソッ」
内部の静寂が逆に不気味だった。
その時、アンナが息を呑み、前方の通路を指差した。
「待って! あそこ!」
その先に、あの女――リンが立っていた。
「動くな! 逮捕する!」
俺がショットガンを構え、アンナがスコープを覗く。
「 どこにも逃げられないよ!」
だが、リンは動じるどころか、薄く冷たい笑みを浮かべた。
「あら、遅かったわね」
彼女の視線の先には、すでに破壊された重厚な隔壁があった。
「もう少しお話ししてあげたかったけれど。残念ながら、あなたたちに構っている暇はないの。」
「何を――」
言いかけた瞬間だった。
背後から、何者かに殴打された。
――ガツッ!!
「ぐあぁっ……!」
物凄い怪力で殴り飛ばされ、受け身も取れず地面に叩きつけられた。




