『オリジナル』
研究所に戻ると、高槻博士が瓦礫の中で淡々と事後処理を進めていた。
「二人とも、よく戻ったね」
「戻れたのは奇跡ですよ。……あの子、飛んで行っちゃいました。散々弄ばれました」
「怖かった……」
アンナはまだ肩を震わせている。
俺の腕はようやく指先まで形を成したが、まだ感覚が鈍い。
「博士……あの子はナノマシン兵なんですか?」
「いや、人間だ。ただ、超能力を持っていてね。それを研究していたんだ。急に超能力が強大になって……。最近は大人しかったから油断していたよ」
「弾丸は全部弾かれました。あんなの、どうしようもない」
「普通の……人間?」
「普通とは違うな。“超人”というやつだよ。世の中には人知を超えた能力を持つ者が極稀にいてね。それを研究して、人為的に再現しようとしたのがナノマシン兵だ。つまり、彼女たちは“オリジナル”なのさ」
「超人……?」
俺は聞き返した。
「ああ。ナノマシン兵には色んなタイプがいるだろう?」
「基本は不死身で、俺は再生特化。アンナは狙撃特化……」
「それは超人たちの特性をモデルにしているんだよ。基本の不死身さは、高密度のナノマシンを維持するための副産物のようなものだ」
「でも、テロリストや王にはそんな特性はなかったよ」
アンナの問いに、博士は冷淡に答える。
「それは旧式だからだよ。、あるいは中国がそこまでの技術を有していなかったか。君たちはそれらとは一線を画す最新型なんだ」
「つまり……俺たちにも、モデルになったオリジナルがいるってことですか?」
「その通りだ。ここに君たちのオリジナルはいないがね」
「あの実験体の少女も、ずっと研究されてたんですか?」
「ああ。軍での研究が行き詰まったらしくてね。ナノマシン技術の第一人者である私の元へ回ってきたわけだ」
人体実験――。俺の脳裏にその言葉が浮かぶ。
あの幼い少女がどんな地獄を見てきたのか。
俺は実験体に同情すると同時に、軍や目の前の高槻博士に対して、拭いきれない強い不信感を抱いた。
俺たちも、結局は同じ「道具」でしかないのだ。
「ともかく、正面からの攻撃は無理だね。実験段階の武器をあげよう。それを使って、意識外からの狙撃で倒してくれ」
◇
武器を渡すと連れてこられたのは、武器庫でも研究室でもなく、地下駐車場だった。
「駐車場? 武器じゃないんですか?」
「ああ、武器だ。レールガン(超電磁砲)なんだが、構造上小型化が難しくてね。辛うじて車両サイズにできたんだよ。威力は折り紙つきだ」
そこには、無骨な装甲車のような車両の荷台に、巨大な砲身を据え付けた異様な兵器が鎮座していた。
「これがレールガン? 私がいつも使ってる狙撃銃よりずっと大きい。それに、なんか太いコードが付いてるよ」
アンナが驚きを隠せずに砲身をなぞる。
「ああ、やたらと電気を食うからね。車載バッテリーだけでは心許ない。これでダメだったら、いよいよ人類の手には負えないな」
巨大な殺戮兵器を前にして、俺のうしろめたい感情が広がる。
「博士。あの実験体の子……説得できないですか?」
「無理だろうね。能力を引き出すために軍が薬漬けにしていたから。実験体に自我が残っていることすら怪しい」
薬漬け。
自我が残らない。
そんな言葉が重くのしかかる。
「そう……ですか。でも、一度だけ試させてもらえませんか?」
「う、うん。私も……正直、あんな小さい子を撃ちたくないかも」
アンナも俺に同意するように、不安げに頷いた。
「……わかった、いいよ。やってみたまえ。ただし決裂したら合図を送りなさい。その時はアンナくん、君がレールガンを撃つんだ」
「ありがとうございます」
「では、行くか」
「場所、わかるんですか?」
「ああ。実験体に何があってもいいように発信機が埋め込まれている。追跡しよう」
(発信機まで……)
発信機を調べると、実験体は驚くべき速度で移動し、すでに隣のC県まで到達していることがわかった。
俺たちは例の特殊車両に乗り込み、北へと向かった。




